COLUMN
2026.11.06
バーチャルYouTuber(VTuber)が主要なエンターテインメント産業として確固たる地位を築いて久しい。
こうした中、VTuberをめぐる法律面の話題をみると、契約の在り方、卒業(引退)時の権利帰属、「転生」をめぐる競業避止義務の是非などについて、紛争が生じることがある。この原因の一つは、VTuberの二重構造にある。
VTuberは、画面上のデジタルアバター(2D/3Dモデル)という仮面を纏いながらも、その実体として生身の自然人たる「演者(いわゆる“中の人”)」の精神的・人格的発露によって成立している。AI生成の完全な架空キャラクターとも、単に素顔を伏せた実写芸能人とも異なる点――すなわち「演者の人格的成長や個性の発現に伴って、アバターというキャラクターの輪郭そのものが変容・進化していく」という二重構造に、VTuber特有の法的な難しさがある。
本稿では、かかる現状を踏まえ、現行法による保護、新たな法的概念に基づく保護、この2つの側面から考察してみたい。
1 形式と実態の乖離
VTuberと契約している企業・事務所では、演者との関係を、「月間〇本のコンテンツをプラットフォームに載せる」といった、業務委託として整理している例が多い。しかし周知の通り、契約書の形式的表題は労働者性の判断を何ら拘束しない。労働基準法上の労働者性の判断基準を、VTuberに当てはめると、以下のようになる(「労働基準法における労働者性判断に係る参考資料集」<令和6年10月時点 厚生労働省労働基準局>)。
VTuberにおいても、配信内容を細かく指示・指定され、他社での活動が厳格に禁止されているようなケースでは、実質的に労働者と評価される余地が多分にある。また、労働組合法上の労働者性は、事業組織への組入れや契約内容の一方的・定型的決定等を考慮して、労働基準法上のそれよりも広く認められ得る(最判平成23年4月12日参照)。演者が団体交渉を通じて契約条件の改善を求める途も、検討に値する。
2 VTuberにおける「代替性の低さ」と中間的保護の必要性
企業側は時に「キャラクターさえあれば演者の替えは利く」という建前をとることがある。しかし市場の実態は正反対である。声質、トークの間合い、ゲームのプレイスタイル、ファンとの情緒的紐帯といった「演者の固有性」から乖離して、同一キャラクター運営を継続することは、極めて困難、ほぼ不可能である。キャスト交代がファンの反発を招き、ブランド価値の毀損につながる例は枚挙にいとまがない。
すなわちVTuberとは、単なる役務提供者ではなく「自己の人格的価値をキャラクターに不可分に注入する労務提供者、その労務によって間断ないキャラクター育成の義務を負わされている者」に他ならない。業務委託契約の解除により、突然、生活基盤を奪われる脆弱性は看過できない。この点、2024年11月に施行された特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆるフリーランス法)は、6か月以上の継続的業務委託を解除する場合の30日前予告(同法16条)や、報酬の減額・不当なやり直し等の禁止(同法5条)を既に定めており、従業員を使用しない個人である演者との業務委託にも適用され得る。もっとも、同法には最低報酬の保証や、キャラクター価値の増大に応じた収益分配を求める仕組みはない。労働法上の保護とフリーランス法による規律との間を埋める「中間的保護」として、最低報酬保証や収益分配の算定根拠の開示といったルールを、業界標準として整備することが必要ではないだろうか。
1 静的知財と動態的価値創出の乖離
現行法及び契約実務において、キャラクターデザインの著作権、商標権、3Dモデルデータ等の財産的権利は、制作費用を拠出した企業側に原始的又は譲渡により帰属するのが一般的である。知的財産法の形式的解釈に従えば、契約終了に伴い演者が当該キャラクターを一切利用できなくなることは論理的帰結といえる。
この点で参考となるのが、プロ野球選手の氏名・肖像の商業的利用をめぐる紛争である。知財高判平成20年2月25日は、選手が球団に対し氏名・肖像の商業的利用を独占的に許諾していると解し、選手側の請求を退けた。パブリシティ権自体は人格権に由来する本人の権利であるが、その行使は契約によって組織側に集約され得るのである。
しかしながら、ここに「動態的なキャラクター価値の形成者は誰か」という根源的問いが残る。上述のとおり、VTuberは、労務によって間断ないキャラクター育成を図ってきたからである。視聴者が愛着を抱き、スーパーチャットを投じ、グッズを購買するのは、単なる「静止画イラスト」に対してではない。演者が長期間にわたる表現活動を通じてキャラクターに吹き込んだ、感情、対話、物語という「育成された人格」に対してである。また、最判平成9年7月17日は「当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない」とし、キャラクターという抽象的概念それ自体は著作物ではないとしている。
VTuberにおいて、演者の人格的寄与によって形成された価値が、包括的な権利帰属条項を通じて企業側に一方的に集約される構造、契約自由の名の下にこの構造を放置してよいかが、本稿の問題意識である。
2 実演家の権利という出発点
このような価値配分を考える際、まず出発点とすべきは、著作権法上の実演家の権利である。VTuberの配信における演技・歌唱・語り等は「実演」(著作権法2条1項3号)に当たり得るものであり、演者は「実演家」(同項4号)として、実演家人格権(氏名表示権・同一性保持権。同法90条の2、90条の3)及び著作隣接権(録音及び録画権、放送権及び有線放送権、送信可能化権等。同法91条、92条、92条の2)を有し得る。
もっとも、実務上、これらの著作隣接権は事務所に譲渡され、又は包括的に許諾されていることが多い。また、実演家の許諾を得て映画の著作物に録画された実演については、その後の利用に実演家の権利が原則として及ばないとする、いわゆるワンチャンス主義が適用される可能性がある。配信アーカイブが映画の著作物に当たると解されれば、退所後のアーカイブ収益について演者が権利を主張し得る余地は限られる。さらに、実演家の権利は個々の実演を対象とするものであり、長期間の活動を通じて形成された「キャラクター価値」そのものを捕捉するものではない。ここに、現行の実演家保護の限界がある。
3 人格的利益という視角
情報法分野における先行研究(原田伸一朗「バーチャルYouTuberの人格権・著作者人格権・実演家人格権」静岡大学情報学研究26号(2021年)等)が示すとおり、VTuberのアバターは単なる客体(著作物)にとどまらず、演者の自己表現のための「拡張された身体」としての性質を帯びる。裁判例においても、VTuberに向けられた投稿について、キャラクターではなく演者自身に向けられたものとして名誉感情侵害を認めたものがあり(東京地判令和4年7月1日)、アバターと演者との人格的結び付きは、既に法的評価の対象となっている。
また、中の人がキャラクターに関する著作権やパブリシティ権を有し得るかを検討した学術研究(檜山洋子「バーチャルYouTuberの法的保護」神戸大学博士論文(2022年))や、人間型でないアバターであっても、演者と密接に結び付き本人を識別させる図柄として著名であればパブリシティ権の対象となり得るとする論考(松尾剛行「サイバネティック・アバターとパブリシティ権」InfoCom T&S World Trend Report 415号(2023年))もある。いずれも優れた研究・論考である一方、著作権、人格権又はパブリシティ権という既存の権利の帰属・範囲を超え、演者の継続的な寄与によって増大したキャラクターの財産的価値を、権利の帰属とは別に、どのように配分すべきかという問題は、なお残されている。
1 過度な競業制限と公序良俗
こうした緊張は、特に退所時の誓約条項等で先鋭化する。同一キャラクターの利用禁止にとどまらず、「類似するキャラクターでの配信禁止」や「一定期間の一切の配信活動の禁止(競業避止義務)」を課す契約が見受けられるためである。
この点、内閣官房及び公正取引委員会の「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」(令和7年9月30日策定、令和8年1月1日改正)は、芸能事務所に対し、競業避止義務等の活動制限を原則として契約に定めないこと、実演家の移籍・独立を妨害する言動をしないこと、退所時の金銭的給付の要求を必要かつ相当な範囲にとどめること等を求めている。同指針はVTuberを明示的に対象としていないが、前述のとおりVTuberの演者は著作権法上の実演家に当たり得るから、少なくとも同指針の趣旨は、VTuber事務所と演者との取引にも及ぶと解すべきである。優越的地位を利用した独立・移籍の不当な制限は、独占禁止法上の優越的地位の濫用(同法2条9項5号)を構成し得る。
また、退職後の競業避止義務については、「制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、債権者の利益(企業秘密の保護)、債務者の不利益(転職、再就職の不自由)及び社会的利害(独占集中の虞れ、それに伴う一般消費者の利害)の三つの視点」を総合的に考慮してその有効性を判断される(奈良地判昭和45年10月23日)。また、憲法22条1項の職業選択の自由の趣旨は、公序良俗(民法90条)の解釈を通じて私人間にも及ぶ。VTuberの場合、活動の場がインターネットであるため地理的限定が観念しにくく、配信活動全般の禁止は演者の職業活動そのものを封じることになる。代償措置を伴わない包括的な配信禁止条項は、無効と判断される可能性が高いと考える。
2 「転生」の法的正当性
業界内で定着している「転生(別のキャラクターを用いて個人又は他社で再デビューする行為)」は、法的には「自己の保有する実演能力・トーク技術・エンターテインメント能力を、新たな表現媒体において行使する行為」といえる。キャラクターそのものの知的財産権が会社に帰属するとしても、演者の身体・知性に蓄積された無形の才能・実演能力まで会社が拘束することは許されない。したがって、企業退所後の転生や独立配信活動は原則として自由であり、競業避止条項は営業秘密の保持等に限定された合理的かつ極小の範囲でのみ認められるべきである。ただし、旧キャラクターの名称やデザインと混同を生じさせる態様での活動は、商標権侵害や不正競争(不正競争防止法2条1項1号)の問題を生じ得る点には留意を要する。
VTuber紛争の本質は、「器(デザイン・権利)を用意した企業」と「魂を吹き込み、時間をかけて価値を育て上げた演者」との間の、価値配分の不均衡にある。筆者はこの課題を克服するため、キャラクター育成への寄与を正当に評価する枠組みの導入を提唱したい。これは、キャラクターという無体財産が大きな経済的・文化的価値を獲得するに至った過程において、演者が注ぎ込んだ「人格的労務・時間的投資・ブランド形成への寄与」を正当に評価し、保護する権利である。
その制度設計にあたり参考となるのは、特許法上の職務発明制度である。同制度は、発明に関する権利を使用者に帰属させることを認めつつ、従業者に「相当の利益」を受ける権利を保障している(特許法35条4項)。権利の帰属と、価値の創出に対する対価とを切り分けるこの発想は、キャラクターの知的財産権を企業に帰属させる現在の実務を前提としつつ、演者の寄与を評価する枠組みとして親和性が高い。
具体的には、以下の効力を視野に含める。このうち1及び3は現行法の解釈によっても相当程度導き得るものであり、本権利の中核は2の経済的補償請求権にある。
1 契約の継続請求権(不当な契約解消の制限)
企業や事務所側の一方的な企画変更や契約解消により、従前のキャラクターとしての活動が不当に奪われないよう、契約の継続を求める権利である。継続的契約の解消に相当の理由や予告期間を要するとする裁判例の考え方、フリーランス法16条の解除予告義務、労働者性が認められる場合の労働契約法16条(解雇権濫用法理)等により、現行法上も一定の保護は図られている。本権利は、これらをVTuberの実態に即して明確化するものと位置付けられる。
2 退所時の経済的補償請求権
退所時(又は契約期間中の一定時期)に、演者の寄与によって増大したキャラクター価値(登録者数、アーカイブ収益、派生知財等)に応じた適正な対価配分を求める権利である。算定にあたっては、職務発明における相当の利益と同様、企業側の投資(デザイン・モデル制作費、宣伝費、運営体制等)や、イラストレーター・モデラー等の制作者の寄与を考慮し、演者の寄与分を合理的に切り出す必要がある。契約で対価を定めることを妨げるものではないが、その定めが不合理である場合には、演者は相当の対価を請求し得るものとすべきである(特許法35条5項、7項参照)。この効力は現行法の解釈からは直ちに導けないため、立法又は業界標準契約による手当てを要するものと考える。
3 退所後の活動自由権
業務委託契約の継続ではなく、退所・卒業を選択する場合には、演者の活動の自由が保障されるべきである。その内容は二つに分かれる。第一は、転生による活動の自由であり、「声」や「話し方」、「配信スキル」など、演者由来の芸風・技能の継続利用を妨害されない権利である(企業による不当な競業避止・営業妨害の制限)。これは第3で述べたとおり、現行法の解釈からも導き得る。第二は、従前のキャラクターそのものの継続利用である。キャラクターのデザインや名称に係る著作権・商標権は企業や制作者に帰属するため、これを演者の権利として直接認めることは困難である。そこで、退所時に演者が合理的な対価でキャラクターの譲渡又はライセンスを求めることができる優先交渉権・買取請求権として構成することが考えられる。その際には、デザインを手がけたイラストレーター等の著作者人格権にも配慮を要する。
もっとも、本権利の実現には課題も多い。演者の寄与と企業の投資・宣伝効果とをどのように切り分けて算定するか、権利行使の過程で演者の素性が明らかになるおそれ(いわゆる「身バレ」)にどのように配慮するか、企業の育成投資へのインセンティブを損なわないか、といった点は、今後さらに検討を深める必要がある。
従来の知財法務は「著作権の帰属」を巡る静的な議論に終始し、芸能法務は「生身のタレント」を前提としてきた。
しかしVTuberは、デジタル知財と生身の人間性が融合し、新たな価値を創出する存在であり、その価値の配分は、従来の法概念だけでは十分に捉えきれない。「魂」を注ぎ込み、キャラクターを育て上げた演者の尊厳と功績を正当に評価することこそが、VTuber業界全体の健全な発展とクリエイターエコノミーの成熟に不可欠な一歩となるはずである。実務家として、その法的保護に助力していきたい。
以上