COLUMN
2026.10.09
2026年4月28日に改正・公布された「同一労働同一賃金ガイドライン(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(平成30年厚生労働省告示第430号)))」が、同年10月1日から施行・適用されました[1]。
同ガイドラインは、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間で、待遇差が存在する場合に、不合理な待遇差の解消を目指すものです。今回の改正は。施行から5年の間に積み上げられた実務運用及び最高裁判例等を踏まえて記載を見直したもので、どのような待遇差が不合理となりうるかをより明確化しています[2]。
ポイントは大きく3つ、①個別の待遇(各種手当、福利厚生など)に関する記載の追加・充実、②待遇全般に関する留意事項の追加、及び③無期雇用フルタイム労働者へのガイドラインの趣旨の波及です。
また、本改正では、待遇差の内容・理由の説明義務と、非正規雇用労働者の意向を踏まえた労使コミュニケーションの重要性が強調される内容となっています(指針「第2 基本的な考え方」)。そこで、後半では同時に改正された雇用管理指針のうち過半数代表者に関する規定と、労働基準法の見直しに向けた動きも紹介します。
本指針においては、平成30年法改正により短時間・有期雇用労働法及び労働者派遣法に規定された均等・均衡待遇が、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質、目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確化したものであることを踏まえ、この指針に基づき客観的・具体的な実態に照らして対応することが求められることを明確化しています(指針「第1 目的」)[3]。
その上で、前記のとおり、施行後に蓄積された最高裁判例等を踏まえて、待遇に関する原則となる考え方や具体例が追加されました。既存の待遇の一部についての記載の充実に加えて、改正前のガイドラインになかった待遇として、退職手当、無事故手当、家族手当、住宅手当、夏季冬季休暇及び褒賞の6つが新たに加わりました(指針 「第3 短時間・有期雇用労働者」第4「派遣労働者」)。
| 待遇 | 改正後の考え方(要旨) | 参考判例等 |
|---|---|---|
| 賞与・退職手当 | 労務の対価の後払いや功労報償などの性質・目的は非正規雇用労働者にも当てはまるのに、正規雇用労働者との間の職務の内容等の相違に応じた均衡のとれた退職手当を支給しない場合は、不合理と認められるものに当たりうる | 賞与につき、長澤運輸事件最高裁判決、退職手当につき、メトロコマース事件最高裁判決 |
| 無事故手当 | 正規雇用労働者と業務の内容が同一であれば、同一の手当を支給しなければならない | ハマキョウレックス事件最高裁判決 |
| 家族手当 | 労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれる非正規雇用労働者には正規雇用労働者と同一の手当を支給しなければならない。また、配偶者手当については、働き方に中立的な制度となるよう見直しが望まれる | 日本郵便(大阪)事件最高裁判決 |
| 住宅手当 | 転居を伴う配置変更に応じて支給される住宅手当については、正規雇用労働者と同一の転居を伴う配置変更がある非正規雇用労働者には同一の手当を支給しなければならない | ハマキョウレックス事件最高裁判決等 |
| 福利厚生施設 | 福利厚生施設の料金・割引率等の利用条件について、不合理と認められる待遇差を設けてはならないことを明確化 | |
| 病気休職・休暇 | 正規雇用労働者に給与の保障を行う場合、労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれる非正規雇用労働者にも、正規雇用労働者と同一の給与の保障を行わなければならないことを追記 | 日本郵便(東京)事件最高裁判決 |
| 夏季冬季休暇 | 繁忙期に限った短期の勤務ではない非正規雇用労働者にも、正規雇用労働者と同一の夏季冬季休暇を付与しなければならない | 日本郵便(佐賀)事件最高裁判決 |
| 褒賞 | 一定期間勤続した者への褒賞である場合、同じ期間勤続した非正規雇用労働者には、正規雇用労働者と同一の褒賞を付与しなければならない | メトロコマース事件高裁判決 |
※下線は新設された待遇
したがって、事業者としては、個別の手当・福利厚生のそれぞれについて、どのような目的で設けられているのかを再度確認・明確化し、その目的が非正規雇用労働者にも当てはまる場合には、自社の賞与・退職手当の支給要件が、正規雇用労働者との働き方や役割などの違いに応じたバランスのとれたものとなっているかを確認することが必要となってきます。
個々の待遇とは別に、待遇全般に関わる「留意すべき事項」が新たに設けられました(指針「第2 基本的な考え方」「第3 短時間・有期雇用労働者」)。具体的には、不合理な待遇差の解消等に当たり、以下のような留意事項を明記しています。
無期雇用フルタイム労働者や、勤務地・職務・時間を限定した「多様な正社員」は、パートタイム・有期雇用労働法の対象ではありません。それでも、労働契約法3条2項に基づく均衡の考慮にあたっては、ガイドラインの趣旨が考慮されるべきであることが新たに記載されました(指針「第6 所定労働時間が通常の労働者と同一であり、かつ、事業主と期間の定めのない労働契約を締結している労働者等」)[2][4]。有期契約が無期契約に転換する前に、不合理な待遇差がないかを点検し、ある場合は確実に解消することも求められています[4]。
まず、自社の手当・福利厚生のそれぞれについて、どのような目的で設けられているのか、非正規雇用労働者の待遇はどのようになっているかを再度確認・明確化することが考えられます。そのうえで、待遇差があるものは、その待遇の性質・目的から理由を説明できるよう整理しておくことが重要です。[5]
ガイドラインは、杓子定規な当てはめを求めているわけではなく、列挙された待遇について、非正規雇用労働者に常に全く同額を払う必要があるというわけではありません。あくまでも、職務の内容や配置の変更の範囲、職務の成果、能力、経験、合理的な労使の慣行、事業主と労働組合や過半数代表者等との間の交渉といった労使交渉の経緯や結果等の諸事情を総合的に考慮し、待遇の性質・目的に照らして客観的・具体的に合理性を判断することになります。したがって、例えば、家族手当等の「相応に継続的な勤務」についても具体的な年数は示されていませんが、上記諸事情を考慮した上で自社の基準を決めて文書化しておくことも有効と考えられます。
また、改正全体を通じて「労使コミュニケーション」と「説明・納得」が重要となっています。労使で十分に話し合った結果として待遇を決めた事情は、待遇差が不合理でないと判断される材料にもなりえます。したがって、非正規雇用労働者の意向を聴き、その経過を記録に残しておくことも実践的な備えと考えられます。[4]
この「労使コミュニケーション」を支える仕組みとして見落とせないのが、同時に改正された雇用管理指針です。パートタイム・有期雇用労働法7条は、非正規雇用労働者に適用される就業規則を作成・変更するとき、その過半数を代表する者の意見を聴くよう事業主に求めています(努力義務)。
この過半数代表者の要件は、これまで行政の解釈通達で示されていたにとどまっていました[6]。要件とは、管理監督者でないことと、選出目的を明らかにした投票・挙手等で、事業主の意向によらずに選ばれることの2点です。
今回の改正では、これらの要件に加えて、パート・有期過半数代表者として正当な行為をしたこと等を理由とする不利益取扱いの禁止、及び事務スペースや社内メール等の提供といった事務遂行のための「必要な配慮」を行う義務等が告示である雇用管理指針に定められました[2][7]。
背景には、同一労働同一賃金部会での議論があります。部会では、非正規雇用労働者の意見をより反映させる方策が論点とされ、パート・有期雇用労働者を含めて労使の話合いを行った企業は2〜3割程度にとどまるという調査結果も示されました[8][9]。2025年12月の部会報告は、こうした過半数代表者が事務を円滑に遂行できるよう必要な配慮等を指針等で示すこととし、その際には労働条件分科会の議論の状況も踏まえるとしました[10]。
なお、雇用管理指針の改正にはこのほか、待遇の相違の内容等を説明するに当たっては、「資料を活用し、口頭により説明する方法」又は「説明すべき事項を全て記載した短時間・有期雇用労働者が容易に理解できる内容の資料を交付する等の方法」によるものとすること等、事業者による説明の充実に関する記載も盛り込まれています。
指針への対応の工夫
指針への対応は、手続を少し工夫することにより、代表者にとっても会社にとっても負担の少ない形で進めることもできるでしょう。例えば、過半数代表者の事務遂行のための「必要な配慮」については、イントラネットや社内電子メールを利用させることが例示されています。また、過半数代表者の選出手続や意見集約にあたっても、選出の目的や、立候補しても不利益がないこと等を記した案内を全員に配る、或いはイントラネット上に掲示し、スマートフォンから投票できるようにする例や、Webフォームを意見集約に使えるようにする例などの工夫が、審議会資料において企業の事例とともに紹介されています[11]。
これらは周知・意見集約等を容易にするとともに、選出・交渉の経過の記録としても機能し、代表者の意見、会社の回答の記録と併せて、4.で触れた「話合いの記録」としても活用しうると考えられます。
パート・有期の過半数代表者のルールが指針に引き上げられた一方で、労基法側でも、施行規則にとどまっている過半数代表者のルールそのものを法律に規定することが議論されています。
2026年9月16日、労働政策審議会労働条件分科会は労働基準関係法制の議論を再開し、過半数代表者等の在り方を最初の論点に取り上げました。事務局が示した主な論点は次のとおりです[12]。
いずれも現時点では論点整理の段階で、法改正の内容や時期は決まっていませんが、適切な労使コミュニケーションの基盤整備・活性化といった方向性は、今回の指針改正と重なっています。パート・有期社員の意見聴取のために選出・配慮・記録の仕組みを再点検し、整備・運用しておくことは、今後の労基法改正への準備にもなると考えられます。