SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 Legal Update
2026年9月24日
SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下 剣志郎
結論として、生成AIを利用したからといって、AI学習が当然に適法となるわけでも、AIが生成した成果物を当然に自由利用できるわけでもありません。著作権法上は、AIの開発・学習段階と、生成・利用段階を分けて検討する必要があります。企業がAI生成物を広告、商品、映像、出版物、ソフトウェアその他の事業資産として利用する場合には、既存著作物との類似性・依拠性、利用するAIサービスの契約条件、人による創作的寄与の程度、自社が必要な権利を確保できるかを個別に確認することが重要です。2026年には、知的財産推進計画2026に加え、生成AI事業者の透明性及び知的財産権保護を目的とするプリンシプル・コードも公表されており、企業実務では法、技術及び契約を組み合わせた管理が一層重要になっています。
SAKURA法律事務所は、このたび、代表弁護士 道下剣志郎によるLegal Update第3弾として、「生成AIと著作権――AI学習・AI生成物・商用利用をめぐる著作権法上の重要論点【2026年版】」を公開いたしました。
企業による生成AIの利用が一般化する中、実務上の関心は、「生成AIに著作物を入力してよいのか」「AIが作った画像や文章を広告や商品に使ってよいのか」「AI生成物には著作権が発生するのか」「AIサービスの利用規約で商用利用可とされていれば安心なのか」といった、より具体的な権利処理の問題へ移っています。
生成AIと著作権をめぐる議論が難しい理由の一つは、AIの学習段階と、学習済みAIから生成物を作成し、それを利用する段階とで、法的に問題となる行為及び判断枠組みが異なることにあります。さらに、著作権侵害の有無と、生成された成果物自体に著作権が成立するかという問題も、別個に検討しなければなりません。
文化庁は2024年3月に「AIと著作権に関する考え方について」を取りまとめ、その後もチェックリスト及びガイダンス、相談事例等を通じて考え方の周知を進めています。もっとも、同文書自体は法的拘束力を有するものではなく、生成AI固有の著作権問題について国内の裁判例が十分に蓄積している状況でもありません。そのため、企業実務では、現行著作権法と従来の裁判例に基づく判断枠組みを踏まえつつ、個別のサービス仕様、生成方法及び利用態様に応じて慎重に判断する必要があります。
さらに2026年6月には「知的財産推進計画2026」が決定され、同年8月25日には「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」が公表されました。AI技術の進歩と知的財産権の適切な保護を両立させるため、著作権問題は、法律だけではなく、透明性、技術的措置、契約、対価還元及びガバナンスを含む総合的な問題として扱われる段階に入っています。
本稿では、2026年9月24日時点の著作権法、文化庁その他の政府公表資料を基礎として、企業が生成AIを開発、導入又は利用する際に理解しておくべき著作権法上の論点を、実務上の判断順序に沿って整理します。
1 生成AIと著作権は「開発・学習段階」と「生成・利用段階」を分けて考える
生成AIと著作権を検討する際には、最初に、どの段階の行為を問題としているのかを明確にする必要があります。
第一は、AIを開発し、又は追加学習させるために、書籍、記事、画像、映像、音楽、プログラムその他の著作物を収集し、複製し、解析する「開発・学習段階」です。この段階では、主として著作権法第30条の4その他の権利制限規定が適用されるかが問題となります。
第二は、学習済みの生成AIへプロンプト、画像、文書その他の情報を入力して生成物を作成し、その生成物を保存、複製、社内共有、販売、公開、公衆送信その他の方法で利用する「生成・利用段階」です。この段階では、生成物が既存の著作物に類似し、かつ依拠していると評価されるか、複製権、翻案権、公衆送信権その他の権利を侵害しないかが問題となります。
そして第三に、AIによって作成された成果物それ自体が著作権法上の「著作物」に該当し、誰が著作者となるのかという問題があります。これは、既存著作物の権利を侵害するかという問題とは別の問題です。
企業実務では、この三つの問題を混同しないことが出発点になります。
2 著作権法第30条の4は、AI学習を無条件に許容する規定ではない
著作権法第30条の4は、著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し、又は他人に享受させることを目的としない場合には、一定の範囲で著作物を利用できる旨を定めています。情報解析のための利用は、その典型例の一つとして位置付けられています。
生成AIの機械学習において著作物を複製し、解析する行為は、著作物の表現内容を鑑賞すること自体を目的とするのではなく、情報解析を目的として行われる場合があることから、著作権法第30条の4が適用され得ます。
もっとも、同条は「AI学習であれば自由に著作物を使える」という包括的な免責規定ではありません。著作物に表現された思想又は感情を享受する目的が存在する場合には、同条による権利制限の前提を欠きます。また、非享受目的の利用であっても、著作物の種類、用途及び利用態様に照らし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合には、同条は適用されません。
したがって、企業が自社AIの開発、ファインチューニング又は社内AIの構築のために著作物を利用する場合には、「AI学習だから第30条の4で当然に適法」と結論付けるのではなく、学習の具体的な目的、対象データ、出力の性質、既存のライセンス市場との関係その他の事情を確認する必要があります。
3 特定の著作物に似た表現を出力させることを目的とする学習は、より慎重な検討が必要である
AI学習に非享受目的が存在していても、それと同時に著作物の創作的表現を享受する目的が併存する場合には、著作権法第30条の4の適用が否定される可能性があります。
例えば、特定の作品群を学習させ、その作品の創作的表現を再現した生成物を出力させること自体を目的とするような学習については、単なる情報解析とは異なる評価が必要となり得ます。
また、情報解析用として提供されるデータベース等について、その現在又は将来の販売市場と衝突する態様でAI学習のために複製する場合など、権利者のライセンス市場を実質的に害する利用についても、第30条の4ただし書との関係が問題となります。
企業が他社コンテンツ、専門データベース、記事アーカイブ、画像素材、ソースコード等を大量に学習用データとして利用する場合には、権利制限規定だけでなく、利用規約、データベース契約、API利用条件、アクセス制限、契約上の禁止事項等も併せて確認する必要があります。
4 RAGや要約サービスでも、著作権法第30条の4が当然に適用されるわけではない
企業で急速に利用が広がっているのが、社内文書、書籍、記事その他の資料を検索し、その内容を生成AIに参照させて回答を作成するRAG、すなわち検索拡張生成です。
文化庁は、RAG等の実装に際して著作物を入力用データとして収集する場合、AIの出力に当該著作物の創作的表現の全部又は一部が含まれない仕様であれば、その収集・複製について著作権法第30条の4が適用される可能性があるとの考え方を示しています。
他方、著作物の創作的表現そのものを回答として生成させることを目的とする仕様である場合には、著作物の表現を利用者に享受させる目的が含まれることとなり、第30条の4が適用されないと考えられます。
したがって、「社内検索用のRAGだから問題ない」「要約だから著作権侵害にならない」と一律に整理することはできません。検索対象データをどのように複製・保存するのか、回答が原著作物の創作的表現をどの程度再現するのか、誰に提供するのか、利用する資料についてライセンス上の制約がないか等を確認する必要があります。
特に有料記事、専門データベース、契約書式、調査レポート、出版社の書籍等をRAGに取り込む場合には、著作権法上の問題だけでなく、契約上の利用範囲を確認することが不可欠です。
5 海賊版その他の権利侵害コンテンツを学習データに利用することは、企業として避けるべきである
AI学習の対象となるデータの出所についても注意が必要です。インターネット上に公開されているという理由だけで、そのコンテンツが適法に公開されているとは限りません。
文化庁の整理では、海賊版等の権利侵害複製物をAI学習に利用することと著作権法第30条の4との関係について、具体的な事案ごとの検討が必要とされています。その一方で、AI開発事業者が海賊版であることを認識しながら学習データとして利用した事情は、そのAIによって著作権侵害生成物が生じた場合に、開発事業者が侵害主体として責任を問われる可能性を高め得ることも指摘されています。
企業実務としては、法的評価の限界線を試すような運用をする合理性は通常ありません。学習データの出所、権利処理、取得方法及びライセンスを可能な限り確認し、海賊版サイト、違法アップロードその他権利関係に重大な疑義のあるソースを学習データとして利用しないことが基本となります。
2026年の知的財産政策も、権利者への対価還元、適法なデータセットの形成、透明性の確保等を重要な方向性として掲げています。AI開発企業にとって、データの来歴を説明できること自体が、今後の事業上の信用及び契約競争力に直結していくと考えられます。
6 生成・利用段階の著作権侵害は、原則として「類似性」と「依拠性」を中心に判断される
AIが生成した文章、画像、音楽、映像、プログラムその他の成果物を利用する段階では、従来の著作権侵害と同様、既存著作物との類似性及び依拠性が中心的な問題となります。
類似性については、既存著作物の創作的な表現上の本質的特徴を生成物から直接感得できるかという観点から判断されます。単なるアイデア、事実、ありふれた表現又は保護されない要素が共通するだけであれば、通常、それだけで著作権侵害が成立するわけではありません。
依拠性については、後発の表現が既存著作物に基づいて作成されたと評価できるかが問題となります。AIを使用した場合であっても、利用者が既存著作物を認識し、その表現を参照して類似した生成物を作成した場合には、依拠性が認められやすくなります。
したがって、AIが作ったから著作権侵害にならないというルールは存在しません。最終的に生成された成果物について、通常の著作権法上の侵害判断が行われることになります。
7 既存作品をImage to Image等で入力する場合は、依拠性が明確になりやすい
企業がAI生成物を作成する際、既存の画像、文章、音源その他の著作物を直接AIへ入力し、それを基礎として新たな成果物を生成する場合があります。
このような利用では、AI利用者自身が既存著作物を認識し、それを入力しているため、依拠性が問題となる場面では、その存在が比較的明確になりやすいと考えられます。
もちろん、既存著作物を入力しただけで直ちに侵害が成立するわけではなく、最終的な生成物に既存著作物との類似性が認められるか、権利制限規定や許諾が存在するか等を検討する必要があります。
しかし、広告制作、商品デザイン、映像制作等の業務で既存作品をAIへ読み込ませる場合には、「参考にしただけ」という説明で足りるとは限りません。入力した素材、プロンプト、生成履歴及び最終成果物を記録し、権利処理の根拠を説明できる状態にしておくことが重要です。
8 利用者が元の著作物を知らなかった場合の「依拠性」には、なお慎重な評価が必要である
生成AI特有の難しい問題が、AI利用者自身は既存著作物を認識していなかったにもかかわらず、AIがその著作物に類似する生成物を出力した場合です。
文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」は、AI利用者が当該著作物を認識していない場合であっても、当該著作物が生成AIの学習データに含まれていたときの依拠性について、従来の裁判例とは異なる事情を踏まえた整理を示しています。
もっとも、この整理は行政機関が示す一定の考え方であり、それ自体に法的拘束力があるものではありません。生成AI固有の依拠性について、国内の裁判例が十分に蓄積しているわけでもないため、個別事案では、学習データへのアクセス可能性、生成物の類似性の程度、モデルの性質、プロンプト、生成経緯その他の事情を総合的に検討することになります。
企業としては、最終的に「利用者は元作品を知らなかった」と主張できるかどうかに依存するのではなく、重要な商用成果物について類似性確認を行い、高度に類似する既存作品が確認された場合には使用を中止し、再生成又は権利処理を検討することが現実的です。
9 「作風」「画風」「○○風」という指示だけで直ちに著作権侵害になるわけではないが、安心とも限らない
生成AIでは、特定の作家、アーティスト、映画、アニメーション、ブランド等を想起させる指示によって生成物を作成することがあります。
著作権法は、抽象的なアイデア、作風又は画風それ自体を一般的に独占させる制度ではありません。そのため、単に雰囲気や画風が似ているという事情だけで直ちに著作権侵害が成立するわけではありません。
他方、生成物に既存作品の具体的な構図、キャラクターの具体的表現、特徴的な配置、文章表現その他の創作的表現が再現されている場合には、通常の類似性・依拠性の判断により著作権侵害が問題となります。
また、著作権法で保護されない要素であっても、不正競争防止法、商標法、パブリシティ権、名誉・信用、契約その他の法的問題が生じる場合があります。特定の声優又は俳優の「声そのもの」は著作権によって直接保護されるものではないと整理されていますが、具体的な実演の利用、関連する画像・楽曲の利用、パブリシティ権その他の問題は別途検討が必要です。
企業広告や商品において、第三者の作家性、ブランド又は人物の信用に意図的に接近するAI生成物を利用する場合には、著作権だけに限定せず、総合的な知的財産・レピュテーション審査を行うことが望まれます。
10 AIサービスが「商用利用可」としていても、第三者の著作権侵害まで保証されるとは限らない
生成AIサービスの利用規約には、生成物について商用利用を認める旨が記載されていることがあります。もっとも、「商用利用が契約上認められていること」と、「生成物が第三者の著作権を侵害しないこと」は全く別の問題です。
利用規約上、利用者が生成物を利用できる権利を与えられていたとしても、生成物が第三者の既存著作物に依拠し、類似する場合には、その第三者の著作権との関係が問題になります。
また、サービスによっては、知的財産権侵害について一定の補償制度を設けている場合がありますが、適用対象となる契約プラン、利用方法、禁止事項、補償上限、利用者側の義務等には条件があります。補償制度が存在すること自体を理由として、権利確認を省略すべきではありません。
企業が重要な成果物を商用利用する場合には、利用規約上の権利付与、第三者権利侵害に関する保証・補償、利用者の免責・補償義務、禁止されるプロンプト又は素材、紛争発生時の協力義務等を確認する必要があります。
11 AI生成物そのものに著作権が成立するかは、「人間の創作的寄与」が重要になる
AI生成物が第三者の著作権を侵害するかという問題とは別に、その生成物自体が著作物として保護されるかという問題があります。
著作権法上の著作物は、人の思想又は感情を創作的に表現したものであることが前提となります。そのため、人がほとんど創作的な関与をせず、AIが自律的に生成した結果だけが存在する場合には、その生成物を人の著作物として保護できるかが問題となります。
文化庁は、人がAIを創作のための「道具」として使用したと評価できる場合には、その人による著作物となり得るとの考え方を示しています。具体的には、人に創作意図があり、かつ生成過程に創作的寄与が認められるかを、AI利用の一連の過程を踏まえて判断することになります。
プロンプトについても、単に短い指示を与えただけなのか、表現内容を具体的かつ詳細に設計したのかによって評価は異なり得ます。また、生成回数が多いという事実だけで創作的寄与が認められるわけではなく、多数の生成物から一つを選択しただけという事情も、それだけで当然に著作物性を基礎付けるものではありません。
他方、AI生成物に人が創作的な加筆、修正、編集、構成等を行った場合には、少なくとも当該人間の創作的表現が加えられた部分について著作物性が認められる可能性があります。
12 企業がAI生成物を「自社の知的財産」として確保できるかは、別途設計が必要である
AI生成物を広告の一時的な素材として使う場合と、企業ロゴ、キャラクター、商品デザイン、映像作品、ゲーム、出版物、ソフトウェアその他の中核的な知的財産として長期利用する場合とでは、必要な権利確認の水準が異なります。
仮にAI生成物に人間の創作的寄与が乏しく著作物性が認められない場合、第三者が同一又は類似の成果物を利用したとしても、著作権に基づいて排他的に利用を止めることが困難になる可能性があります。
また、従業員がAIを用いて成果物を作成した場合、当該成果物に人間の著作物性が認められるとしても、会社が当然に著作者又は著作権者になるとは限りません。著作権法第15条の法人著作の要件を満たすか、職務内容及び公表名義がどうなっているか、就業規則その他の社内規程がどう定めているか等を確認する必要があります。
外部の制作会社、デザイナー、ライター、映像制作者等へAIを利用した制作を委託する場合も同様です。委託料を支払ったことだけで著作権が当然に委託者へ移転するわけではないため、著作権の帰属、譲渡又は利用許諾、著作者人格権の不行使、AI利用の開示、第三者素材の利用等について契約で明確にする必要があります。
13 企業はプロンプト、入力素材、生成履歴及び編集過程を記録しておくべきである
AI生成物に関する紛争では、「何を入力し、どのように生成し、最終成果物をどのように作成したか」という生成過程が重要になる場合があります。
第三者から著作権侵害を指摘された場合には、既存作品をプロンプト又は参照画像として使用したのか、どのモデル及びバージョンを使用したのか、どのような指示を与えたのか、生成後にどの程度人間が編集したのかという事実が、依拠性、責任主体、著作物性及び契約上の責任を検討する資料となり得ます。
反対に、自社がAI生成物について著作権を主張する場合にも、人間がどのような創作意図を持ち、どの部分に創作的寄与を行ったかを説明できる記録は重要です。
そのため、企業がAI生成物を重要な商用コンテンツとして採用する場合には、生成日時、使用したサービス・モデル、主要なプロンプト、参照素材、生成履歴、選択理由、人による加筆修正の内容及び最終承認者等を、合理的な範囲で保存する運用を検討することが望まれます。
14 著作権侵害が生じた場合、AI利用者だけでなく、開発者・提供者の責任が問題となることもある
生成AIを利用して作成された成果物が著作権を侵害した場合、まず、その生成物を生成し、公開し、販売し、その他の方法で利用した主体の責任が問題となります。
もっとも、AI開発者又はAIサービス提供者が常に無関係となるわけではありません。特定の著作物に類似する生成物を出力するよう意図的に設計されている場合、侵害生成物の作成を積極的に誘引している場合、侵害発生について具体的な認識を持ちながら必要な措置を講じていない場合等、サービスの設計及び関与の程度によっては、開発者又は提供者側の責任が問題となる可能性があります。
一方で、汎用的なAIサービスが提供されているという事情だけで、全ての利用者による侵害行為について提供者が当然に責任を負うものでもありません。責任主体については、各当事者の行為、支配・管理、認識、技術的措置、契約関係その他の具体的事情を踏まえて検討する必要があります。
企業がAIサービスを導入する際には、第三者権利侵害時の責任分担を契約上どのように定めるかが重要です。
15 2026年、生成AIと知的財産をめぐる政策は「透明性」と「権利保護」の段階へ進んでいる
2026年6月12日に決定された「知的財産推進計画2026」は、生成AI技術の進歩の促進と知的財産権の適切な保護を両立する方針を改めて明確にしています。
同計画では、AIと知的財産の問題について、法的ルールのみで全てを解決するのではなく、法、技術及び契約の各手段を適切に組み合わせ、AI開発者、AI提供者、AI利用者、権利者等が連携することの重要性が示されています。
さらに2026年8月25日には、内閣府知的財産戦略推進事務局から「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」が公表されました。
同コードは法律そのものではなく、生成AI開発者及び提供者等に対し、コンプライ・オア・エクスプレインの考え方の下で、透明性の確保及び知的財産権保護に関する原則への対応を求めるガバナンス上の枠組みです。日本向けに生成AIシステム又はサービスを提供する海外事業者も対象とされ得ます。
内容には、生成AIシステムやサービスに関する概要開示、知的財産権保護のための措置、一定の場合に権利侵害を主張する者又は生成AI利用者から示されたURLが学習データとして用いられているか等について回答する枠組みが含まれています。内閣府への届出は2026年10月26日から開始される予定です。
この制度は著作権侵害の成否そのものを変更するものではありませんが、AI事業者の透明性及び権利者・利用者による事実確認の可能性を高めるものとして、今後の企業実務上重要な意味を持つと考えられます。
16 企業がAI生成物を商用利用する際には、リスクの高い用途を選別する必要がある
企業が生成AIを利用する場合、全ての生成物について同一の著作権審査を行う必要はありません。重要なのは、利用目的及び侵害が生じた場合の影響に応じて審査水準を変えることです。
社内会議のアイデア出しや一時的な文章案の作成と、企業ロゴ、商品パッケージ、広告キャンペーン、テレビCM、映画・音楽、キャラクター、ゲーム、出版物、ウェブサイトのメインビジュアル等の長期間かつ広範囲に利用される成果物とでは、権利侵害が生じた場合の損害、差替えコスト及びレピュテーションリスクが大きく異なります。
重要な外部利用については、生成物の類似性確認、入力素材の権利確認、人間による加筆修正、AIサービスの利用規約確認、生成過程の記録、必要に応じた専門家レビューを組み合わせることが望まれます。
また、既存ブランド、著名キャラクター、著名人、特定クリエイターの作品を意図的に想起させる生成物については、通常より高いリスクとして取り扱うことが合理的です。
17 外部クリエイターや制作会社にAI利用を認める場合、契約条項の整備が重要になる
広告、映像、ウェブ制作、出版、ゲーム開発等を外部へ委託する企業では、受託者が生成AIを利用する場面が急速に増えています。
発注者がAI利用を把握していないまま成果物を納品され、その後に第三者から著作権侵害を主張されると、誰がどの素材を使ったのか、どのAIを使ったのか、補償を誰が負うのかが不明確になるおそれがあります。
そのため、重要なコンテンツ制作契約では、生成AIを利用する場合の事前承認又は通知、利用可能なAIサービス、第三者著作物を無断で入力しないこと、学習用データ又は参照素材の適法性、成果物について必要な権利を確保する義務、第三者権利侵害に関する表明保証、紛争発生時の協力、補償、生成過程の記録保存等を契約上整理することが考えられます。
他方、全てのAI利用を一律に禁止すれば、現実の制作工程と乖離し、契約が形骸化する可能性もあります。企業のブランド価値及び成果物の用途に応じ、禁止する利用と、管理された条件で認める利用を区別することが重要です。
18 権利者の立場では、AIによる侵害を疑った段階から証拠保全を意識する必要がある
自社の画像、文章、映像、音楽、プログラムその他の著作物に酷似するAI生成物が発見された場合、権利者側では、まず侵害の可能性を検討するための証拠を確保することが重要です。
問題となる生成物、掲載URL、掲載日時、投稿者又は事業者、表示内容、生成に使用されたと推測されるサービス、プロンプト等の公開情報を保存し、自社著作物との共通部分が創作的表現に該当するかを整理します。
著作権侵害が認められる場合には、差止請求、損害賠償請求その他の法的手段が問題となります。また、プラットフォーム又はAIサービス提供者に対する削除申請、利用規約に基づく申告、発信者情報の把握等が有効な場合もあります。
2026年に公表されたプリンシプル・コードに基づく開示対応の枠組みも、参加事業者との関係では、学習データに関する事実確認を行う際の新たな選択肢となる可能性があります。
生成AI関連紛争では、技術的な事実と著作権法上の評価の双方が重要になります。侵害が疑われる場合には、生成AIに詳しい技術者とも連携しながら、早い段階で証拠保全及び法的評価を行うことが望まれます。
19 よくあるご質問
Q1 AIが作った画像は、会社が自由に商用利用できますか
一律には判断できません。AIサービスの利用規約上商用利用が認められているかに加え、生成物が第三者の既存著作物に類似し、依拠していないかを確認する必要があります。また、その生成物自体に人間の創作的寄与が乏しい場合には、自社が著作権による独占的保護を受けられない可能性もあります。
Q2 生成AIの学習にインターネット上の画像を使うことは、著作権法第30条の4で常に適法ですか
常に適法となるわけではありません。第30条の4は、著作物の思想又は感情を享受することを目的としない利用を一定の条件で認める規定です。享受目的が併存する場合や、著作権者の利益を不当に害する場合には適用されません。利用目的、データの性質、既存市場との関係等を個別に検討する必要があります。
Q3 「○○先生の画風で」とAIに指示することは著作権侵害ですか
画風又は作風の抽象的な特徴それ自体は、通常、著作権法による独占の対象とはなりません。しかし、生成物が特定の既存作品の創作的表現を具体的に再現している場合には、著作権侵害が問題となります。また、著作権以外の権利・法律関係が問題となる場合もあります。
Q4 AI生成物を人が少し修正すれば、必ず著作権が発生しますか
必ず発生するわけではありません。人による修正が創作的表現に当たるかを個別に判断する必要があります。創作的な加筆・修正が認められる場合には、少なくともその部分について著作物性が認められる可能性があります。
Q5 会社の従業員が業務で生成したAI画像の著作権は会社に帰属しますか
当然に会社へ帰属するとは限りません。まず当該成果物に人間の創作的寄与があり著作物性が認められるかを確認し、その上で著作権法第15条の法人著作の要件、就業規則、職務内容、公表名義その他の事情を検討する必要があります。
Q6 AIサービス側に著作権侵害の補償制度があれば、社内チェックは不要ですか
不要にはなりません。補償制度には対象プラン、利用方法、禁止事項、補償範囲、上限等の条件が設けられていることが通常です。また、差止めによる広告・商品差替えやレピュテーションへの影響は、金銭補償だけでは回復できない場合があります。重要な商用利用については、自社での権利確認が必要です。
Q7 RAGで社内に購入済みの書籍や有料記事を検索できるようにしても問題ありませんか
購入済みであることだけで、RAGへの複製・蓄積及び生成回答が当然に許容されるわけではありません。著作権法第30条の4の適用、回答に創作的表現が含まれるか、契約・利用規約上の複製又は機械利用の制限等を確認する必要があります。
20 SAKURA法律事務所が考える「生成AIと著作権」の企業実務
生成AIと著作権をめぐる企業実務では、「AI学習は合法か」「AI生成物は著作物か」という抽象的な問いだけでは十分ではありません。
実際に企業が判断しなければならないのは、どの著作物を、どの目的で、どのAIへ入力するのか、そのAIがどのような学習・生成の仕組みを持つのか、出力をどの範囲で商用利用するのか、既存作品との類似性をどのように確認するのか、成果物について自社が必要な権利を確保できるのか、第三者から権利侵害を主張された場合に誰が責任を負うのかという、具体的な事業プロセスです。
生成AIの利用によって制作コストが下がり、創作活動の速度が上がるほど、一つの権利確認ミスが大量の広告、商品、コンテンツへ波及する可能性も高まります。AI時代の著作権管理では、生成物を作る速度と同時に、権利確認を行う速度及び再現性のある社内プロセスを整えることが重要です。
また、企業にとって重要なのは、侵害しないことだけではありません。AIを利用して作成したロゴ、デザイン、文章、映像その他の成果物について、自社が競争優位の源泉として保護できるのかという「権利取得」の観点も同じ程度に重要です。
そのため、重要なAI生成コンテンツについては、著作権侵害リスク、人間の創作的寄与、契約上の権利帰属、商標・不正競争その他の知的財産権、生成過程の記録を一体として管理することが望まれます。
21 代表弁護士 道下剣志郎「Legal Update」について
SAKURA法律事務所では、代表弁護士 道下剣志郎のプロフィールページに「Legal Update」の項目を設け、企業法務及び社会を取り巻く重要な法律問題について、継続的に情報を発信してまいります。
第1弾では「企業における生成AIの利用と法的リスク――2026年、日本企業に求められるAIガバナンスと社内ルール」を取り上げ、企業による生成AI利用に伴う法的リスクを横断的に整理しました。第2弾では「ChatGPTに顧客情報・個人情報を入力してよいか――生成AIと個人情報保護法【2026年版】」として、個人情報保護法に焦点を当てました。
第3弾となる本稿では、企業による生成AI活用において個人情報と並んで重要性の高い「著作権」を取り上げ、AI学習、RAG、生成物の商用利用、既存著作物との類似性・依拠性、AI生成物自体の著作物性、契約及び2026年の最新政策動向まで体系的に整理しています。
今後も、生成AIと営業秘密、AIサービス契約、AI利用規程、AIエージェント、M&A、国際取引、Web3・暗号資産、危機管理、企業不祥事、情報管理その他の企業法務上重要なテーマについて、法令・行政実務と実際の企業活動の双方を踏まえたLegal Updateを順次公開してまいります。
22 生成AI・著作権に関してご相談いただける事項
SAKURA法律事務所では、生成AIの開発・導入・利用に伴う著作権その他の知的財産権について、企業からの各種ご相談を承っております。
AI生成画像、文章、映像、音楽、ソースコード等を商用利用できるか確認したい場合、生成AIを利用した広告・商品・コンテンツについて第三者権利侵害のリスクをレビューしたい場合、社内RAG・AI検索システムへ書籍、記事、契約書その他の著作物を取り込めるか検討したい場合、自社AIの学習データ及びファインチューニング用データの権利関係を整理したい場合、AIサービス利用規約の知的財産条項及び補償条項を確認したい場合、外部制作会社・クリエイターとのAI利用条項を整備したい場合、AI生成物について自社が必要な著作権その他の権利を確保したい場合、AI生成物による著作権侵害を指摘された場合又は自社著作物がAIにより侵害されている疑いがある場合等について、ご相談いただくことが可能です。
生成AIの導入又は利用方針がまだ確定していない段階でも差し支えありません。予定するユースケース、利用する素材、AIサービス、成果物の用途及び契約関係を確認した上で、必要な権利処理、契約、社内ルール及び紛争予防策を整理いたします。
23 生成AI・著作権法務に関するお問い合わせ
生成AIの学習データ、AI生成物の商用利用、著作権、RAG、コンテンツ制作、AIサービス契約、知的財産権侵害、AI利用規程その他のAI・IT法務に関するご相談は、SAKURA法律事務所までお問い合わせください。
法人のお客様からのご相談については、問題発生後の紛争対応だけでなく、AI導入前のリーガルチェック、AI生成物の権利確認フロー、制作委託契約・利用規約の整備、社内ガイドラインの策定及び継続的なAI・知的財産ガバナンスの構築についても承っております。
お問い合わせの際には、ご相談内容に「生成AI・著作権に関する相談」とご記載いただけますと、担当弁護士へのご案内が円滑です。
SAKURA法律事務所
代表弁護士 道下 剣志郎
〒106-0032 東京都港区六本木一丁目4番5号 アークヒルズサウスタワー4F
電話 03-6910-0692
主な参考資料
文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)
文化庁「文化芸術活動に関する法的問題についてよくあるご質問」
文化庁「第25期文化審議会著作権分科会 政策小委員会 法制度に関するワーキングチーム(第1回)―生成AIをめぐる最新の状況について」
内閣府知的財産戦略推進事務局「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」
本記事の執筆・監修 SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下 剣志郎
※本記事は、2026年9月24日時点における著作権法、文化庁、内閣府知的財産戦略推進事務局その他の公表資料及び一般的な法解釈を基礎として、一般的な法的情報を提供することを目的とするものです。文化庁「AIと著作権に関する考え方について」は法的拘束力を有するものではなく、生成AIをめぐる著作権法上の論点には、国内の裁判例の蓄積がなお限定的な事項も含まれます。また、AIサービスの利用規約、補償制度、学習データ、モデル仕様等は随時変更される可能性があります。個別具体的な案件については、最新の法令・裁判例・行政資料、利用するAIサービスの契約条件及び技術仕様、生成方法、利用態様その他の事実関係を踏まえた検討が必要です。