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2026.10.15

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【SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 Legal Update】国際仲裁を利用する企業の実務――仲裁条項設計、仲裁地・仲裁機関、仲裁人、暫定保全、証拠、仲裁判断の取消し・承認・執行【2026年版】について公開いたしました。

SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 Legal Update

2026年9月28日(2026年10月5日全面改訂)

SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下 剣志郎

SAKURA法律事務所は、代表弁護士 道下剣志郎によるLegal Update第19回「国際仲裁を利用する企業の実務――仲裁条項設計、仲裁地・仲裁機関、仲裁人、暫定保全、証拠、仲裁判断の取消し・承認・執行【2026年版】」を全面改訂しました。

国際仲裁は、クロスボーダーM&A、JV、販売代理店、ライセンス、IT・SaaS、製造・供給、投資その他の国際商取引において、裁判と並ぶ中核的な紛争解決手段です。しかし、その実効性は「契約書に仲裁条項がある」ことだけでは決まりません。仲裁合意の範囲、仲裁地、仲裁機関・規則、仲裁人の構成、手続言語、実体準拠法、仲裁合意の準拠法、緊急保全、証拠、秘密性、取消しリスク及び最終的な執行地が相互に整合して初めて、仲裁は取引上のリスク管理として機能します。

日本では、令和5年法律第15号による改正仲裁法が2024年4月1日に施行されました。改正は、UNCITRAL国際商事仲裁モデル法2006年改正を踏まえ、仲裁廷による暫定保全措置について類型、要件及び日本の裁判所による執行等認可の仕組みを整備し、仲裁判断の執行決定等について東京地方裁判所・大阪地方裁判所に一定の競合管轄を認め、外国語の仲裁判断書等について日本語訳の提出負担を軽減し得る制度を導入しました。仲裁と日本の裁判所を対立的な制度として捉えるのではなく、仲裁廷と裁判所の支援・監督機能を適切に組み合わせることが重要になっています。

実務環境も更新されています。JCAAの2021年から2025年の申立て71件のうち63件、約89%が国際事件であり、国際事件の60%では英語が手続言語として用いられました。JCAAが把握する2020年から2025年の日本及び外国でのJCAA仲裁判断の執行申立ては、いずれも承認・執行が認められたと公表されています。一方、海外機関でもSIAC Rules 2025のように規則改訂が続いており、過去の契約書から仲裁条項をコピーするだけでは、現在の手続設計と齟齬を生じる可能性があります。

本稿では、2026年10月5日時点の仲裁法、法務省・裁判所・JCAA・UNCITRALその他の一次資料を踏まえ、海外企業、日本企業、General Counsel、経営者、PE・VC及び海外法律事務所が、契約締結時から紛争初動、仲裁手続、緊急保全、仲裁判断後の取消し・承認・執行までを一つの国際紛争戦略として設計するための実務を整理します。

本稿の要旨

国際仲裁の出発点は、仲裁機関名を記載することではなく、どの紛争を、どの法的枠組みの下で、誰に最終判断させ、どこで執行するかを契約時に設計することです。仲裁法13条は書面又は一定の電磁的記録による仲裁合意を認め、仲裁合意の独立性を定めます。有効な仲裁合意の対象となる紛争について訴訟が提起された場合、同法14条は、被告が適時に申し立てることを前提に、原則として裁判所が訴えを却下する枠組みを採っています。複数契約からなるM&A・JV・技術取引では、仲裁機関、仲裁地、対象紛争及び当事者範囲の不整合が並行手続の主要因になります。

仲裁地は、仲裁機関又は審問場所とは別の概念です。日本を仲裁地とすれば、日本の仲裁法が手続の法的基盤となり、日本の裁判所が仲裁人選任、仲裁権限、証拠調べ、仲裁判断取消し等の支援・監督機能を担います。仲裁人の選任では、専門性や言語だけでなく独立性・公正性が重要であり、最高裁平成29年12月12日決定は、仲裁人の開示義務について、対象事実を認識していたか又は合理的な範囲の調査により通常判明し得たかを重視しました。IBAの2024年利益相反ガイドラインも、開示と調査の実務を更新しています。

紛争が具体化した後は、仲裁申立てより先に契約上のNotice、前置交渉・調停、Claim Period、時効、保険通知及び証拠保全を整理する必要があります。国際仲裁の証拠手続は、日本の民事訴訟より広いdocument productionを採用する場合がある一方、米国型Discoveryと同一ではありません。IBA証拠規則2020は広く参照されますが、当然に適用される法令ではなく、当事者合意、仲裁規則及び仲裁廷の手続命令によって具体的な証拠制度が形成されます。

緊急時には、仲裁廷の暫定保全措置、仲裁機関のEmergency Arbitrator、日本の裁判所による仮差押え・仮処分を比較する必要があります。2024年改正仲裁法は、仲裁廷による一定の暫定保全措置について日本の裁判所へ執行等認可を求める制度を整備しましたが、資産凍結の秘密性、第三者への効力、対象資産、担保及び執行速度によっては裁判所保全が依然として適する場面があります。仲裁合意があることは、日本の裁判所への保全申立てを妨げません。

仲裁判断に通常の本案控訴はありません。日本を仲裁地とする場合、仲裁法44条の取消しは限定事由に基づく例外的な司法審査であり、原則3か月の申立期間があります。日本で仲裁判断を執行する場合には45条の承認枠組みと46条の執行決定が中心となり、ニューヨーク条約も国際的な執行可能性を支えます。もっとも、勝訴判断と回収は別問題であり、仲裁申立て前から相手方資産の所在国、執行法、保全手段及び拒絶事由を確認することが重要です。

SAKURA法律事務所及び代表弁護士 道下剣志郎は、国際仲裁を、仲裁条項のドラフティングから仲裁判断後の回収まで連続するクロスボーダー紛争管理の問題として捉えています。仲裁を選ぶか日本裁判を選ぶか、JCAA・ICC・SIACその他どの機関を選ぶかという判断も、ブランドではなく、資産、証拠、緊急性、秘密性、案件規模、複数当事者・複数契約及び最終執行国から逆算して行う必要があります。

1 仲裁条項は紛争発生後の手続条項ではなく、取引全体のリスク配分を完成させる条項である

仲裁は当事者自治に基づく制度であり、その権限の源泉は仲裁合意です。仲裁法13条は、仲裁合意について書面性を要求しつつ、電磁的記録による合意や、一定の場合の引用による組込みを認めています。また同条は、主契約の他の条項が無効、取消しその他の理由で効力を失っても、仲裁合意が当然に無効となるわけではないという独立性を採用しています。主契約の詐欺、錯誤、権限欠缺等が争われる案件でも、「主契約が争われたから裁判所へ戻る」という結論には直結しません。

実務上より重要なのは、仲裁合意の対象範囲です。契約違反だけを狭く付託すると、契約の成立・無効、解除、表明保証、補償、不法行為、競争法、知財、秘密保持その他の周辺請求が裁判と仲裁へ分断される可能性があります。M&AでSPA、株主間契約、TSA、Escrow、W&I保険が併存し、JVで出資契約・ライセンス・供給契約が連動する場合には、各文書を個別に読むのではなく、当事者、紛争範囲、仲裁機関、仲裁地、準拠法、Consolidation・Joinderの可能性を取引全体で整合させる必要があります。

仲裁法14条は、有効な仲裁合意の対象となる紛争について裁判所に訴えが提起された場合、仲裁合意が無効・失効している場合等を除き、被告の申立てにより原則として訴えを却下する制度を置いています。ただし、この抗弁は、本案について実質的に弁論した後に初めて持ち出せば失われ得ます。仲裁条項のある契約について日本又は外国の訴状を受領した企業は、請求内容への反論を書き始める前に、仲裁合意を援用するかを決めなければなりません。

多段階紛争解決条項も同じです。Notice of Dispute、役員間協議、一定期間の交渉、調停、仲裁という順序を置く場合、各段階を厳格な仲裁開始要件とするのか、努力義務的な手続とするのかを明確にしなければ、紛争時に仲裁可能性そのものが争われます。M&Aの補償請求では契約上のClaim Noticeや仲裁開始期限が法定時効とは別に存在することもあり、仲裁条項は責任制限・補償条項と一体で設計する必要があります。

2 仲裁地・仲裁機関・仲裁人を分けて設計する――日本を仲裁地とする意味と現在のJCAA実務

仲裁地(seat)は仲裁の法的本拠地であり、実際の審問場所や仲裁機関とは異なります。東京を仲裁地としてICC規則を適用し、審問をシンガポールやオンラインで実施することも可能です。仲裁地を日本にすれば、日本の仲裁法がlex arbitriとして手続の法的基盤となり、日本の裁判所が仲裁人選任、仲裁権限、証拠調べ、暫定保全措置命令の執行等認可、仲裁判断の取消し・執行等で支援・監督機能を担います。したがって、契約書に単に“venue: Tokyo”と記載するのではなく、法的な仲裁地を明確に指定することが重要です。

仲裁機関及び規則は、申立方法、仲裁人選任、迅速手続、Emergency Arbitrator、複数契約・多数当事者、費用、秘密保持、仲裁判断草案の審査等を左右します。JCAAでは2026年10月現在も商事仲裁規則(2021)及びインタラクティヴ仲裁規則(2021)が現行規則として案内され、単にJCAA仲裁と定めて適用規則を特定しない場合には商事仲裁規則が適用されます。他方、SIACは2025年1月に新規則を施行しており、主要機関の規則は更新され続けています。仲裁条項は機関名だけでなく、規則の構造と当該取引に必要な機能を踏まえて選ぶべきです。

JCAAの最新統計は、日本を拠点とする仲裁が国際取引にも現実に利用されていることを示しています。2021年から2025年の申立て71件のうち63件、89%が国際事件で、国際事件の60%では英語が手続言語でした。仲裁廷成立から仲裁判断までの平均期間は10.5か月とされ、迅速仲裁では約7割が3か月又は6か月の規則上の期限内に仲裁判断へ至っています。これらの数値は特定機関を一律に推奨する根拠ではありませんが、日本を仲裁地・管理地として選択する際の実務的なデータとして意味があります。

仲裁人選任では、分野経験、準拠法、言語、Availability、Case Management能力に加え、独立性・公正性が中核となります。仲裁法18条4項は開示義務を定め、最高裁平成29年12月12日決定は、開示義務違反を認めるためには、仲裁人が対象事実を認識していたか、合理的な範囲の調査を行えば通常判明し得たことが必要であるとの枠組みを示しました。IBAの2024年利益相反ガイドラインも、仲裁人だけでなく当事者側の調査・情報提供の重要性を再確認しています。候補者のコンフリクトチェックでは、当事者本人だけでなく、関連会社、代理人、保険者、第三者資金提供者その他の関係を、適用規則と具体的案件に即して確認する必要があります。

3 紛争が具体化したら、仲裁申立てより先に権利・期限・証拠・社内意思決定を固定する

国際仲裁が現実的な可能性となった段階では、Request for Arbitrationのドラフトより先に、契約書一式を確定し、仲裁条項、準拠法、通知条項、前置交渉・調停条項、請求期限、責任制限、補償、解除、保険通知及び時効を一枚のタイムラインへ落とすことが重要です。実体上強い請求でも、通知先、通知方法、必要記載事項又は期限を誤れば、仲裁廷の管轄又は請求権の存否をめぐる追加紛争が生じます。

仲裁廷は仲裁法23条に基づき自らの仲裁権限を判断できます。したがって、仲裁合意の成立・有効性・範囲に疑義がある案件では、管轄論と本案をどの順序で争うかが手続戦略になります。仲裁廷が仲裁判断前の独立した決定で仲裁権限を認めた場合、当事者は法定期間内に裁判所の判断を求めることができますが、裁判所への申立て中も仲裁廷が手続を続行できる仕組みが置かれています。

証拠戦略も早期に固定すべきです。国際仲裁では、主張書面、書証、Witness Statement、Expert Report及びtargeted document productionが組み合わされることが多く、日本の民事訴訟より文書提出の範囲が広がることがあります。他方、米国型の全面的Discoveryを当然に利用できるわけではありません。IBA証拠規則2020は国際実務で広く参照されますが、法令として自動適用されるものではなく、仲裁廷は当事者合意、機関規則及びProcedural Orderに基づいて案件に適した証拠制度を構築します。

企業側では、契約、電子メール、Slack・Teams等のメッセージ、取締役会資料、会計・取引データ、ソースコード、アクセスログ等を、紛争が予見された時点から保全する必要があります。証拠収集と同時に、Privilege、個人情報、営業秘密、データ移転、Cybersecurityを管理しなければなりません。IBA証拠規則2020も、初期協議においてCybersecurityやData Protectionを検討対象とする考え方を示しています。国際仲裁では「証拠を多く出すこと」ではなく、Chronology、Issue Matrix及び法的要件に沿って何を出すかを統制することが説得力とコストを左右します。

また、日本の裁判所における訴訟代理とは異なり、国際仲裁では2020年外弁法改正により外国法事務弁護士等が代理できる国際仲裁事件の範囲が拡大されています。もっとも、具体的な代理可能範囲は資格、事件の国際性、国内業務状況等によって確認が必要であり、日本法上の仮差押え、取消し、執行等を伴う案件では、日本の弁護士と海外Counselの役割分担を早期に設計することが合理的です。

4 暫定保全は三つのルートを比較する――仲裁廷、Emergency Arbitrator、日本の裁判所

国際仲裁の実効性は、最終判断より前に財産・証拠・契約上の地位を守れるかに左右されます。緊急時には、成立後の仲裁廷による暫定保全措置、仲裁機関規則に基づくEmergency Arbitrator、日本の裁判所による仮差押え・仮処分を比較する必要があります。これらは同じ救済を異なる窓口から得る制度ではなく、通知の有無、対象者、第三者への効力、資産凍結の方法、担保、執行可能性及び速度が異なります。

仲裁法15条は、仲裁合意が存在しても、当事者が仲裁開始前又は仲裁中に裁判所へ保全処分を申し立てることを妨げないと定めています。相手方の銀行預金、売掛金、不動産等が日本にあり、相手方へ事前に察知されれば資産散逸のおそれがある場合、裁判所の仮差押えが実務上重要となることがあります。仲裁を選択したから国家的保全手段を放棄するわけではありません。

2024年改正仲裁法は、仲裁廷の暫定保全措置を大きく制度化しました。財産処分の禁止、現状維持・原状回復、仲裁手続を害する行為の禁止、証拠保全等について法的枠組みを明確にし、一定の措置について日本の裁判所へ執行等認可決定を申し立てる制度を設けています。仲裁地が日本国外であっても、法定の接続点があれば日本の裁判所による支援が問題となり得ます。東京地裁及び大阪地裁には一定の仲裁関係事件について競合管轄が認められており、改正法は国際仲裁と裁判所の接続を実務的に強化しています。

JCAA商事仲裁規則にはEmergency Arbitrator制度があり、JCAAは要件を満たす申立てについて原則2営業日以内の選任に努め、緊急仲裁人は原則2週間以内の決定を目指す枠組みを置いています。ただし、第三者銀行に対する口座凍結のように国家強制力が必要な場面では、Emergency Measureだけでは目的を達成できないことがあります。緊急時の正しい問いは「仲裁で何ができるか」ではなく、「誰に、どの財産又は行為について、いつまでに、どの強制力を及ぼす必要があるか」です。

5 仲裁判断は終局的であるからこそ、仲裁人選任・手続保障・和解・取消しまでを事前に設計する

仲裁の大きな特徴は、本案について通常の控訴審を予定しない終局性にあります。これは迅速性・最終性という価値を生む一方、仲裁人選任、手続設計、主要証拠の提出及び法律構成の失敗を、後の上訴で容易に修正できないことを意味します。経営陣が仲裁を裁判の「私的版」と理解していると、判断後に初めて控訴できないことや司法審査の狭さを認識することになりかねません。

日本を仲裁地とする仲裁判断について、仲裁法44条は、仲裁合意の無効、必要な通知又は防御機会の欠缺、仲裁合意・付託範囲を超える判断、仲裁廷構成・手続の重大な違反、仲裁適格性及び公序違反等の限定的な取消事由を定めています。取消申立ては本案の再審理ではなく、法定の構造的欠陥を審査する手続です。申立期間も原則として仲裁判断書の写しの送付による通知から3か月であり、海外本社や投資委員会の社内承認に時間を要しても法定期間は停止しません。

仲裁人の独立性・公正性をめぐる問題は、判断後の取消リスクにも接続します。前記最高裁平成29年12月12日決定は、仲裁人の開示義務と合理的な調査の関係を具体化しました。もっとも、不開示があれば直ちに仲裁判断が取り消されると一般化すべきではありません。候補者開示、当事者側調査、Challengeの時期、実際の利害関係及び仲裁法44条の取消事由との接続を、案件固有の事実に即して分析する必要があります。

和解も仲裁戦略の一部です。仲裁法38条は、仲裁手続中に当事者が和解し、双方が申し立てた場合、仲裁廷が和解内容を仲裁判断として記録できる制度を置いています。単純なSettlement Agreementで終えるか、Consent Awardの形にするかは、秘密性、将来義務、分割払い、国際的な執行可能性から決めるべきです。長期契約やJVでは、法的勝敗より関係再設計の方が事業価値を高めることもあり、仲裁手続を和解交渉のレバレッジとしてどのように用いるかも経営判断となります。

6 仲裁判断の承認・執行はニューヨーク条約と日本仲裁法の接点で決まる――勝訴と回収は別問題である

日本で仲裁判断の効力を認め、強制執行へ進む場合、仲裁法45条・46条が中核となります。45条は、仲裁地が日本国内か国外かを問わず、仲裁判断について原則として確定判決と同一の効力を認めつつ、仲裁合意の無効、通知・防御権の欠缺、付託範囲超過、仲裁廷構成・手続の問題、仲裁判断の未拘束・取消し・停止、仲裁適格性及び公序等の限定的な拒絶事由を定めます。日本で強制執行するには46条に基づく執行決定が必要です。

2024年改正は執行実務も改善しました。裁判所が相当と認め、相手方の意見を聴いた場合、外国語の仲裁判断書等について日本語訳の全部又は一部の提出を不要とできる制度が導入されました。また、法定の接続点が日本にある一定の場合に東京地方裁判所・大阪地方裁判所へ申立てることが可能となり、国際案件の手続集中・専門性を意識した制度整備が進んでいます。もっとも、訳文不要が当然に認められるわけではなく、裁判所の判断と事件内容に依存します。

ニューヨーク条約は外国仲裁判断の国際的流通を支える基盤です。日本は1961年6月20日に加入書を寄託し、同年9月18日に効力が発生しました。日本は他の締約国の領域でされた仲裁判断について条約を適用する相互主義留保を付しています。他方、日本仲裁法自体は仲裁地を問わない承認規定を置いているため、実際の日本執行では、国内法、ニューヨーク条約、仲裁地及び判定の状況を重ねて分析する必要があります。

最も重要なのは、仲裁判断の取得と資産回収を別プロジェクトにしないことです。相手方の主要資産が日本、中国、東南アジア、米国等に分散していれば、各執行国の拒絶事由、申立期限、必要書類、翻訳・認証、資産保全、担保権、国有企業の場合の免除等が異なります。仲裁申立て前からAsset Mapを作り、どの国でどの順序で保全・執行するかを検討することで、仲裁判断を「紙の勝利」に終わらせない設計が可能になります。JCAAも、把握する限り2020年から2025年に日本、中国、ベトナム、インドネシア及びタイで申し立てられたJCAA仲裁判断の執行について、いずれも承認・執行が認められたと公表しています。

7 仲裁を選ぶか、どの仲裁を選ぶかは、案件の商業目的から逆算する

国際仲裁が日本裁判より常に優れているわけではありません。仲裁は、中立的な仲裁地、仲裁人選択、手続言語、非公開性、専門性、ニューヨーク条約による国際執行可能性に強みがあります。他方、仲裁人報酬・機関費用、本案上訴の不存在、第三者に対する強制的証拠収集の限界、国家的保全措置で裁判所支援を要する点等があります。日本企業の資産が国内に集中し、日本語証拠が中心で、上訴の必要性が高い案件では日本裁判が合理的な場合もあります。

仲裁機関の選択も同じです。JCAA、ICC、SIACその他の機関は、それぞれ迅速手続、緊急仲裁人、多数当事者・複数契約、費用、仲裁判断の審査、Case Management等の制度が異なります。SIACは2025年規則でStreamlined Procedure、Preliminary Determination、Coordinated Proceedings等を導入しており、国際仲裁制度は継続的に更新されています。重要なのは「有名な機関」を選ぶことではなく、取引規模、当事者所在、資産、証拠、緊急性、契約群及び社内予算に最も適合する制度を選ぶことです。

日本を仲裁地とする選択肢についても、2024年改正仲裁法、2020年外弁法改正、東京・大阪地裁の仲裁関連事件管轄、JCAAの国際案件実績に加え、政府が国際仲裁活性化施策を継続し、2026年にもJapan International Arbitration Weekを開催しているという制度環境があります。もっとも、政策的な「仲裁活性化」と個別案件で日本Seatを選ぶべきかは別問題です。案件ごとに執行国、候補仲裁人、言語、準拠法、証拠・保全との接続を評価すべきです。

SAKURA法律事務所及び代表弁護士 道下剣志郎は、国際仲裁案件において、契約段階のDispute Resolution Architecture、紛争発生時のForum Analysis、Notice・期限管理、証拠保全、仲裁人選任、暫定保全、日本の裁判所手続、仲裁判断の取消し・承認・執行までを一つの戦略として検討します。最終的な目的が金銭回収、契約継続、株式・資産取得、知的財産保護、競業停止、秘密保持又はレピュテーション保全のいずれかによって、最適な仲裁設計は変わります。

FAQ

Q1 契約書に仲裁条項があれば、裁判所に訴えられることはありませんか。

有効な仲裁合意の対象となる紛争について訴訟が提起された場合、仲裁法14条に基づき、被告が適時に申し立てれば原則として訴えは却下されます。ただし、仲裁合意の成立・有効性・範囲、申立ての時期及び法定例外を個別に確認する必要があります。

Q2 日本法を契約準拠法にすれば、日本が仲裁地になりますか。

なりません。契約の実体準拠法、仲裁合意の準拠法、仲裁地法は別の問題です。日本法準拠・シンガポールSeat、ニューヨーク州法準拠・東京Seatという組合せもあり得ます。

Q3 JCAA仲裁は国際案件にも利用されていますか。

はい。JCAAの最新公表統計では、2021年から2025年の申立て71件のうち63件、約89%が国際事件であり、国際事件の60%で英語が手続言語とされています。

Q4 仲裁人の利益相反が後から判明した場合、直ちに仲裁判断は取り消されますか。

直ちにそうなるわけではありません。仲裁人の開示義務、当該関係の内容、当事者のChallenge対応、手続への影響及び仲裁法44条の取消事由を具体的に分析する必要があります。最高裁平成29年12月12日決定も、仲裁人が事実を認識していたか、合理的な調査で通常判明し得たかを問題としています。

Q5 仲裁中に日本の銀行口座を仮差押えできますか。

要件を満たせば検討できます。仲裁法15条は、仲裁合意があっても裁判所への保全申立てを妨げません。仲裁廷の暫定保全措置やEmergency Arbitratorとの使い分けは、対象資産、通知、第三者効、担保及び速度から判断します。

Q6 国際仲裁では米国のDiscoveryのように相手方資料を幅広く取得できますか。

一律ではありません。Targeted document productionが採用されることはありますが、米国型Discoveryと同一ではありません。適用規則、当事者合意、Procedural Order及び仲裁廷の裁量により範囲が決まります。

Q7 仲裁は必ず秘密ですか。

手続が一般公開されないことと、全関係者に包括的な法的守秘義務が当然に発生することは同じではありません。JCAA規則には守秘義務規定がありますが、機関・規則・契約・仲裁廷命令ごとに秘密保持の根拠と例外を確認する必要があります。

Q8 仲裁判断に不服がある場合、控訴できますか。

通常の意味で本案を再審理する控訴制度はありません。日本を仲裁地とする場合、仲裁法44条の限定的な取消事由に基づく申立てが問題となり、原則3か月の期間制限があります。

Q9 外国で取得した仲裁判断を日本で執行できますか。

可能性があります。仲裁法45条の承認枠組みを満たし、46条に基づく執行決定を取得した上で、日本国内の資産に対する民事執行へ進みます。ニューヨーク条約及び仲裁地での取消し・停止等も確認が必要です。

Q10 国際契約ではJCAA、ICC、SIACのどれを選ぶべきですか。

一律の正解はありません。当事者、取引地域、仲裁地、準拠法、案件規模、緊急保全、複数当事者・複数契約、仲裁人候補、費用、想定執行国等を比較して選ぶべきです。契約書の他の関連文書との整合も同時に確認します。

代表弁護士 道下剣志郎「Legal Update」について

SAKURA法律事務所は、代表弁護士 道下剣志郎のプロフィールページを通じ、企業法務、M&A、クロスボーダー取引、国際紛争、金融規制、Web3、AI・IT、データ保護、知的財産、危機管理、社内調査その他の企業経営に重要な法的テーマについてLegal Updateを継続的に公表しています。

第19回は、第17回の日本における国際民事訴訟、第18回の外国判決の日本における承認・執行に続く国際紛争シリーズとして、国際仲裁を契約締結時の条項設計から、仲裁手続、暫定保全、仲裁判断後の取消し・承認・執行まで一体として取り上げるものです。

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SAKURA法律事務所では、国際契約における仲裁条項・紛争解決条項のドラフティング及びレビュー、JCAAその他の国際仲裁、仲裁合意の成立・効力・範囲、仲裁地・準拠法・仲裁規則の分析、仲裁人選任、証拠・証人・専門家戦略、Emergency Arbitrator、仮差押え・仮処分、仲裁廷の暫定保全措置、和解、仲裁判断の取消し・承認・執行について相談を受けることが可能です。

クロスボーダーM&A、JV、投資、販売代理店・ディストリビューション、ライセンス、IT・SaaS、製造・供給その他の国際取引について、複数契約を横断したDispute Resolution Architectureの設計、海外法律事務所との共同対応、日本国内資産に対する保全・執行を含む一貫した紛争戦略にも対応します。

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国際仲裁、JCAA仲裁、仲裁条項、仲裁地、仲裁人、暫定保全、仲裁判断の取消し・承認・執行その他の国際商事紛争に関するご相談は、SAKURA法律事務所までお問い合わせください。

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〒106-0032 東京都港区六本木一丁目4番5号 アークヒルズサウスタワー4F

代表弁護士 道下 剣志郎

Web: https://sakura-lawyers.jp/

主な参考資料

1. 仲裁法(e-Gov法令検索。令和5年法律第15号による改正後) — https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000138

2. 法務省『仲裁法の一部を改正する法律、調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律について』 — https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00328.html

3. 法務省『仲裁法の一部を改正する法律案』―成立日・公布日・施行日・新旧対照条文 — https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00320.html

4. 法務省『国際仲裁ポータルサイト』 — https://www.moj.go.jp/arbitration/index.html

5. 法務省『国際仲裁活性化の取組』 — https://www.moj.go.jp/arbitration/initiatives/

6. 東京地方裁判所 民事第8部(商事部)―仲裁関係事件の種類・管轄 — https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section8/index.html

7. 最高裁判所『仲裁関係事件手続規則』―外国語資料の訳文提出の省略等 — https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2024/20240401chusaikisoku.pdf

8. 最高裁判所平成29年12月12日第三小法廷決定(平成28年(許)第43号)―仲裁人の開示義務 — https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/306/087306_hanrei.pdf

9. 法務省『外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法の一部を改正する法律(令和2年法律第33号)について』 — https://www.moj.go.jp/housei/gaiben/housei07_00002.html

10. JCAA『仲裁規則』―商事仲裁規則(2021)、インタラクティヴ仲裁規則(2021)等 — https://www.jcaa.or.jp/arbitration/rules.html

11. JCAA『仲裁条項の書き方』―推奨仲裁条項・迅速仲裁手続等 — https://www.jcaa.or.jp/arbitration/clause.html

12. JCAA『Arbitration Roadmap / 仲裁手続の流れ』 — https://www.jcaa.or.jp/en/arbitration/flow.html

13. JCAA『数字で見るJCAA』―2021年から2025年の国際事件比率・期間・執行実績等 — https://www.jcaa.or.jp/arbitration/statistics.html

14. JCAA『Arbitration FAQs』 — https://www.jcaa.or.jp/en/arbitration/qa.php

15. JCAA『Commercial Arbitration Rules (2021)』 — https://www.jcaa.or.jp/common/pdf/arbitration/Commercial_Arbitration_Rules2021_en.pdf

16. UNCITRAL『Model Law on International Commercial Arbitration (1985), with amendments as adopted in 2006』 — https://uncitral.un.org/en/texts/arbitration/modellaw/commercial_arbitration

17. UNCITRAL『New York Convention―Status』 — https://uncitral.un.org/en/texts/arbitration/conventions/foreign_arbitral_awards/status2

18. 国連条約集―日本のニューヨーク条約加入及び相互主義留保 — https://treaties.un.org/Pages/ViewDetails.aspx?chapter=22&clang=_en&mtdsg_no=XXII-1&src=IND

19. 外務省『外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(ニューヨーク条約)』 — https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S38-E4-1299-3.pdf

20. IBA『Rules on the Taking of Evidence in International Arbitration (2020)』 — https://www.ibanet.org/MediaHandler?id=def0807b-9fec-43ef-b624-f2cb2af7cf7b

21. IBA『Guidelines on Conflicts of Interest in International Arbitration (2024)』 — https://www.ibanet.org/document?id=Guidelines-on-Conflicts-of-Interest-in-International-Arbitration-2024

22. ICC『2021 Arbitration Rules』 — https://iccwbo.org/dispute-resolution/dispute-resolution-services/arbitration/rules-procedure/2021-arbitration-rules/

23. SIAC『SIAC Rules 2025』―2025年1月1日施行 — https://siac.org.sg/wp-content/uploads/2024/06/Press-Release-SIAC-Announces-the-Official-Release-of-7th-Edition-of-the-SIAC-Rules-2025.pdf

24. SAKURA法律事務所 公式サイト — https://sakura-lawyers.jp/

25. SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 プロフィール — https://sakura-lawyers.jp/lawyer/michishita-kenshiro/

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