SAKURA法律事務所
道下 剣志郎
Kenshiro Michishita
このたび、SAKURA法律事務所は、法律実務の現場から法のあり方を問い直し、理論と実務をより深く結びつけるための研究と討論の場として、SAKURA法学舎を設立することとなりました。
SAKURA法律事務所は、日々、依頼者の皆様から寄せられる具体的なご相談、交渉、訴訟、契約、企業活動に関する課題に向き合っています。法律事務所の使命は、何よりもまず、目の前の依頼者の利益を守り、具体的な紛争を解決し、依頼者が置かれている困難な状況に対して、実務上最善の方策を示すことにあります。しかし、実際の事件や相談に真剣に向き合えば向き合うほど、個別の事案の背後には、既存の法制度、判例、実務慣行、契約実務、取引構造そのものに関わる、より大きな問題が潜んでいることを痛感します。
法律実務は、単なる事件処理ではありません。依頼者のために最善を尽くす過程において、私たちは、現実の社会で何が起きているのか、どのような不利益が見過ごされているのか、既存の法理や裁判実務がその問題に十分に応答できているのかを、常に問われています。法が社会の現実に十分に届いていない場面に直面したとき、法律家が既存の説明をなぞるだけで思考を止めてしまえば、依頼者の救済も、法そのものの発展も、十分には実現できません。
私は、SAKURA法律事務所の代表弁護士として、当事務所が日々の実務に誠実に取り組むだけでなく、その実務から得られる問題意識を理論へと高め、より深い法律論を構築し、社会に対して知的な貢献を行う法律事務所でありたいと考えてまいりました。実務の現場には、法律学を前進させる契機があります。具体的な事件、依頼者の切実な声、取引の緊張、訴訟における主張立証の困難、契約書の一文に潜む不均衡、交渉の過程で現れる力関係の差異。そうした現場の一つひとつを丁寧に見つめることによって、法律家は、机上の議論だけでは到達し得ない問題を発見することができます。
一方で、実務の経験だけに依拠する法律論は、ともすればその場限りの判断に流れ、十分な普遍性や説得力を持ち得ない危険があります。裁判所に届く主張を構築し、依頼者の利益を真に守り、同時に社会的にも意味のある解決を導くためには、条文、判例、学説、制度趣旨、比較法的視点、歴史的文脈を踏まえた精緻な理論的検討が不可欠です。理論の裏付けを欠いた実務はもろく、実務の現実を見失った理論は空虚です。だからこそ、SAKURA法律事務所の中に、実務と理論が互いに照らし合い、問い直し合う場を設けることには、大きな意味があると考えています。
SAKURA法学舎は、そのような問題意識から生まれたものです。これは、単なる勉強会や研修制度ではありません。また、法律事務所の広報上の企画でもありません。SAKURA法学舎は、現実の紛争に最も近い場所の一つである法律事務所が、自らの実務を深く省み、より確かな理論に支えられた実務を築き、同時に、実務の現場から法理論に対して新たな問いを投げかけるための継続的な場です。私たちは、この場を通じて、依頼者のために戦う力をさらに高めるとともに、法そのものをよりよいものへと発展させるための知的基盤を築いていきたいと考えています。
このSAKURA法学舎の初代所長には、金山直樹弁護士をお迎えいたしました。金山直樹弁護士は、長年にわたり民法学、比較法、契約法、時効法を中心に研究と教育に携わり、慶應義塾大学名誉教授として、多くの研究者及び法律家を育ててこられました。また、フランス法を基軸とする比較法研究、国際取引、仲裁、契約責任をめぐる研究において深い学識を積み重ねられ、さらに弁護士として実務にも関与されています。研究者としての厳密な視座と、実務家として現実の事件に向き合う姿勢の双方を備えた金山直樹弁護士を初代所長にお迎えすることは、SAKURA法学舎の理念そのものを象徴するものです。
私にとって、金山直樹弁護士は、法律家として深く尊敬する先生であり、法をどのように考え、どのように発展させ、どのように現実の正義に接続するのかを学ばせていただいている存在です。SAKURA法学舎の構想は、単に事務所内に研究機能を設けるという発想にとどまるものではありません。金山直樹弁護士の学識、比較法的視野、契約法に対する深い問題意識、そして既存の法理に安住しない知的姿勢を中心に据えながら、若い弁護士、実務家、研究者、さらには現場に深く関わる方々が集まり、互いに学び合い、鍛え合う場を作ることにこそ、その意義があります。
SAKURA法学舎では、今後、フォーラムやセミナーを開催し、さまざまな立場の方々と議論を重ねていく予定です。そこで大切にしたいのは、一方通行の講義や形式的な発表ではありません。実務の現場で感じた違和感、研究の中で見出された問題意識、裁判実務において問われる説得の方法、企業活動や取引社会の中で生じる新たな課題を持ち寄り、それらを率直に議論し、互いに問い直すことです。法律家にとって、議論は単なる知的な営みではありません。自らの考えがどこまで通用するのか、どこに弱点があるのか、別の構成は成り立たないのか、より正義に適った解決はないのかを確かめるための不可欠な訓練です。
また、SAKURA法学舎は、世代や所属を超えた学び合いの場でありたいと考えています。法律家は、一人で完成するものではありません。優れた理論に触れ、厳しい批判を受け、現実の事件に悩み、時に自分の考えを改めながら、少しずつ成長していくものです。若い弁護士が遠慮なく問題意識を語り、経験を積んだ法律家や研究者がそれに真摯に応答し、互いに敬意を払いながらも安易に妥協しない議論を重ねることができれば、そこから必ず実務にも理論にも意味のある成果が生まれるはずです。
SAKURA法律事務所にこのような場を設けることは、当事務所自身にとっても大きな挑戦です。日々の事件処理に追われる法律事務所が、自らの実務を省み、より深い法律論を追求し、社会に対して知的な貢献を行うことは、決して容易なことではありません。しかし、私は、そのような志を持つこと自体が、法律事務所の品格を形づくるものだと考えています。単に事件を処理するだけでなく、事件を通じて法を学び、法を鍛え、よりよい実務へとつなげていくこと。その積み重ねこそが、依頼者から真に信頼される法律事務所を作るのだと思います。
SAKURA法学舎において、私が代表弁護士として果たすべき役割は、この場を一時的な企画に終わらせず、継続的な知的営みとして根づかせることです。金山直樹弁護士を初代所長としてお迎えし、そのご指導と問題意識を大切にしながら、SAKURA法律事務所の弁護士一人ひとりが、日々の実務をより深く考え、より精密な法律論を構築し、依頼者のためにより強く、より誠実に戦うことができるようにしたいと考えています。
SAKURA法学舎は、まだ始まったばかりの試みです。どのようなテーマを扱い、どのような議論を重ね、どのような成果を社会に示していくことができるのかは、これからの歩みによって少しずつ形づくられていくものです。しかし、最初にどのような志を掲げるかは、その後の歩みに大きな影響を与えます。私たちは、SAKURA法学舎を、単なる研究会の名称に終わらせるのではなく、法律家が現実を見つめ、理論を学び、互いに鍛え合い、よりよい実務へとつなげていくための継続的な場として育ててまいります。
SAKURA法律事務所は、SAKURA法学舎の活動を通じて、依頼者の皆様に対してより高品質な法的サービスを提供することはもちろん、法律実務と法律学の双方にとって意味のある知的貢献を行うことを目指します。現実の紛争を出発点とし、理論に支えられた実務を磨き、実務に根ざした理論を育てる。そのような循環を生み出すことができれば、SAKURA法学舎は、当事務所にとっても、参加する一人ひとりにとっても、そして広く社会にとっても、価値ある場になるものと信じています。
今後とも、SAKURA法学舎の活動にご理解とご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
SAKURA法律事務所
代表弁護士 道下剣志郎