SAKURA法律事務所は、このたび、当事務所所属の金山直樹弁護士による論考「契約締結補助者論を振り返って―(3・完)全国で同時多発訴訟を!―」が、『消費者法ニュース』第148号(2026年7月)の「学者の目」に掲載されましたので、お知らせいたします。
金山直樹弁護士は、慶應義塾大学名誉教授として長年にわたり民法学の研究及び教育に携わるとともに、パリ国際大学都市・日本館館長を務め、現在は弁護士として法律実務にも取り組んでいます。本論考は、金山直樹弁護士が長年にわたり研究を重ねてきた「契約締結補助者の理論」を振り返る一連の論考の最終回に当たり、フランス民法における契約の相互依存関係をめぐる法理の展開を確認した上で、契約締結補助者の理論を現実の詐欺被害者の救済にいかに結び付けていくべきかについて、研究者及び実務家の双方の視点から論じるものです。
本論考の前半では、2016年のオルドナンスによるフランス債務法改正により、誠実交渉義務、情報提供義務及び事情変更に関する規定が新設されたことに触れた上で、複数の契約が一つの取引目的の実現のために相互に結び付いている場合の法律関係を規律するフランス民法典第1186条について検討しています。金山直樹弁護士は、同条の基礎となったフランス破毀院判例や、その後の判例の展開にも触れながら、契約の相互依存関係という考え方が、個人主義的な古典的契約観からの脱却を示す重要な法的展開であると評価しています。
その一方で、本論考は、契約の相互依存関係という理論にはなお限界があることを明確に指摘しています。すなわち、同理論は複数の契約が存在することを前提とするため、第三者による不当な勧誘等の事実行為が原因となって単一の契約が締結された場合には適用することができません。また、その法的効果が契約の失効にとどまるため、たとえば消費貸借契約が失効したとしても、借主には清算義務が残り得るという問題があります。金山直樹弁護士は、これらの限界を乗り越えることのできる理論として、自らが提唱してきた「契約締結補助者の理論」を位置付けています。
本論考において、とりわけ重要なのは、こうした理論的検討を、現実の裁判実務における被害救済へとつなげようとする明確な姿勢が示されている点です。
金山直樹弁護士は、2026年3月31日、3年間務めたパリ国際大学都市・日本館館長を退任して帰国し、日本における弁護士業務を再開しました。本論考では、今後、裁判所において「契約締結補助者の理論」を掲げ、詐欺被害者のために取り組んでいきたいとの考えを明確にしています。他方で、過去に同理論を展開した意見書を提出したものの、裁判所に受け入れられなかった経験にも触れ、その教訓を踏まえた上で、今後の実務上の戦術を改めて検討する必要があると論じています。
その上で、金山直樹弁護士が具体的な方策として提唱しているのが、同種の事件について全国各地の裁判所で訴訟を提起する「同時多発訴訟」です。
本論考では、日本において立法によって民法そのものを動かすことには容易でない面があるとの認識を示しつつ、基本法である民法を現実の被害実態に即して発展させるためには、詐欺被害の最前線に立つ弁護士及び司法書士が積極的に先導し、裁判実務を通じて法の形成を促していく必要があるとの問題意識が示されています。そして、そのための有力な戦術として、全国の裁判所において同種の訴訟を展開する「同時多発訴訟」が提示されています。
金山直樹弁護士は、その有効性を考える上で、不法行為責任における20年の期間制限をめぐる最高裁判例と、その後の裁判実務の展開を取り上げています。最高裁判所がかつて構築した除斥期間の考え方が、じん肺事件、痘そう接種事件、水俣病事件、B型肝炎事件等を通じて次第に修正され、最終的には優生保護法事件において大きな転換を迎えたことに言及し、その背景には、被害者弁護団が全国で展開してきた一連の訴訟があったとの見方を示しています。金山直樹弁護士は、この経過を踏まえ、「同時多発訴訟が裁判所を動かし、民法が変わった」と論じています。
また、本論考では、裁判官一人ひとりが独立した司法権の担い手であることにも着目しています。同種の事件が全国の裁判所に係属することにより、それぞれの裁判官が他の裁判所における判断を意識し、自らの責任においてより良い判断を示そうとする契機となり得るとの観点から、全国的な訴訟展開が裁判実務に与える影響について論じています。
さらに、金山直樹弁護士は、判決を単に裁判所名、判決年月日及び出典によって引用するのではなく、担当裁判官の氏名を明らかにして論評することにも意義があるとの考えを示しています。判決文を書くのは抽象的な「裁判所」ではなく、一人ひとりの裁判官であり、その判断について個人としての自覚と責任を促すことが、より良い司法判断につながり得るとの問題意識に基づくものです。
こうした議論の根底にあるのは、日本国憲法第76条第3項が定める裁判官の独立に対する金山直樹弁護士の考えです。本論考では、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ……」という憲法上の原則に改めて立ち返り、ここでいう「良心」を、個々の裁判官の内面に宿る正義感として捉えています。そして、先例に機械的に従うのではなく、自らの良心に従い独立して判断する裁判官こそが、法の発展を支える原動力となるとの考えが示されています。
本論考の終盤では、現在の消費者被害における喫緊の課題として「情報商材詐欺」が取り上げられています。
金山直樹弁護士は、情報商材詐欺の場面において、被害の発生及び拡大に消費者金融が関与している場合があるとの問題意識を示し、被害者を実効的に救済するためには、情報商材業者による詐欺を理由として消費者金融との消費貸借契約の取消しを認めるだけではなく、借入金の返済義務そのものを否定することが必要となる場合があると論じています。そして、その実現には高い法的ハードルが存在するからこそ、その困難を乗り越えるための理論的な「武器」として契約締結補助者の理論を位置付け、その理論を現実の裁判実務において展開するための「戦術」として同時多発訴訟を提唱しています。
本論考の結びでは、全国の弁護士及び司法書士に対し、詐欺被害者の救済と正義の実現のため、ともに取り組むことを呼びかけています。これは、契約締結補助者の理論を学説として提示するだけではなく、現実の事件における被害救済のために活用し、その積み重ねを通じて裁判実務、ひいては民法そのものの発展につなげようとする、金山直樹弁護士の実務家としての強い問題意識を示すものです。
本論考は、民法上の理論を抽象的に論じることにとどまるものではありません。現代の消費者取引及び詐欺被害の実態を踏まえ、既存の法理論によって十分な救済を実現することが難しい場合に、研究者として構築してきた理論を実際の訴訟においてどのように活用し、司法判断及び法理論の発展につなげていくべきかを正面から問いかけるものです。
SAKURA法律事務所は、法律実務と法学研究とは相互に切り離されたものではなく、現実の事件から生じる問題意識を理論的に掘り下げ、その成果を再び実務へと還元していくことが、質の高いリーガルサービスの提供と法曹実務の発展につながるものと考えております。
当事務所においても、金山直樹弁護士が長年にわたり培ってきた民法学に関する研究成果と、弁護士として現実の事件に向き合う実務とを結び付け、既存の理論や実務では十分に解決することのできない法的課題について、理論と実務の双方から検討を深めてまいります。
また、当事務所が設置するSAKURA法学舎においても、法律実務と法学研究との架橋を重要な理念の一つとして掲げ、研究者、弁護士その他の実務家による研究、討議及び情報発信を継続してまいります。
SAKURA法律事務所は、今後も、所属弁護士による研究、執筆、講演その他の学術活動を積極的に支援するとともに、その成果を現実の法律実務へと還元することを通じて、依頼者の皆様に提供するリーガルサービスの一層の高度化と、法曹実務及び法学研究の発展に貢献してまいります。