SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 Legal Update
2026年9月24日
SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下 剣志郎
SAKURA法律事務所は、このたび、代表弁護士 道下剣志郎によるLegal Update第11弾として、「2027年施行 改正外為法と対内直接投資審査――外国投資家・海外PEによる日本企業への投資・M&Aに与える影響」を公開いたしました。
日本企業への外国投資は、資本、技術、人材及び国際市場へのアクセスをもたらし、日本経済の成長にとって重要な役割を果たしています。他方、半導体、AI、サイバーセキュリティ、通信、エネルギー、防衛・宇宙、重要インフラその他の分野では、投資を通じた機微技術・重要情報の流出や、重要な事業・サービスの安定供給への影響が経済安全保障上の課題となっています。
こうした状況を踏まえ、2026年5月29日に「外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律」が成立し、同年6月5日に公布されました。さらに、2026年9月16日には関係政令、省令及び告示が公布され、財務省は、これらを2027年1月4日に施行し、2027年2月3日から全面適用する予定であると公表しています。
今回の改正は、単に事前届出の対象業種を追加するものではありません。リスク軽減措置の法的位置付けの明確化、海外で行われる買収等を通じた日本企業株式の間接取得への規制拡張、外国政府等の支配・影響下にある投資活動への対応、従来は事前届出の対象でなかった投資に対する事後的な介入制度の新設、重要技術を保有する企業に着目した事前届出対象の見直し、省庁横断的な審査体制の強化等を含む、対内直接投資審査制度の構造的な見直しです。
外国投資家、海外PEファンド、海外VC、事業会社、ファミリーオフィスその他の投資主体が日本企業への投資又は買収を検討する場合、外為法の確認はクロージング直前に行えば足りるものではありません。投資家の属性、最終親会社、支配・影響関係、対象会社の事業及び保有技術、投資比率、取締役指名、機密情報へのアクセス、投資後のガバナンス設計等を、案件初期から一体として確認する必要があります。
本稿では、2026年9月24日時点において公表されている改正法、政省令・告示及び財務省資料を踏まえ、2027年から適用される新制度の主要な変更点を整理した上で、外国投資家及び日本企業がM&Aその他の投資案件においてどのように対応すべきかを、実務的な観点から解説します。
本稿の要旨
2027年の外為法改正では、日本企業への投資審査が、従来の「外国投資家が指定業種を営む日本企業の株式を直接取得する場合」を中心とする制度から、より実質的な支配・影響、重要技術へのアクセス及び投資後の安全保障リスクを捉える制度へと広がります。
特に重要なのは、外国法人等を買収することによって、その外国法人等が保有する日本企業株式を間接的に取得する一定の取引が、新たに事前届出の対象となる点です。財務省は、類型的に特にリスクの高い外国投資家については、一定の場合、日本企業の株式等を間接的に1%以上保有することとなるケースを届出対象とし、事前届出免除制度を利用可能な外国投資家については、日本企業の株式等を50%以上保有することとなる一定のケースを対象とする制度設計を示しています。
また、外国政府等の支配・影響下で、その外国政府等のために投資活動を行う一定の日本法人・国内居住者についても、外国投資家とみなされ、事前届出等の対象となり得ます。形式的な投資主体の所在地や法人格だけではなく、実質的な支配・指示関係を確認することが一層重要になります。
さらに、従来は事前届出の対象でなかった非指定業種への投資についても、類型的に特にリスクの高い外国投資家が10%以上の株式・議決権を取得した一定の投資について、投資実行後5年間、当局が必要な報告を求め、場合によってはリスク軽減措置や株式処分等の勧告・命令を行う制度が導入されます。
したがって、2027年以降のクロスボーダーM&Aでは、「対象会社が指定業種か」という一点だけで外為法対応を判断することは適切ではありません。投資家属性、間接取得、対象会社の重要技術、投資後の情報アクセス、取締役指名、リスク軽減措置、事後介入可能性まで含めたFEFTA分析を案件初期から行い、LOI、デューデリジェンス、SPA、クロージング条件及びPMIへ反映することが重要です。
1 外為法の対内直接投資審査制度とは何か――外国投資を禁止する制度ではない
外国為替及び外国貿易法、いわゆる外為法は、対外取引の自由を原則としながら、国の安全、公の秩序、公衆の安全及び我が国経済の円滑な運営等の観点から、一定の対内直接投資等について事前届出その他の規律を設けています。
現行制度では、外国投資家が指定業種を営む日本企業に対して一定の対内直接投資等を行う場合、原則として事前届出が問題となります。上場会社については一定割合以上の株式取得、非上場会社については株式取得そのものが対内直接投資等に該当し得るほか、外国投資家又はその関係者の取締役・監査役への就任に対する同意や、指定業種に属する事業の譲渡・廃止に関する提案への同意等も規制対象となり得ます。
もっとも、外為法は外国投資を一般的に排除する制度ではありません。財務省も、2026年改正について、日本経済の健全な発展に寄与する対内直接投資を一層促進しつつ、国の安全等を損なうおそれのある投資へ適切に対応することを目的としていると説明しています。重要なのは、健全な投資促進と経済安全保障を両立するため、投資のリスクに応じた審査を行うという点です。
2 2026年改正の背景――投資審査は「業種」から「支配・技術・情報」へ
今回の制度改正の背景には、2020年改正後の運用実績に加え、経済安全保障をめぐる環境の急速な変化があります。従来の投資審査制度は、武器、航空機、原子力、通信、インフラ等の指定業種を中心として構築されてきましたが、近年は、企業が営む業種だけでは安全保障上重要な技術・情報を十分に把握できない場面が増えています。
例えば、一般的なソフトウェア企業であっても、安全保障上重要なアルゴリズム、暗号技術、AI関連技術、大量の機微データ等を保有する可能性があります。また、対象会社を直接買収しなくても、海外持株会社を買収することで間接的に日本企業を支配することも可能です。
改正法は、このような実態を踏まえ、形式的な業種分類や直接投資だけではなく、最終的な支配関係、投資家の属性、重要技術へのアクセス、間接取得、投資後に生じる安全保障リスクまで捕捉できる制度へ移行しようとするものと理解できます。
3 施行時期――2027年1月4日施行、2月3日から全面適用予定
財務省は、2026年9月16日に、改正法の施行に伴う関係政令、省令及び告示を公布し、これらを2027年1月4日に施行し、同年2月3日から全面適用する予定であると公表しています。
したがって、2026年末から2027年初頭にかけて署名又はクロージングを予定する案件では、旧制度と新制度のどちらが適用されるか、届出時点と実行時点をどのように設計するかを個別に確認する必要があります。契約締結日だけで判断するのではなく、株式取得、議決権取得、役員選任その他の規制対象行為がいつ行われるかを正確に特定することが重要です。
過渡期の案件では、SPAの外為法関連条項、クロージング条件、ロングストップデート及び当局対応義務について、新制度の適用可能性を踏まえて確認する必要があります。
4 第一の重要改正――リスク軽減措置が法制度上明確に位置付けられる
外為法の投資審査では、投資自体を全面的に中止させるのではなく、一定の条件を課した上で投資を認める実務が重要となっています。この条件がリスク軽減措置です。財務省は、具体例として、外国政府の影響を受けて株主権を行使しないこと、投資先企業の機密情報へアクセスしないこと等を挙げています。
改正法では、リスク軽減措置を事前届出事項として明確に位置付けるとともに、投資実行後に届出済みのリスク軽減措置を実施しない場合や変更しようとする場合の手続及び当局権限が整備されます。必要に応じて、変更の中止又は新たな措置を講ずることについて勧告・命令が行われ、さらに一定の場合には取得株式等の処分その他の措置命令につながり得ます。
M&A契約実務では、リスク軽減措置を単なる「当局とのサイドレター」として扱わず、SPA、株主間契約、情報管理規程、取締役会運営、アクセス権限及びPMIへ落とし込む必要があります。例えば、特定情報へのアクセス制限、特定役員の関与制限、議決権行使に関する制約等が課される場合、投資後のガバナンス設計そのものに影響します。
5 第二の重要改正――海外M&Aを通じた日本企業株式の「間接取得」が規制対象へ
今回の改正で、クロスボーダーM&A実務上とりわけ重要なのが間接取得への対応です。従来、外国投資家が指定業種を営む日本企業の株式等を直接取得する場面が中心的な規制対象でした。これに対し、別の外国投資家が、その日本企業株式を保有する外国法人を海外で買収する場合、経済的には日本企業への支配が変化するにもかかわらず、現行制度では十分に捕捉できない場面がありました。
改正法は、一定の間接取得を事前届出の対象へ加えます。財務省の説明では、間接取得者が新たに直接保有法人等の議決権の50%以上を取得する行為や、間接取得者の関係者が新たに直接保有法人又はその親会社の役員の過半数を占める行為等が規制対象として想定されています。
さらに、間接取得者が、外国政府等をはじめとする類型的に特にリスクの高い外国投資家で、事前届出免除制度を利用できない類型に該当する場合には、海外法人の買収等を通じて日本企業株式等を1%以上保有することとなる一定のケースで事前届出が必要になるとされています。他方、事前届出免除制度を利用可能な外国投資家については、日本企業株式等を50%以上保有することとなる一定のケースに対象を限定する制度設計が示されています。
したがって、海外企業同士のM&Aであっても、買収対象グループに日本子会社・日本投資先が含まれる場合には、Japan nexusを早期に確認する必要があります。「日本企業を直接買っていないから外為法は関係ない」という判断は、2027年以降、一層危険になります。
6 海外PEファンド・グローバルM&Aで何が変わるか――ポートフォリオ全体のJapan nexus確認が必要
海外PEファンドやグローバル事業会社が海外ターゲットを買収する場合、対象企業グループが世界各国に子会社・投資先を保有していることは珍しくありません。改正後は、その中に日本企業への重要な持分が含まれる場合、グローバル取引の一部として外為法上の事前届出が問題となり得ます。
したがって、クロスボーダーM&Aの法務デューデリジェンスでは、日本法人が存在するかだけではなく、海外法人が日本企業株式を何%保有しているか、その日本企業が指定業種又は重要技術関連の対象となるか、買主の属性は何か、免除制度を利用可能か、買収後に誰が役員・情報アクセス権限を持つかまで確認する必要があります。
特に競争法、外国投資審査、輸出管理等を複数国で並行対応する大型案件では、日本の外為法をグローバルregulatory approvalsの一つとして早期に案件管理表へ組み込むことが重要です。
7 第三の重要改正――外国政府等の支配・影響下にある国内投資家も「外国投資家」とみなされ得る
外為法は、従来から、非居住者等が議決権の過半数を保有する日本法人や、非居住者が役員の過半数を占める一定の法人等を外国投資家として取り扱ってきました。また、国内投資家が外国投資家の計算において投資する一定の場面も規制対象としてきました。
今回の改正では、これに加え、日本法人や国内居住者であっても、契約、外国法令その他の関係に基づき非居住者等の指示を受けて投資を行う場合や、親族関係、雇用関係、外国政府の情報収集活動への協力義務等の特別な関係を通じて、類型的に特にリスクの高い非居住者等のために投資する場合には、一定の要件の下で外国投資家とみなす仕組みが整備されます。
重要なのは、投資ビークルが日本法人であるという形式だけでは規制対象外と判断できないことです。ファンド、共同投資、SPV、ファミリーオフィスその他のストラクチャーでは、LP、スポンサー、投資委員会、サイドレター、指図権、情報提供義務その他の実質的関係を確認する必要が高まります。
8 第四の重要改正――非指定業種への投資にも事後介入制度が導入される
現行制度では、非指定業種への投資は、一定の場合に事後報告を求められるものの、指定業種に対する事前審査と比較すれば当局による介入可能性は限定的でした。今回の改正は、この構造を一部変更します。
財務省の説明によれば、事前届出の対象でない対内直接投資等のうち、投資家が類型的に特にリスクの高い外国投資家に該当し、かつ10%以上の株式・議決権を取得した一定の投資について、国際情勢の変化その他の事情により国の安全を損なうおそれの大きい投資に該当する可能性が高い場合、当局は投資実行後5年間に限って報告を求めることができるようになります。
その上で、安全保障上の重大なリスクが認められる場合には、リスク軽減措置や株式処分等の勧告・命令が可能となり、緊急性が著しく高い場合には一定の直接命令も予定されています。
この改正により、投資時点で「対象会社は非指定業種だから外為法リスクは終了」と考えることはできません。特に高リスク投資家に該当する場合には、投資後のモニタリング、事業変更、技術取得、情報アクセス等も含めた継続的な管理が必要となります。
9 第五の重要改正――事前届出対象が「重要な技術」の保有にも着目する
従来の事前届出制度は、対象会社がどの業種を営んでいるかを重要な判断要素としてきました。しかし、技術革新が進む中では、企業の業種分類だけで安全保障上重要な技術を把握することが難しい場合があります。
このため、2027年施行の関係政省令・告示では、指定業種による規制を補完する形で、重要な技術の保有に着目した事前届出対象の仕組みが導入されます。財務省は、外為法上の技術管理における特定技術及び重要管理対象技術等を念頭に置いた制度整備を進めています。
この変更は、M&Aデューデリジェンスに大きな意味を持ちます。今後は、定款・登記上の事業目的、売上構成、業種コードだけではなく、対象会社が実際にどのような研究開発を行い、どのような技術、ソースコード、設計情報、製造ノウハウその他の技術情報を保有しているかを確認する必要があります。外為法のDDが、事業DD・知財DD・技術DDとより密接に接続することになります。
10 指定業種の見直し――規制合理化と経済安全保障強化が同時に進む
今回の制度見直しは、規制を一律に拡大するものではありません。財務省は、届出件数が大幅に増加している情報通信技術関連業種について、サイバーセキュリティ対策その他の安全保障上の観点から真に必要性の高いものへ対象を絞り込むなど、審査の効率化も進めています。
一方で、重要技術、経済安全保障上重要な物資・サービス、重要な情報等に関係する分野については、より的を絞った審査を行う方向です。つまり、形式的な業種指定を広く維持するのではなく、リスクの高い対象へ審査資源を集中するrisk-based approachが強まっています。
対象会社が指定業種に該当するかについては、2027年施行の政省令・告示及び対象会社の実際の事業・技術に基づき個別に判定する必要があります。過去の届出要否判定をそのまま流用することは避けるべきです。
11 対日外国投資委員会(JFIC)の創設――審査は一層省庁横断的になる
2026年6月29日、政府は対日外国投資委員会、Japan Foreign Investment Committee、いわゆるJFICを設置しました。財務省と国家安全保障局が共同議長を務め、外務省、経済産業省、防衛省等が参加し、事業所管省庁とも連携する省庁横断的な審査体制です。
改正法では、財務大臣及び事業所管大臣が対内直接投資等の審査に当たり国の安全等の観点から必要と認める場合に、関係行政機関の長へ意見を求める仕組みが法制上整備されています。
投資家側にとっては、対象会社の事業だけでなく、サプライチェーン上の位置付け、重要技術、データ、政府調達、防衛・経済安全保障上の関係等が、従来以上に多角的に確認される可能性があります。提出資料及び当局説明についても、単なる形式的な届出ではなく、案件の実質を一貫して説明できる準備が重要です。
12 外国投資家とは誰か――国籍だけでは判断できない
外為法上の「外国投資家」の該当性は、投資担当者やファンドマネージャーの国籍だけで判断されるものではありません。非居住者、外国法令に基づき設立された法人、一定の外資比率又は役員構成を有する日本法人等が問題となり、2027年改正後は外国政府等の支配・影響下にある一定の国内主体へのみなし規定も加わります。
PEファンドでは、GPだけでなく、投資ビークルの設立地、議決権、LP構成、政府系投資家の参加、スポンサーとの関係、投資委員会の意思決定構造等を確認する必要が生じる場合があります。事業会社でも、最終親会社、国有企業該当性、支配関係等が審査上重要です。
したがって、外為法分析は対象会社側だけでは完結しません。買主側KYC・ownership analysisと対象会社側sector/technology analysisを組み合わせる必要があります。
13 事前届出免除制度――「免除できる投資家」でも無条件ではない
外為法には、一定の外国投資家が一定の条件を遵守する場合に、指定業種への投資について事前届出を免除する制度があります。しかし、すべての外国投資家が利用できるわけではなく、投資家の属性、対象会社の業種、投資後の行為等によって利用可能性が異なります。
また、免除制度を利用する場合でも、所定の免除基準を遵守する必要があります。例えば、対象会社の経営への関与、非公開技術情報へのアクセス、一定の事業譲渡・廃止提案等との関係で条件が問題となり得ます。
改正後の間接取得制度でも、事前届出免除制度を利用できない高リスク投資家と、免除制度を利用可能な投資家とで届出対象の閾値が異なる設計が採られています。したがって、「通常の機関投資家だから免除」「少数株主だから問題ない」といった抽象的な判断ではなく、案件ごとに具体的な適用関係を確認する必要があります。
14 外為法デューデリジェンス――買主と売主が確認すべき事項
クロスボーダーM&Aにおける外為法デューデリジェンスでは、まず対象会社及びその子会社の事業内容を確認し、指定業種及び重要技術に関する該当性を検討します。対象会社が複数事業を営む場合、一部の売上しか占めない事業であっても届出要否に影響する可能性があります。
次に、過去の外国投資家による株式取得、役員選任、事業譲渡等について必要な事前届出・事後報告が適切に行われていたかを確認します。無届が存在する場合、買収後に発覚すれば当局対応や取引スケジュールに影響し得ます。
さらに、対象会社が保有する重要技術・機密情報、外国投資家との既存の情報共有、過去に約束したリスク軽減措置、当局とのコミュニケーション、グループ内再編、ライセンス契約、海外子会社等も確認する必要があります。売主側も、案件開始前に自社の外為法ステータスを整理しておくことで、入札案件の予見可能性を高めることができます。
15 SPAで何を定めるべきか――外為法承認は「誰かが届出する」だけの問題ではない
外為法の事前届出が必要となるM&Aでは、SPAにおいて当局対応を明確に定めることが重要です。一般的には、誰が届出を作成・提出するか、相手方がどの情報提供に協力するか、当局から質問や追加資料要求があった場合にどう対応するか、当局との面談やコミュニケーションについてどこまで相手方と協議するかを定めることが考えられます。
さらに重要なのは、当局からリスク軽減措置を求められた場合の負担分配です。買主にとって許容できない情報アクセス制限、議決権制限、事業運営上の制約等が求められた場合、どこまで受け入れる義務を負うのかを契約上整理しておく必要があります。いわゆるhell-or-high-water型の義務を負わせるか、一定のmateriality thresholdを置くかは、案件の競争状況及び買主のリスク許容度によって異なります。
クロージング条件についても、「外為法上必要な届出を行ったこと」では足りず、法定待機期間が経過し、クロージングを妨げる命令等が存在しないこと、必要なリスク軽減措置が双方の合意可能な内容で確定していること等をどのように定義するかが重要です。
16 LOI・入札段階から外為法を確認すべき理由
外為法対応は、SPA締結後に法務部門が確認すればよい事項ではありません。競争入札案件では、外為法対応の難易度が取引確実性、クロージング期間及び価格評価に直接影響します。
買主が高リスク投資家に該当する可能性が高い場合、対象会社が機微技術を保有する場合、情報アクセスに強い制限がかかる可能性がある場合には、売主が別の買主を選択する要因になり得ます。反対に、早期に外為法分析を行い、届出方針、想定スケジュール及びリスク軽減措置への対応姿勢を提示できれば、transaction certaintyを示す材料になります。
したがって、LOI、NBO、binding offer等の段階から外為法条件を確認し、必要であれば規制当局対応のタイムラインを取引全体の工程表へ組み込むことが望まれます。
17 少数投資・VC投資でも外為法は無関係ではない
外為法は100%買収や支配権取得だけを対象とする制度ではありません。上場会社の一定割合以上の取得、非上場会社の株式取得、役員選任への同意等、少数投資でも規制対象となり得ます。
特にスタートアップへの海外VC・CVC投資では、投資比率が小さくても、投資先がAI、半導体、サイバーセキュリティ、量子、宇宙、通信その他の重要技術に関係する場合、外為法上の事前確認が必要になることがあります。
また、投資契約上の情報権、オブザーバー権、取締役指名権、重要事項への同意権等が、免除制度や審査実務との関係で重要になることがあります。投資契約の経済条件だけでなく、ガバナンス権限と情報アクセスを外為法の観点からレビューする必要があります。
18 無届・誤判定が判明した場合――放置せず、速やかな当局対応を検討する
外為法上必要な事前届出を行わずに投資を実行した場合、刑事罰の対象となる可能性があるほか、財務大臣及び事業所管大臣による株式売却その他の措置命令の対象となる場合があります。免除基準違反についても、勧告・命令や措置命令が問題となり得ます。
財務省は、無届等が判明した場合には、外国投資家に対し、速やかに事案調査票を作成し、提出漏れとなった届出書等とともに連絡する手続を案内しています。当局は、違反が意図的であったか、自主申告であるか、判明後に速やかに申告したか、隠蔽の有無、反復性等を考慮して対応すると説明しています。
したがって、M&A後の法務監査やコンプライアンスレビューで過去の無届が発見された場合には、放置又は形式的な追完だけで済ませず、事実関係、届出要否、違反時期、投資家属性、対象事業、当局への説明及び再発防止策を整理した上で、速やかな対応を検討することが重要です。
19 投資先日本企業にとっての実務――売主・対象会社も外為法対応の主体である
届出義務の主体が外国投資家である場合でも、日本企業側が外為法対応と無関係であるわけではありません。投資家が届出要否を判断するためには、対象会社から正確な事業・技術情報を取得する必要があります。
特に2027年以降、重要技術の保有が届出要否に影響する場面では、対象会社自身が自社の技術・情報を把握していなければ、取引初期に正確な回答を行うことが難しくなります。また、リスク軽減措置として情報アクセス制限等が課された場合、対象会社側のシステム、社内規程、取締役会運営等の変更が必要になる可能性があります。
売却を検討する日本企業は、案件開始前に外為法のセルフDDを行い、指定業種、重要技術、過去届出、外国株主、リスク軽減措置等を整理しておくことが、取引のスムーズな進行に資します。
20 クロージング後も終わらない――PMIと継続的コンプライアンス
外為法対応はクロージングで終了するとは限りません。届出時に約束したリスク軽減措置が存在する場合には、投資後も継続して遵守する必要があります。さらに、改正後は一定の変更について事前届出が必要となり、非指定業種への一定の投資についても事後的な報告・介入制度が導入されます。
したがって、PMIでは、リスク軽減措置を法務部門だけが保管するのではなく、IT、情報セキュリティ、経営企画、取締役会事務局その他実際に措置を運用する部門へ落とし込む必要があります。役員交代、情報アクセス権限変更、事業再編、技術移転等が外為法上の新たな手続を生じさせないかを確認する運用も重要です。
買収後のガバナンス設計と外為法コンプライアンスを分離せず、継続的なモニタリング体制として運用することが求められます。
21 SAKURA法律事務所が考える改正外為法対応の要諦
2027年改正後の外為法実務で最も重要なのは、届出要否を「業種×株式取得比率」の機械的なチェックだけで終わらせないことです。今回の改正は、投資家の実質的な属性、外国政府等の支配・影響、間接取得、重要技術、リスク軽減措置、投資後の安全保障リスクまでを一体として捉える方向へ制度を進化させています。
そのため、クロスボーダーM&Aでは、会社法、契約法、競争法、輸出管理、経済安全保障、知的財産、情報管理等を横断した検討が必要になります。外為法だけを案件終盤で独立して確認するのではなく、ストラクチャリング、DD、契約交渉及びPMIへ統合することが重要です。
SAKURA法律事務所及び代表弁護士 道下剣志郎は、クロスボーダーM&A、企業法務、国際取引、IT・AI、個人情報、Web3・金融規制その他の分野を横断し、外国投資家による日本企業への投資及び日本企業側の受入れに関する法的支援を行っています。外為法対応についても、単なる届出書作成ではなく、取引全体の実行可能性、情報管理、ガバナンス及び契約条件を踏まえた実務的な助言が重要であると考えます。
22 よくあるご質問
Q1 外国企業が日本企業を買収する場合、必ず外為法の事前届出が必要ですか。
必ず必要というわけではありません。投資家の属性、対象会社の業種・保有技術、投資形態、取得割合、免除制度の利用可能性その他の事情によって異なります。もっとも、非上場会社の株式取得や指定業種を営む会社への投資では届出が問題となることが多いため、案件初期に確認することが重要です。
Q2 海外企業同士のM&Aでも、日本の外為法が問題になりますか。
2027年改正では、海外法人の買収等を通じて日本企業株式を間接的に取得する一定の取引が事前届出の対象に加わります。買収対象グループが日本企業の株式を保有している場合には、海外取引であってもJapan nexusを確認する必要があります。
Q3 対象会社が指定業種でなければ、外為法のリスクはありませんか。
そうとは限りません。改正後は重要技術の保有に着目した事前届出対象が導入されるほか、一定の高リスク投資家による非指定業種への投資について、投資後5年間の報告徴求やリスク軽減措置・株式処分等の勧告・命令が問題となり得ます。
Q4 日本法人が買主であれば、外国投資家には該当しませんか。
日本法人であることだけでは結論できません。現行制度でも一定の外資系日本法人は外国投資家に該当し、改正後は外国政府等の支配・影響下で一定の投資活動を行う国内主体を外国投資家とみなす規定も整備されます。実質的な支配・指示関係の確認が必要です。
Q5 海外PEファンドの投資では何を確認すべきですか。
投資ビークルだけでなく、GP、スポンサー、最終親会社、LP構成、政府系投資家の関与、投資委員会、指図関係等が問題となる場合があります。また、対象会社の指定業種・重要技術、投資比率、取締役指名・情報権等も併せて確認する必要があります。
Q6 事前届出免除を利用すれば、外為法対応は不要になりますか。
免除制度を利用する場合でも、利用資格及び免除基準を満たし続ける必要があります。また、一定の事後報告や投資後の行為制限等が問題となることがあります。免除は「外為法が適用されない」という意味ではありません。
Q7 SPAでは外為法についてどのような条項が必要ですか。
届出・当局対応の担当、情報提供義務、当局との協議、クロージング条件、ロングストップデート、リスク軽減措置を求められた場合の負担、許容できない措置が要求された場合の解除権等を案件に応じて設計する必要があります。
Q8 過去の無届がDDで見つかった場合はどうすべきですか。
まず当時の事実関係と法令に基づき本当に届出義務があったかを確認します。無届であった場合、財務省は速やかな自主的連絡の手続を公表しています。違反の経緯、自主申告の有無、隠蔽・反復性等が当局対応で考慮されるため、放置せず、事実整理と当局対応を検討することが重要です。
23 代表弁護士 道下剣志郎「Legal Update」について
SAKURA法律事務所では、代表弁護士 道下剣志郎のプロフィールページに「Legal Update」を設け、企業法務、M&A、国際取引、AI・IT、個人情報、知的財産、危機管理、労働、内部通報、Web3・暗号資産その他、企業及び経営者が直面する重要な法律問題について継続的に情報を発信しています。
Legal Updateでは、法令又は制度の概要を紹介するだけでなく、法改正が企業の取引ストラクチャー、契約、デューデリジェンス、情報管理、取締役会、社内規程、クロージング及び経営判断にどのような影響を与えるかを、実務に即して検討します。
第11弾となる本稿では、2027年から施行・全面適用される改正外為法と対内直接投資審査を取り上げました。今後も、クロスボーダーM&A、外国企業の日本進出、国際訴訟、外国判決の執行、国際仲裁、名誉毀損、企業不祥事、Web3・暗号資産その他の分野について、SAKURA法律事務所及び代表弁護士 道下剣志郎の実務経験を踏まえたLegal Updateを順次公開する予定です。
24 改正外為法・外国投資・クロスボーダーM&Aに関してご相談いただける事項
SAKURA法律事務所では、外国投資家、海外PEファンド、海外VC、事業会社その他の投資家による日本企業への株式取得、M&A、少数投資、JVその他の投資案件について、外為法上の外国投資家該当性、事前届出・事後報告の要否、指定業種・重要技術の分析、事前届出免除制度、間接取得、外国政府等の支配・影響関係、リスク軽減措置、当局対応等に関する法的支援を行っています。
また、日本企業側についても、売却前の外為法セルフデューデリジェンス、入札案件における買主の規制リスク評価、データルーム情報の整理、SPA及び株主間契約の外為法条項、クロージング条件、リスク軽減措置への対応、PMIその他の継続的コンプライアンスについて支援することが可能です。
海外企業同士のM&Aで対象グループに日本企業への出資が含まれる案件、ファンドの投資家構成や政府系投資家の関与が複雑な案件、AI・半導体・サイバーセキュリティ・通信その他の機微技術を有する企業への投資等についても、案件全体のストラクチャーを踏まえて検討いたします。
25 お問い合わせ
改正外為法、対内直接投資審査、外国投資、クロスボーダーM&A、外為法デューデリジェンス、事前届出・事後報告、事前届出免除、リスク軽減措置その他の国際企業法務に関するご相談は、SAKURA法律事務所までお問い合わせください。
お問い合わせの際には、ご相談内容に「改正外為法・外国投資・クロスボーダーM&Aに関する相談」とご記載いただけますと、担当弁護士へのご案内が円滑です。
SAKURA法律事務所
代表弁護士 道下 剣志郎
〒106-0032 東京都港区六本木一丁目4番5号 アークヒルズサウスタワー4F
電話 03-6910-0692
本記事の執筆・監修
SAKURA法律事務所
代表弁護士 道下 剣志郎
主な参考資料
財務省「外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律」について(2026年6月5日)
財務省「外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令等について」(2026年9月16日)
財務省「対内直接投資等及び特定取得に関する違反等のモニタリングについて」
※本記事は、2026年9月24日時点における外為法、2026年改正法、関係政省令・告示、財務省その他の公表資料を基礎として、一般的な法的情報を提供することを目的とするものです。個別具体的な案件について法的助言又は法律上の結論を示すものではありません。外為法上の届出・報告の要否は、投資家の属性及び支配関係、対象会社の事業及び保有技術、投資比率、投資形態、免除制度の利用可能性、取締役指名・情報アクセスその他の事実関係によって異なります。また、2027年施行に向けてガイドライン、当局資料その他の運用情報が追加・更新される可能性があります。具体的な案件については、実行時点の最新法令及び公表資料を確認した上で個別に検討する必要があります。