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2026.09.30

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【SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 Legal Update】2026年12月1日施行 改正公益通報者保護法――内部通報制度、通報者保護、フリーランス対応及び企業が施行前に見直すべき実務について公開いたしました。

SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 Legal Update

2026年9月24日

SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下 剣志郎

SAKURA法律事務所は、このたび、代表弁護士 道下剣志郎によるLegal Update第10弾として、「2026年12月1日施行 改正公益通報者保護法――内部通報制度、通報者保護、フリーランス対応及び企業が施行前に見直すべき実務」を公開いたしました。

公益通報者保護法は、企業その他の組織における法令違反を早期に把握し、是正するための重要な制度基盤です。内部通報制度が実効的に機能すれば、不祥事が重大化する前に組織自らが問題を発見し、是正し、再発防止につなげることができます。他方、通報者の探索、報復的な人事処分、通報を思いとどまらせる誓約、調査過程における情報漏えい等が生じれば、制度そのものへの信頼が失われ、結果として重大な不正が外部通報や報道によって初めて顕在化するリスクが高まります。

2025年6月11日に公布された公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)は、2026年12月1日に施行されます。今回の改正は、単に内部通報窓口の規程を一部修正すれば足りるというものではありません。公益通報者の範囲へのフリーランスの追加、通報妨害及び通報者探索の禁止、通報後1年以内の解雇・懲戒に関する推定規定、公益通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰、従事者指定義務に対する行政監督の強化、内部公益通報対応体制の周知義務の明確化など、企業の人事、業務委託、社内調査、危機管理及び経営判断に直接影響する改正が含まれています。

本稿では、2026年9月24日時点における改正法、改正後の法定指針及びその解説、消費者庁の公益通報者保護制度Q&Aその他の公表資料を踏まえ、改正法の内容を整理した上で、企業が施行日までにどこを見直すべきか、通報を受けた際にどのように初動対応を行うべきか、通報者保護と適正な社内調査をどのように両立させるべきかを、実務的な観点から解説します。

本稿の要旨

2026年12月1日から、改正公益通報者保護法が施行されます。今回の改正では、事業者と業務委託関係にある一定のフリーランス及び業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスが新たに公益通報者の範囲に加わり、公益通報を理由とする業務委託契約の解除、取引数量の削減、取引停止、報酬減額その他の不利益な取扱いが禁止されます。

また、正当な理由なく公益通報をしない旨の合意を求めるなどして通報を妨げる行為が禁止され、そのような違法な合意その他の法律行為は無効とされます。正当な理由なく公益通報者を特定することを目的とする探索行為も明文で禁止されます。

さらに、公益通報をした労働者について、原則として通報後1年以内にされた解雇又は懲戒は公益通報を理由としてされたものと推定されます。公益通報を理由として解雇又は懲戒を行った者には6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が科される可能性があり、法人には3,000万円以下の罰金が科され得ます。従業員数301人以上の事業者については、公益通報対応業務従事者の指定義務に関する命令権及び立入検査権が新設され、命令違反や検査拒否等にも刑事罰が設けられます。

施行対応として企業が優先すべきなのは、内部通報規程の改定だけではありません。通報者の範囲、窓口の利用対象、周知方法、従事者指定、利益相反の排除、経営幹部案件の独立ルート、通報者探索の防止、人事処分前の法務確認、業務委託先・フリーランスへの対応、証拠保全、調査記録、通報後のフォローアップ等を一体として見直す必要があります。

1 2026年12月1日施行――内部通報制度は何が変わるか

公益通報者保護法は、公益通報をしたことを理由とする不利益な取扱いを禁止し、一定の事業者に内部公益通報対応体制の整備等を求めることで、通報者の保護と法令遵守の促進を図る法律です。2022年6月施行の改正により、常時使用する労働者が300人を超える事業者には、公益通報対応業務従事者の指定及び内部公益通報対応体制の整備等が義務付けられました。

今回の2025年改正は、その制度をさらに一段進めるものです。改正の柱は、第一に公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性向上、第二に公益通報者の範囲拡大、第三に公益通報を阻害する要因への対処、第四に公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化です。

企業実務への影響は広範です。内部通報窓口を所管する法務・コンプライアンス部門だけでなく、人事部門、内部監査、調達・購買、事業部門、経営企画、取締役会、社外役員及び外部専門家の役割分担まで見直す必要があります。施行対応を「内部通報規程の改定作業」とのみ捉えると、最も重要な人事処分、情報管理及び調査プロセスが取り残されるおそれがあります。

2 公益通報とは何か――社内のすべての苦情・相談が法上の公益通報になるわけではない

公益通報者保護法上の公益通報には、法律が定める主体、通報対象事実、通報目的及び通報先等の要件があります。一般に、労働者等が不正の目的ではなく、役務提供先等において対象となる法令違反事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、事業者内部、権限を有する行政機関又は一定の外部者へ通報することが問題となります。

したがって、職場の人間関係に関する相談、待遇への不満、単なる業務上の提案等が当然に公益通報になるわけではありません。他方で、実務上の内部通報制度は、法上の公益通報に該当するかどうかが受付時点で明確でない情報も広く受け付け、後から法的性質を整理する設計の方が機能しやすい場合があります。受付担当者が入口で法律要件を厳格に判断し、公益通報ではないと考えて排除する運用は、重大な不正の端緒を失う危険があります。

企業としては、「内部通報制度の利用対象」と「公益通報者保護法上の公益通報」を概念上区別しつつ、少なくとも法上保護される通報については確実に保護が及ぶよう制度を設計することが重要です。

3 改正の第一の柱――体制整備の実効性と行政監督が強化される

常時使用する労働者が300人を超える事業者は、公益通報を受け、調査し、是正措置を行う公益通報対応業務に従事する者を定めなければなりません。常時使用する労働者が300人以下の事業者については、従事者指定及び体制整備等は努力義務とされています。

改正法では、301人以上の事業者について、従事者指定義務に違反し、勧告にも従わない場合に命令を行う仕組みが設けられ、その命令違反には30万円以下の罰金が科され得ることとなりました。また、従事者指定義務の履行確保に必要な範囲で立入検査権が新設され、報告をしない、虚偽報告をする、検査を拒み、妨げ、又は忌避する行為にも30万円以下の罰金が設けられています。法人についても両罰規定の対象となります。

これは、内部通報制度の整備が単なるベストプラクティスではなく、行政監督の対象となるコンプライアンス事項であることを一層明確にする改正です。企業は「窓口が存在する」ことだけでなく、従事者が適切に指定されていること、その指定や研修の記録が残っていること、実際に調査・是正が行える体制になっていることを説明できる状態にしておく必要があります。

4 公益通報対応業務従事者の指定――誰を「従事者」とするかを曖昧にしない

公益通報対応業務従事者とは、内部公益通報の受付、調査及び是正に関する公益通報対応業務に従事し、かつ公益通報者を特定させる事項を伝達される者をいいます。単にコンプライアンス部門に所属しているというだけで当然に全員が従事者となるわけではなく、実際の職務内容を踏まえ、法令上の従事者として明確に指定することが重要です。

従事者及び従事者であった者には、正当な理由なく、公益通報対応業務に関して知り得た公益通報者を特定させる事項を漏らしてはならないという守秘義務が課され、違反には30万円以下の罰金があります。この守秘義務は異動や退職によって当然に消滅するものではありません。

実務上は、従事者指定書の作成だけでなく、誰がどの案件で公益通報者を特定させる情報にアクセスできるか、調査担当者や経営陣へどの範囲で情報共有するか、通報者本人が明示的に同意した場合にどこまで共有するか、電子データのアクセス権限を誰が持つかまで設計する必要があります。

5 改正の第二の柱――フリーランスが公益通報者の範囲に加わる

今回の改正で、事業者と業務委託関係にある一定のフリーランス及び業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスが、公益通報者の範囲に加わります。働き方の多様化により、組織の不正を把握する者が必ずしも雇用契約上の労働者とは限らなくなったことを踏まえた改正です。

改正後は、公益通報を理由として、フリーランスに対する業務委託契約の解除、取引数量の削減、取引停止、報酬減額その他の不利益な取扱いを行うことが禁止されます。したがって、法務・コンプライアンス部門だけでなく、調達、購買、外注管理、事業部門等も公益通報者保護法を理解する必要があります。

企業が施行前に確認すべきなのは、内部通報制度の利用対象が「役職員」に限定されていないか、外部委託先やフリーランスが窓口情報へアクセスできるか、契約終了後1年以内の者からの通報をどのように受け付けるか、取引停止や発注量の変更を決定する部門が通報歴を不必要に知る構造になっていないかという点です。

6 周知義務の明確化――窓口を設けるだけでは足りない

改正法は、内部公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備に加え、「労働者等に対するその周知」を法律上明示しました。改正後の法定指針では、内部公益通報窓口の連絡先・連絡方法、利益相反排除、不利益取扱い防止、通報妨害・通報者探索の防止等について周知・啓発を行うことが求められています。

改正指針は、法律本文で明示される労働者等に加え、役員、退職者、フリーランス及び元フリーランスに対する周知・啓発についても定めています。したがって、イントラネットへ規程を掲載するだけでは、社外者や退職者等への周知として不十分になり得ます。

実務では、入社時研修、定期研修、イントラネット、従業員ハンドブック、業務委託契約締結時の案内、取引先ポータル、退職時案内等を組み合わせ、誰が、どこへ、どの方法で通報できるかを継続的に認識できるようにすることが重要です。周知は形式ではなく、利用可能性を担保するための制度運用です。

7 改正の第三の柱――通報妨害が明文で禁止される

改正法第11条の2は、事業者が、公益通報をすることができる者に対し、正当な理由なく、公益通報をしない旨の合意を求めること、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすることを告げることその他の行為によって、公益通報を妨げることを禁止します。これに違反してされた合意その他の法律行為は無効とされます。

企業実務で特に注意が必要なのは、退職時誓約書、秘密保持契約、和解契約、示談書、調査協力に関する誓約等です。通常の秘密保持義務そのものが当然に無効となるわけではありません。しかし、公益通報を一律に禁止する文言、行政機関等への適法な通報まで秘密保持違反と扱う文言、通報した場合に制裁を科すことを予告する運用等は、改正法との関係で問題となります。

施行前には、従業員向けの誓約書だけでなく、業務委託契約、役員契約、退職時書類、和解契約、NDAのテンプレートを横断的に確認し、公益通報を不当に妨げる条項や運用が残っていないかを点検することが必要です。

8 通報者探索の禁止――調査のための事実確認と「犯人探し」を区別する

改正法第11条の3は、事業者が、正当な理由なく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為を禁止します。

ここで重要なのは、通報者探索の禁止と、不正事実そのものの調査を混同しないことです。企業は、通報された法令違反の有無を確認するため、関係資料を収集し、関係者から事情聴取を行い、必要な調査を実施する必要があります。改正法は、そのような適正な調査自体を禁止するものではありません。

一方、調査対象者に「誰が通報したのか」と問い詰める、周辺者から通報者の氏名を聞き出す、アクセスログを通報者特定のためだけに解析する等の行為は、正当な理由がなければ問題となり得ます。調査計画を策定する際には、調査目的を「通報対象事実の検証」と明確にし、通報者の特定が本当に必要なのかを個別に検討することが重要です。

9 改正の第四の柱――通報後1年以内の解雇・懲戒には推定規定が導入される

改正法では、公益通報をした労働者に対し、原則として公益通報から1年以内に解雇又は懲戒を行った場合、その解雇又は懲戒は公益通報を理由としてされたものと推定する規定が導入されます。

これは、通報者が「自分が通報したことを理由に処分された」と立証することの困難さを軽減するための制度です。もっとも、通報後1年間は一切の人事処分ができなくなるわけではありません。業績不振、重大な服務規律違反、組織再編その他、通報とは無関係の正当な理由に基づく解雇又は懲戒まで禁止されるわけではなく、企業が通報との無関係性を適切に立証できれば推定を覆すことが問題となります。

したがって、施行後は、公益通報者に対する解雇・懲戒を検討する場合、通常以上に慎重な手続が必要です。人事評価資料、過去の指導履歴、同種事案における処分水準、処分理由の形成時期、意思決定者、法務確認の記録等を保存し、公益通報とは無関係の理由による処分であることを後から説明できる状態にすることが重要です。

10 公益通報を理由とする解雇・懲戒に刑事罰――経営陣及び人事部門にとって重大な改正

改正法は、公益通報を理由として解雇又は懲戒を行った者に対し、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金を科す直罰規定を新設します。さらに、法人の業務に関して違反行為が行われた場合には、法人に対し3,000万円以下の罰金を科す両罰規定が設けられます。

この点は、今回の改正の中でも企業経営上とりわけ重要です。公益通報者への不利益取扱いは従来から禁止されていましたが、解雇・懲戒について刑事責任が直接問題となり得るようになります。人事処分の意思決定者が、通報歴を知った上で処分判断に関与する場面では、判断過程の適正性が一層重要になります。

もっとも、直罰の対象は公益通報を理由とする解雇・懲戒です。配置転換、降格、評価引下げ、嫌がらせその他の不利益な取扱いも法上禁止され得ますが、今回新設された直罰がすべての不利益取扱いに同じ形で及ぶわけではありません。この区別を正確に理解しつつ、企業としては解雇・懲戒以外の報復的行為も含めて防止する必要があります。

11 通報者保護と人事権をどう両立させるか

改正法の趣旨は、公益通報をした者に恒久的な人事上の免責を与えることではありません。通報者であっても、別個の重大な非違行為がある場合や、合理的な人事上の理由がある場合には、法令及び就業規則に従った適切な対応を検討することは可能です。

問題は、その処分が公益通報を理由とするものではないことを、どれだけ客観的に説明できるかです。通報後に突然低評価となる、過去には問題視されなかった行為を通報後にのみ重大視する、比較可能な他の従業員より重い処分を科す、通報を知った管理職が処分理由形成に強く関与する等の事情があれば、紛争上不利になり得ます。

企業は、公益通報に関する情報と通常の人事情報を必要以上に混在させず、処分決定時には法務又はコンプライアンス部門による独立した確認を組み込み、理由と証拠を処分決定前に記録する仕組みを整えることが望まれます。

12 経営幹部案件――独立した通報・調査ルートを確保する

内部通報制度の信頼性が最も問われるのは、通報対象者が経営幹部、法務責任者、コンプライアンス責任者その他通常の通報経路を管理する立場にある場合です。

このような事案では、通常のラインに通報情報が流れると、利益相反、証拠隠滅、通報者探索、報復人事等のリスクが高まります。改正後の法定指針及びその解説も、幹部からの独立性や利益相反排除を重要な体制整備事項として位置付けています。

企業としては、監査役・監査等委員・社外取締役、独立した外部弁護士窓口その他の代替ルートをあらかじめ定め、経営幹部案件では通常ラインを経由せずに調査開始を決定できる仕組みを検討すべきです。誰が調査主体を選任し、誰に報告し、経営会議又は取締役会へどの時点で上程するのかまで、平時に定めておくことが重要です。

13 外部弁護士を内部通報窓口とする場合――独立性の確保が必要

外部弁護士を内部通報窓口として活用することは、通報者の心理的安全性、専門性、守秘性及び経営陣案件への対応力を高める手段となり得ます。他方、外部弁護士を置くだけで独立性が自動的に確保されるわけではありません。

特に、日常的に会社又は経営陣を代理している顧問弁護士が、同時に独立した通報窓口又は調査主体として行動する場合には、通報者から見た中立性、利益相反、弁護士の依頼者が誰であるか、受付後の情報共有範囲等を明確にする必要があります。

実務上は、外部窓口の役割を「受付のみ」とするのか、初期評価まで行うのか、調査主体となるのか、会社の代理人として法的助言を行うのかを明確にし、重大案件や経営陣案件では別の外部弁護士又は独立調査体制へ切り替えるルールを設けることが有効です。

14 通報を受けた直後の初動――最初の24時間で何をすべきか

内部通報を受け付けた直後の初動は、その後の調査の成否と通報者保護を左右します。重要なのは、通報内容を直ちに関係部署へ広く転送することではありません。まず受付を記録し、通報者への受付連絡、緊急性の評価、生命・身体・重大な法令違反等の切迫性、証拠消失の可能性、利益相反の有無、調査主体、情報共有範囲を整理する必要があります。

電子メール、チャット、会計データ、アクセスログ、監視カメラ、契約書その他の証拠が失われる可能性がある場合には、適切なリーガルホールド又は保存措置を検討します。同時に、通報者に対する報復、不利益な配置、孤立化等が発生していないかを確認し、必要に応じて保護措置を講じます。

初動段階で通報対象者本人へ詳細な通報内容や通報者を特定し得る情報を不用意に伝えることは避けるべきです。調査対象者の防御や説明の機会を確保することは重要ですが、それは証拠保全及び通報者保護との順序を考えて実施する必要があります。

15 社内調査の設計――通報者保護と調査対象者の手続的公正を両立させる

内部通報を受けた企業には、不正を早期に確認し是正する必要があります。他方、通報内容が直ちに真実であると決め付けることも適切ではありません。調査は、通報者を保護しながら、客観的な資料と関係者の説明を基礎として、公正に行う必要があります。

調査計画では、調査対象事実、対象期間、収集する資料、事情聴取対象者、調査メンバー、利益相反、報告先、証拠の保存方法、調査結果の評価基準を定めます。通報内容が経営陣や調査担当者自身に関係する場合には、外部調査又は独立した委員会の利用も検討します。

また、匿名通報であっても、具体性や資料の内容から調査可能な場合には、匿名であることのみを理由に軽視すべきではありません。逆に、悪意ある虚偽通報の可能性がある場合でも、結論を先取りせず、事実確認を行った上で適切に判断することが重要です。

16 通報者情報の管理――Need-to-Knowを徹底する

内部通報制度の信頼は、通報者を特定させる情報が適切に管理されることを前提とします。実務では、氏名だけを隠せば足りるわけではありません。所属部署、案件名、勤務場所、具体的なエピソード、文書の作成者、通報文の文体等から、通報者が事実上推測される場合があります。

そのため、情報共有はNeed-to-Knowの原則に従い、調査に必要な者へ必要な範囲だけ共有します。調査報告書についても、フルバージョン、経営報告用、調査対象者へのフィードバック用等を分けることが有効な場合があります。

メール転送や共有フォルダだけで管理するのではなく、アクセス権限、ダウンロード権限、保存期間、ログ、印刷制限等を含めて管理することが望まれます。通報者保護は制度文言だけでなく、情報システム上の設計によっても左右されます。

17 フリーランス・業務委託先への対応――調達・購買部門も公益通報者保護法の当事者になる

フリーランスが公益通報者の範囲に加わることで、法務・人事だけでなく、調達、購買、業務委託管理を行う事業部門も公益通報者保護法の実務当事者となります。

通報後に発注量が減少した、契約が更新されなかった、報酬を引き下げられたといった事実があれば、それが通常の事業判断なのか、公益通報を理由とする不利益取扱いなのかが問題となり得ます。したがって、取引停止や発注量変更の理由、評価基準、取引実績等を客観的に記録しておくことが重要です。

また、委託先に対するNDAや業務委託契約には、適法な公益通報を妨げる内容が含まれていないか確認する必要があります。取引終了後1年以内の者も保護対象になり得るため、契約終了と同時に通報窓口へのアクセスを完全に失わせる運用が適切かも検討すべきです。

18 内部通報規程で施行前に見直すべき事項

内部通報規程については、まず利用対象者の範囲を確認します。従業員、派遣労働者、退職者、役員に加え、フリーランス等をどのように取り扱うかを明確にする必要があります。

次に、通報先、受付方法、匿名通報の取扱い、従事者指定、守秘義務、範囲外共有の防止、利益相反排除、経営陣案件の独立ルート、通報妨害・探索の禁止、不利益取扱いの禁止、調査・是正、結果通知、記録保管、フォローアップ、制度評価、教育・周知を確認します。

さらに、内部通報規程だけで完結させず、就業規則、懲戒規程、人事評価ルール、情報管理規程、NDA、退職時誓約書、業務委託契約、危機管理規程、内部監査規程等との整合を確認する必要があります。今回の改正では、人事処分及び業務委託取引への影響が大きいため、規程間の不整合を残さないことが重要です。

19 取締役会・経営陣が確認すべき事項――内部通報制度は危機管理インフラである

内部通報制度を法務部門だけの制度として扱うことは適切ではありません。重大な不正の早期発見、行政処分、刑事事件、財務不正、品質問題、個人情報漏えい、ハラスメントその他の企業危機は、内部通報から発覚することがあります。

経営陣が確認すべきなのは、窓口件数だけではありません。重大案件が経営に上がる基準、経営幹部案件の独立ルート、通報から調査開始までの時間、是正措置の完了、再発防止、通報者へのフォローアップ、報復の兆候、制度利用率及び認知度等を確認する必要があります。

また、通報件数が少ないことを制度が機能している証拠と短絡的に評価してはなりません。窓口が知られていない、信頼されていない、通報後の報復を恐れている可能性もあります。経営陣は、制度の利用実績と組織文化を併せて評価する必要があります。

20 2026年12月1日までの施行準備――今から何をすべきか

施行までの期間を考えると、まず現行制度のギャップ分析を行うことが適切です。現行規程、窓口、従事者指定、周知方法、人事処分手続、業務委託契約、調査マニュアル、証拠保全、経営報告ルート等を改正法及び改正指針と照合します。

その上で、規程・契約書等の改定を行い、従事者及び管理職への研修を実施します。特に、人事部門、調達・購買部門、経営幹部、監査部門には、通報者探索の禁止、報復禁止、解雇・懲戒の推定及び刑事罰について具体的に教育する必要があります。

最後に、施行前に机上訓練を行うことが有効です。例えば、匿名で経営幹部の不正を指摘する通報が入ったケース、通報者が直後に懲戒対象となったケース、フリーランスから品質偽装の通報が入ったケース等を想定し、誰が受付け、誰に報告し、証拠をどう保全し、誰が調査主体を決めるのかを実際に確認します。制度は、文書ではなく運用できて初めて意味を持ちます。

21 よくある誤解――改正法を正確に理解する

今回の改正については、「通報した従業員は1年間解雇できない」「秘密保持契約は無効になる」「通報者を特定することは一切できない」「通報があれば必ず外部弁護士へ調査を依頼しなければならない」など、過度に単純化された理解が生じやすい点に注意が必要です。

通報後1年以内の解雇・懲戒は、公益通報を理由とするものと推定されるのであり、正当な別理由に基づく人事処分まで全面的に禁止されるわけではありません。通常の秘密保持義務が当然に無効になるわけでもなく、無効となるのは公益通報を妨害する違法な合意その他の法律行為です。

また、通報対象事実を調査することは禁止されません。問題なのは、正当な理由なく、通報者を特定すること自体を目的として探索する行為です。企業は、過剰反応を避けながら、通報者保護と適正な調査を両立させる必要があります。

22 SAKURA法律事務所が考える内部通報制度の要諦

内部通報制度で最も重要なのは、制度が「存在すること」ではなく、「重大な情報が安全に上がり、適正に調査され、必要な是正につながること」です。窓口の設置、規程の制定、ポスターの掲示だけでは、その目的は達成されません。

通報者が安心して利用できること、調査対象者の権利も尊重されること、経営幹部が関与する案件でも独立して調査できること、通報後の人事・取引判断に報復性が混入しないこと、調査結果が是正と再発防止につながることが必要です。

2026年改正は、企業に内部通報制度の「形式」ではなく「実効性」を改めて問いかけるものです。SAKURA法律事務所では、企業法務、労務、危機管理、社内調査、M&A、個人情報、ITその他の知見を横断し、各企業の組織構造とリスクに即した内部通報制度の設計・運用を支援しています。

23 よくあるご質問

Q1 2026年12月1日から、すべての会社に内部通報制度の整備が法律上義務付けられますか。

常時使用する労働者が300人を超える事業者については、公益通報対応業務従事者の指定及び内部公益通報対応体制の整備等が法的義務です。300人以下の事業者については、これらは努力義務とされています。ただし、企業規模が小さいからといって通報者保護規定や通報妨害・探索禁止等を無視できるわけではなく、事業実態に応じた体制整備を検討する必要があります。

Q2 公益通報をした従業員は、1年間解雇も懲戒もできないのでしょうか。

一律に禁止されるわけではありません。改正法は、原則として通報後1年以内の解雇又は懲戒を公益通報を理由とするものと推定します。企業が通報と無関係の正当な理由を客観的資料によって説明できるかが重要になります。

Q3 公益通報を理由とする配置転換や低評価にも刑事罰が科されますか。

今回新設される直罰規定は、公益通報を理由とする解雇又は懲戒が対象です。もっとも、配置転換、降格、低評価その他の不利益な取扱いも法上禁止され得るため、刑事罰の対象でないから自由に行えるという意味ではありません。

Q4 退職者やフリーランスも内部通報窓口を利用できるようにすべきですか。

改正法及び改正指針を踏まえ、退職者、役員、フリーランス及び元フリーランスを含め、制度利用者が実際にアクセスできる窓口と周知方法を検討することが重要です。特にフリーランスは新たに法上の保護対象となるため、業務委託契約や取引先ポータル等を含めた周知方法を見直す必要があります。

Q5 通報者が誰かを確認することは全面的に禁止されますか。

全面的に禁止されるわけではありません。禁止されるのは、正当な理由なく、公益通報者を特定することを目的とする探索行為です。通報者本人の保護や調査上やむを得ない事情等がある場合には個別の検討が必要ですが、単なる「犯人探し」は避けなければなりません。

Q6 NDAや退職時誓約書に秘密保持義務がある場合、行政機関への公益通報は禁止できますか。

通常の秘密保持義務が当然に無効になるわけではありません。しかし、正当な理由なく公益通報をしない旨の合意を求めるなどして公益通報を妨害することは改正法で禁止され、違反してされた合意その他の法律行為は無効とされます。契約文言を具体的に確認する必要があります。

Q7 外部弁護士窓口を設ければ、改正法対応は完了しますか。

完了しません。外部窓口は有効な選択肢ですが、従事者指定、周知、調査、是正、利益相反排除、通報者保護、人事処分管理、記録保存、研修等を含む制度全体が機能する必要があります。

Q8 経営幹部に関する通報は、通常のコンプライアンス部門で調査して問題ありませんか。

利益相反や独立性に問題がないかを個別に確認する必要があります。経営幹部が調査主体や報告ラインに影響を与える可能性がある場合には、監査機関、社外役員、外部弁護士等を活用した独立ルートを検討することが重要です。

24 代表弁護士 道下剣志郎「Legal Update」について

SAKURA法律事務所では、代表弁護士 道下剣志郎のプロフィールページに「Legal Update」を設け、企業法務、M&A、国際取引、AI・IT、個人情報、知的財産、危機管理、労働、内部通報、Web3・暗号資産その他、企業及び経営者が直面する重要な法律問題について継続的に情報を発信しています。

Legal Updateでは、法令の概要を紹介することだけを目的とせず、法改正が企業の業務フロー、契約、人事、社内規程、取締役会、内部監査、危機管理及び経営判断にどのような影響を与えるかを、実務に即して検討します。

第10弾となる本稿では、2026年12月1日に施行される改正公益通報者保護法を取り上げました。今後も、外国企業による日本投資・M&A、クロスボーダー取引、企業不祥事、名誉毀損、Web3その他の分野について、SAKURA法律事務所及び代表弁護士 道下剣志郎の実務経験を踏まえたLegal Updateを順次公開する予定です。

25 改正公益通報者保護法・内部通報制度に関してご相談いただける事項

SAKURA法律事務所では、2026年12月1日の改正法施行に向け、内部通報制度の新規構築又は見直し、内部通報規程・マニュアルの改定、公益通報対応業務従事者の指定及び研修、通報窓口・外部窓口の設計、経営幹部案件の独立ルート整備、フリーランス・業務委託先への対応、NDA・退職時誓約書その他の契約レビュー、人事処分前の法的確認、通報受理後の初動対応、社内調査、証拠保全、通報者保護、行政対応等について、企業の組織構造及び実務に応じた法的支援を行っています。

既に内部通報制度を導入している企業についても、2026年改正後の法定指針及びQ&Aに照らしたギャップ分析を行い、規程上は整っていても実務運用に不足がないかを確認することが重要です。特に、通報妨害・探索防止、人事処分プロセス、フリーランス対応、経営幹部案件の独立性及び周知については、従来の制度設計では十分に反映されていない場合があります。

実際の公益通報案件が発生した後についても、初動評価、調査主体の選定、事情聴取、デジタルデータその他の証拠保全、調査報告書の作成、取締役会への報告、行政機関対応、是正措置及び再発防止まで、一貫した支援が可能です。

26 お問い合わせ

改正公益通報者保護法、内部通報制度、内部通報規程、外部通報窓口、公益通報対応業務従事者、社内調査、通報者保護、人事処分、フリーランス対応その他の企業法務・危機管理に関するご相談は、SAKURA法律事務所までお問い合わせください。

お問い合わせの際には、ご相談内容に「改正公益通報者保護法・内部通報制度に関する相談」とご記載いただけますと、担当弁護士へのご案内が円滑です。

SAKURA法律事務所
代表弁護士 道下 剣志郎
〒106-0032 東京都港区六本木一丁目4番5号 アークヒルズサウスタワー4F
電話 03-6910-0692

本記事の執筆・監修
SAKURA法律事務所
代表弁護士 道下 剣志郎

主な参考資料

e-Gov法令検索「公益通報者保護法」(令和8年12月1日施行後の条文)

消費者庁「公益通報者保護制度」

消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)の概要」

消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針」(令和8年3月31日改正)

消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針の解説」

消費者庁「公益通報者保護制度Q&A」

消費者庁「はじめての公益通報者保護法・内部通報制度導入支援キット」

衆議院「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)」

政府広報オンライン「公益通報者保護法が改正。『内部通報制度』で不正をストップ!」

※本記事は、2026年9月24日時点における法令、消費者庁の法定指針、指針の解説、公益通報者保護制度Q&Aその他の公表資料等を基礎として、一般的な法的情報を提供することを目的とするものです。個別具体的な案件について法的助言又は法律上の結論を示すものではありません。具体的な事案については、通報者の属性、通報内容、通報先、公益通報の時期、企業規模、人事処分又は取引判断の内容、内部規程その他の事実関係を踏まえた個別の検討が必要となります。

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