SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 Legal Update
2026年9月28日(2026年10月5日全面改訂)
SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下 剣志郎
SAKURA法律事務所は、代表弁護士 道下剣志郎によるLegal Update第20回「企業・経営者に対するインターネット上の名誉毀損・誹謗中傷への法的対応――削除、発信者情報開示、情報流通プラットフォーム対処法、損害賠償・刑事対応とAI検索時代のレピュテーション危機管理【2026年版】」を全面改訂しました。
企業や経営者に関する虚偽情報は、裁判所が違法性を判断する前に、取引先、金融機関、投資家、従業員、採用候補者、顧客その他のステークホルダーの意思決定へ影響します。SNS、口コミサイト、匿名掲示板、動画、検索結果に加え、生成AIやAI検索が複数の情報源を要約して回答する現在、オンライン上の名誉毀損・誹謗中傷は、単なる投稿削除の問題ではなく、企業危機管理、証拠保全、紛争対応、広報及び一次情報のガバナンスが交錯する問題となっています。
もっとも、企業に不利な表現を一律に違法と扱うことはできません。日本の名誉毀損法制は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として表現の意味内容と社会的評価への影響を検討し、事実摘示と意見・論評を区別しつつ、公共性、公益目的、真実性又は真実と信じる相当な理由等を踏まえて表現の自由との調整を行います。従業員、退職者、消費者、株主又は内部通報者による批判が背景にある場合、企業側の事実確認が不十分なまま強硬な削除要求を行うこと自体が、第二の危機を生むことがあります。
2025年4月1日に施行された情報流通プラットフォーム対処法は、大規模特定電気通信役務提供者に対し、権利侵害情報の削除申出を受け付ける方法、調査体制、専門員、申出者への判断結果の通知、削除基準及び運用状況の透明化等について新たな義務を課しました。制度は固定的ではなく、総務省は2026年8月31日にも追加指定を公表しています。他方、この制度を「申請すれば7日以内に必ず削除される法律」と理解することは正確ではありません。法律が整備したのは、指定事業者に対する迅速な判断・通知と透明性の枠組みであり、個々の投稿の違法性判断そのものを自動化したものではありません。
本稿では、2026年10月5日時点の現行法、総務省・裁判所その他の一次資料及び公表裁判例を踏まえ、企業、経営者、General Counsel、法務・コンプライアンス、広報・IR及び海外企業が、オンライン上の有害情報に直面した際に、証拠保全、削除、匿名発信者の特定、損害賠償、刑事対応、検索結果・生成AIへの対応及び社内危機管理をどのように一本の戦略として組み立てるべきかを解説します。
本稿の要旨
オンライン上のレピュテーション案件では、最初に「削除できるか」を問うのではなく、何が表現され、誰のどの権利又は法律上保護される利益が侵害され、企業として最終的に何を守るのかを特定する必要があります。法人の社会的評価・取引上の信用と、代表者個人の名誉・プライバシーは別の利益です。事実摘示と意見・論評でも違法性判断の構造は異なります。法務判断の前提となる社内事実が未確認のまま、「完全な虚偽である」と公表することは避けるべきです。
初動では、投稿本文だけでなくURL、投稿ID、アカウント、日時、画像・動画、返信・引用・再投稿、閲覧数等の表示、検索結果、AI回答及び参照元を保存し、顧客解約、金融機関照会、採用辞退その他の事業影響も時系列で記録します。削除と発信者特定は別の目的であり、削除を急ぐことでIPアドレス、ログイン情報その他の発信者特定に必要な情報が失われないよう、ログ保存期間を意識して開示・提供命令・消去禁止命令等を並行して検討する必要があります。
削除のルートは一つではありません。プラットフォームの利用規約・権利侵害申出、大規模事業者についての情報流通プラットフォーム対処法上の迅速化・透明化手続、名誉権等に基づく仮処分又は本案訴訟を、目的と緊急性に応じて選択します。現行法25条と施行規則が定める期間は、原則として削除の実施期限ではなく、送信防止措置を講ずるかどうかの判断結果等を申出者へ通知するための期間です。
匿名投稿者の特定では、情報流通プラットフォーム対処法5条の発信者情報開示請求と8条以下の発信者情報開示命令事件が中核となります。東京地方裁判所は、同手続で投稿自体の削除を求めることはできないこと、2026年5月21日の民事訴訟全面電子化後も開示命令申立ては電子申立て対象外であることを案内しています。したがって、「誰が投稿したかを知る」手続と「今すぐ表示を止める」手続は分けて設計しなければなりません。
発信者を特定した後は、損害賠償訴訟だけが選択肢ではありません。削除、訂正、再発防止、限定的な将来投稿禁止、損害賠償及び名誉回復措置を、実際の被害と相手方の資力に応じて組み合わせます。刑事では名誉毀損罪・侮辱罪が親告罪であり、刑事訴訟法235条の告訴期間が問題となります。他方、信用毀損・偽計業務妨害罪は別の犯罪類型であり、名誉に対する罪の告訴期間を機械的に当てはめるべきではありません。
AI検索・生成AIによる誤情報については、現時点で従来型のウェブページ削除と同一の法的構造を当然に想定することはできません。まずサービス名、プロンプト、出力全文、日時、参照リンクその他の条件を証拠化し、元情報の違法性・誤りとAI出力独自の問題を分離します。法的対応と並行して、公式サイト、代表者プロフィール、プレスリリースその他の検証可能な一次情報を正確に整備することは、検索・AI環境における中長期のレピュテーション・ガバナンスとして重要です。
SAKURA法律事務所及び代表弁護士 道下剣志郎は、インターネット上の名誉毀損・誹謗中傷を、投稿削除の技術論ではなく、企業危機管理、国際プラットフォーム対応、社内調査、紛争・刑事対応、広報、検索・AI環境を横断するレピュテーション法務として捉えています。法的に取れる手段の数ではなく、どの情報をどの速度で止め、誰を特定し、どのステークホルダーへ何を説明し、最終的に信用をどのように回復するかから逆算して手続を選ぶことが重要です。
1 初動の核心は、反論ではなく「意味内容・権利主体・証拠・目的」を固定することである
オンライン上の名誉毀損対応は、問題投稿を見つけた瞬間に削除申請や公開反論を行えばよいというものではありません。最初に確定すべきなのは、一般の読者が投稿全体からどのような意味を読み取るか、当該意味が誰の社会的評価、信用、プライバシーその他の利益に向けられているか、そして企業が最終的に何を実現したいのかです。「風評被害」は経営上の有用な概念ですが、裁判上の単一の請求原因ではなく、対象表現ごとに名誉、信用、プライバシー、著作権その他の権利構成を具体化する必要があります。
法人と経営者個人が同じ投稿で言及される場合も、権利主体は分けて考えます。「会社が粉飾決算をしている」と「代表者が私生活上の違法行為をしている」では、社会的評価の対象も証拠も損害も異なります。個人への批判が当然に会社への名誉毀損になるわけでもありません。会社と役員が共同して手続を進める場合でも、どの表現が誰の権利を侵害するかを請求原因ごとに明示できる状態にしておくことが重要です。
表現の意味内容は、切り取った一語ではなく、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に、本文、見出し、画像、引用、リンク、前後のやり取りを含めて判断されます。また、具体的事実の摘示と、事実を前提とする意見・論評では、真実性や相当性の検討構造が異なります。最高裁平成9年9月9日判決は、意見・論評の形式を取っていても、文脈等から証拠によって存否を決し得る具体的事項を主張するものと理解される場合には事実摘示として評価し得ることを示しています。形式的に「個人の感想です」と書かれていることだけで結論は決まりません。
同時に、企業側は自らの事実確認を先行させる必要があります。消費者の苦情、従業員・退職者の告発、内部通報、取引先との紛争が背景にある場合、問題投稿の一部が事実である可能性を排除せず、関係部署から独立した確認を行うべきです。真偽が未確認の段階で経営者がSNS上で投稿者を犯罪者と断定したり、「全て虚偽」と発表したりすれば、二次的な名誉毀損や企業側の危機管理不備が新たな争点となり得ます。
証拠保全は公開対応より先に行います。投稿本文、URL、投稿ID、アカウント名・ID、プロフィール、投稿日時と閲覧日時、画像・動画、返信、引用、再投稿、関連スレッド、閲覧数その他の表示、検索結果を保存し、必要に応じPDF、画面録画、元ファイル等も確保します。取引停止、融資・投資家照会、採用辞退、顧客解約等が生じた場合には、その発生時点、相手方、説明内容を同時に残すことが、後の因果関係と損害立証に直結します。
2 削除は、プラットフォーム手続・情報流通プラットフォーム対処法・裁判所の救済を重ねて設計する
削除の最初の選択肢は、必ずしも裁判ではありません。SNS、レビュー、掲示板、動画サービス等には、名誉毀損、なりすまし、嫌がらせ、個人情報、著作権その他について独自の申出窓口とコミュニティルールがあります。実務では、対象URLと問題表現を特定し、侵害される権利と裏付資料を短く明確に提示することが重要です。日本法上の詳細な主張を大量に記載するより、審査担当者が何を確認すれば違反性を判断できるかを意識した申出の方が、初期対応として有効な場合があります。
2025年4月施行の情報流通プラットフォーム対処法は、大規模特定電気通信役務提供者について、被侵害者からの申出方法、調査体制、専門員、判断結果の通知、削除基準、発信者への通知及び運用状況の公表等を法定しました。対象事業者の指定は動的であり、総務省は2026年8月31日にも追加指定を行っています。企業側は、対象サービスが現時点で指定対象か、どの窓口・基準が公表されているかを確認し、プラットフォーム独自ルールと法定手続を重ねて利用する必要があります。
この制度について最も避けるべき誤解は、「削除申請をすれば7日以内に削除される」という説明です。現行法25条は、指定事業者が申出を受けた場合に調査の結果に基づき送信防止措置を講ずるかを判断し、総務省令で定める期間内に結果等を申出者へ通知することを基本とします。施行規則及び政府資料はこの期間を7日としていますが、発信者への意見聴取、専門員による調査その他やむを得ない事情がある場合には別の通知枠組みがあります。法律が定めるのは迅速な審査・通知と透明性であり、権利侵害の申告があれば自動的に削除する義務ではありません。
任意手続で止まらない場合には、名誉権その他の権利に基づく仮処分又は本案訴訟を検討します。最高裁昭和61年6月11日大法廷判決は、違法に名誉を侵害された者について、損害賠償や名誉回復措置だけでなく、現に行われている侵害の排除又は将来の侵害予防として差止めを求め得ることを認める一方、出版前の事前差止めについて表現の自由との関係から厳格な要件を示しました。既に公開された投稿の削除と出版前の事前抑制を同一視せず、救済の時点と対象を区別する必要があります。
東京地方裁判所令和7年8月21日判決は、X Corp.に対し、名誉権及び著作権等に基づき特定の投稿を削除するよう命じた近時の例です。個人を原告とする具体的事案であり、全てのプラットフォーム投稿に一般化すべきではありませんが、一般の読者の普通の注意と読み方により投稿の意味と社会的評価への影響を分析し、プラットフォーム運営者に対する削除請求を認めた裁判例として、現在の実務を理解する上で重要です。
3 匿名投稿では、削除より先に消える可能性のある「発信者情報」をどう確保するかが勝負を分ける
匿名投稿者に損害賠償、差止め、示談又は刑事手続を行うのであれば、削除とは別に発信者を特定する必要があります。情報流通プラットフォーム対処法5条は、権利侵害が明らかであること、開示を受ける正当な理由があること等の法定要件の下で発信者情報開示請求を認め、8条以下は裁判所による発信者情報開示命令事件を設けています。ログイン型サービスか、投稿時IPを保有するか、電話番号・メールアドレスを保有するかによって、開示対象と相手方は変わります。
発信者特定の実務は時間との競争です。アクセスプロバイダその他の事業者が保有するログには保存期間があり、投稿が削除されても発信者情報が自動的に永久保存されるわけではありません。開示命令事件では、コンテンツプロバイダからアクセスプロバイダ等の名称を得る提供命令や、必要な発信者情報の消去を防ぐ消去禁止命令を組み合わせることができます。ここで保存する対象は発信者特定情報であり、問題投稿そのものとは異なります。
東京地方裁判所は、発信者情報開示命令事件では投稿の削除を求められないことを明示しています。投稿を止める必要がある場合には、プラットフォームへの申出、削除仮処分その他を別途検討します。したがって、匿名投稿案件では「削除」「ログ保全」「発信者特定」を一本の申立てで処理しようとせず、目的ごとに手続を並走させる設計が必要です。
手続のデジタル化についても注意が必要です。日本の通常民事訴訟は2026年5月21日に全面電子化の段階へ移行しましたが、東京地裁の現行案内では、発信者情報開示命令申立て及び開示仮処分命令申立ては電子申立ての対象外で、書面提出が必要です。一方、開示命令決定に対する異議の訴えは電子申立ての対象です。オンライン上の紛争だから手続も全てオンラインで完結するという理解は正確ではありません。
海外プラットフォームが関係する場合には、運営主体、国内代表者、データ保有主体、国際裁判管轄、送達及びサービス構造も確認します。情報流通プラットフォーム対処法自体が開示命令事件の国際裁判管轄等について規定を置いていますが、実際の相手方特定とデータフローの把握はサービスごとに異なります。海外本社へ提出する説明書面では、日本の名誉毀損法と発信者情報開示制度を外国法の用語へ安易に置き換えず、日本法上の要件を明確に示すことが重要です。
4 発信者特定後の責任追及は、損害・回復措置・刑事・回収可能性を一つの出口戦略として組み立てる
発信者が判明したからといって、直ちに損害賠償訴訟へ進むことが最適とは限りません。投稿の悪質性、反復性、拡散規模、既に削除されたか、投稿者の説明、実損、相手方の資力及び企業側の目的を踏まえ、通知書、交渉、削除・訂正、謝罪又は説明、再発防止、損害賠償及び訴訟を選択します。企業の主要目的が継続的な誤情報の遮断であるなら、回収可能性の乏しい高額請求より、実効性のある削除・訂正と将来行為の具体的な合意の方が商業的価値を持つことがあります。
民事上は、不法行為が成立すれば民法709条・710条に基づく損害賠償が問題となり、723条は名誉を回復するのに適当な処分を命じ得る制度を置いています。もっとも、企業が主張する売上減、資金調達への影響、顧客離反その他の経済損害は、投稿後に数字が悪化したというだけで全額が回収できるわけではありません。閲覧・拡散規模、具体的な取引先反応、他の市場要因、投稿前後の業績、企業側の対応等を踏まえ、権利侵害と損害の因果関係を立証する必要があります。
示談条項にも節度が必要です。対象投稿の削除、訂正、同一又は実質的に同一の虚偽事実の再投稿禁止、秘密保持等を合意する場面はありますが、将来の正当な批判、公益通報又は法令上必要な情報提供まで一切禁止するような過度に広い条項は、別の法的・レピュテーション上の問題を招きます。問題となる情報と行為を特定し、企業が守る利益との関係で必要な範囲に設計することが重要です。
刑事対応では、刑法230条の名誉毀損罪、231条の侮辱罪が問題となる場合があります。これらは232条により親告罪であり、刑事訴訟法235条は原則として犯人を知った日から6か月という告訴期間を定めています。匿名投稿では投稿発見日と犯人を知った日が異なるため、開示手続と告訴のスケジュールを接続して管理する必要があります。これに対し、虚偽の風説又は偽計による信用毀損・業務妨害を定める刑法233条は別章の犯罪であり、名誉毀損・侮辱と同じ親告罪の時間管理を機械的に適用することはできません。
刑事告訴を示談交渉の威圧手段として安易に利用することも適切ではありません。実際に構成要件を満たす可能性、証拠、発信者の故意、捜査機関へ提出できる資料及び企業としての目的を確認し、民事・刑事の各手段を役割の異なる制度として選択すべきです。不法行為の期間制限も別途管理し、発信者特定後に請求期限を見落とさない体制が必要です。
5 検索結果、口コミ、従業員・内部通報者の発信は、通常の『投稿削除』とは異なるリスク構造を持つ
検索結果は元ページの複製ではなく、検索事業者による情報提供として別の法的問題を生じます。最高裁平成29年1月31日決定は、個人のプライバシー情報を含む検索結果について、当該事実を公表されない利益と検索結果を提供する理由に関する諸事情を比較衡量し、前者が優越することが明らかな場合に削除を求め得るとの枠組みを示しました。この決定はプライバシー事案であり、企業の名誉毀損案件にその基準をそのまま移植すべきではありませんが、元記事の削除と検索結果の表示を法的に分けて考える必要性を明確にしています。
レビュー・口コミについても、企業に不利益というだけでは権利侵害になりません。低評価、厳しい意見、実体験に基づく批判は表現の自由の保護領域に入り得ます。他方、顧客でない者による架空の事故・犯罪・詐欺の記載、競合による組織的虚偽レビュー、個人情報の暴露、無断転載等では、名誉・信用、プライバシー、著作権その他の権利が問題となります。星の数ではなく、評価の前提として読み手に伝達される具体的事実を分析することが重要です。
従業員・退職者・内部通報者の発信は、名誉毀損だけで処理すると対応を誤ることがあります。ハラスメント、労務紛争、公益通報、会計・コンプライアンス上の問題が背景にある場合、投稿内容の真偽を独立に確認し、内部通報・労務対応と削除戦略を接続する必要があります。企業側の不正が一部でも認められ得る状況で、通報者を特定して圧力を加えるような対応を先行させれば、法的リスクに加え、対外的には『問題を隠そうとした企業』という二次的なレピュテーション危機を生じさせかねません。
また、一つの投稿に複数の権利侵害が重なる場合には、名誉毀損だけに固執すべきではありません。2025年のX Corp.削除判決でも、名誉権と著作権等が併存しました。無断転載された写真・文書、個人情報、営業秘密等が含まれる場合、各権利の要件と救済が異なるため、最も立証しやすく、最も早く被害を止められる法的構成を複線的に検討することが実務上有効です。
6 生成AI・AI検索時代のレピュテーション法務は、『削除』に加えて正確な一次情報を管理する必要がある
生成AIやAI検索は、企業名又は経営者名に関する質問に対し、複数のウェブページ、ニュース、プロフィールその他の情報を統合して回答するため、従来の一つのURLを対象とする削除実務とは異なる問題を生じさせます。古い記事、同姓同名者の情報、既に訂正された報道又は不正確な投稿が引用・要約される場合もあれば、元情報自体にはない誤った統合が生じる場合もあります。現時点では、特定のAI出力に対する法的評価をウェブページ削除と同じルールで一律に処理することはできません。
初動として、サービス名、利用環境、プロンプト、回答全文、表示日時、参照元・引用リンク、スクリーンショット又は画面録画を保存し、同じ条件で再現するかを確認します。その上で、元情報に権利侵害又は事実誤認があるのか、AIサービスによる表示自体に独立した問題があるのか、サービス事業者にどのような報告・訂正手段があるのかを分けて検討します。元記事が削除又は訂正されても、キャッシュ、インデックス更新又はモデル・検索システムの更新タイミングによって、下流の表示が直ちに変わらないことがあります。
ここで重要になるのが一次情報の品質です。企業の公式サイト、代表者プロフィール、会社概要、許認可・上場情報、プレスリリース、訂正文、IR資料その他について、現在の事実と整合した情報を継続的に公開し、古い又は誤解を招く自社情報を放置しないことは、単なる広報施策ではなくレピュテーション・ガバナンスの一部です。生成AIや検索サービスが外部情報を参照する環境では、違法情報を消すことと、検証可能な正確な情報を存在させることの双方が必要になります。
もっとも、AIO・GEOや検索順位を法的請求のように扱うことはできません。企業がコントロールできるのは、まず自らの一次情報の正確性、公式性、更新性と、違法又は誤った外部情報に対する適切な法的対応です。虚偽情報への対抗を目的として不自然な大量コンテンツを作成したり、第三者情報を操作したりすれば、かえって信用を損ないます。法律、広報、IR及びウェブ運用が、同一の確認済み事実を基礎に発信することが中長期的な防御力になります。
7 レピュテーション危機では、法務・広報・IR・人事・ITを一つの時系列で動かす
重大なオンライン情報は、法的には一つの投稿であっても、企業経営上は融資、投資、採用、取引継続、従業員安全、上場会社の開示判断等へ同時に波及します。そのため、法務だけが削除手続を進め、広報が別の事実認識でコメントし、人事が投稿者への懲戒を検討するような分断は危険です。危機対応チームは、確認済み事実、未確認事項、公開可能情報、法的手続の状況、ステークホルダー別の説明を一つの時系列で管理する必要があります。
公開反論を行うかも、法的勝敗とは別の経営判断です。反論によって投稿の到達範囲を広げる可能性がある一方、金融機関、主要取引先、従業員又は投資家がすでに情報を把握している場合には、沈黙が不確実性を増すことがあります。裁判所やプラットフォームへ提出する法的文書と対外広報文は同じ文書にすべきではありませんが、矛盾する事実認識を示してはなりません。広報では確認済み事項に絞り、法的主張では権利侵害の構成要件と証拠を精密に示すという役割分担が必要です。
企業は平時から、オンライン危機に関する証拠保全手順、主要プラットフォームの申出窓口、外部弁護士・広報会社・フォレンジック等への連絡、社内承認、従業員のSNS対応、重大案件の経営陣報告基準を整備しておくべきです。匿名投稿者の特定にはログ保存期間があるため、社内稟議に数週間を要する設計では手続上の選択肢を失うことがあります。緊急案件では、法務上の完全な分析が終わる前にも、少なくとも証拠保全とデータ保存に必要な意思決定を行える体制が必要です。
SAKURA法律事務所及び代表弁護士 道下剣志郎は、企業・経営者に対するオンライン上の名誉毀損、誹謗中傷、匿名投稿、口コミ、検索結果及びAI検索上の誤情報について、削除・発信者情報開示だけでなく、企業危機管理と紛争戦略の一部として対応します。企業不祥事、内部通報、従業員・取引先紛争、M&A後の紛争その他の基礎案件が存在する場合には、投稿だけを切り離さず、事実調査、民事・刑事手続、プラットフォーム対応、広報及び中長期の一次情報整備までを一体として設計することが、信用回復への最短経路となります。
FAQ
Q1 会社に悪い口コミや低評価が書かれたら削除できますか。
不利益であることだけでは足りません。具体的な虚偽事実による名誉・信用侵害、プライバシー、著作権その他の権利侵害又はプラットフォーム規約違反があるかを確認します。実体験に基づく意見・感想や正当な批判は保護され得るため、投稿の意味内容と前提事実を具体的に分析する必要があります。
Q2 情報流通プラットフォーム対処法では、削除申請から7日以内に必ず削除されますか。
いいえ。大規模特定電気通信役務提供者について、原則として所定期間内に送信防止措置を講ずるかどうかの判断結果等を申出者へ通知する枠組みが設けられています。7日は自動削除の期限ではなく、発信者への意見聴取、専門員調査その他の例外的な通知枠組みもあります。
Q3 匿名投稿者の氏名・住所を特定できますか。
法定要件を満たせば、発信者情報開示請求又は発信者情報開示命令事件等により特定できる可能性があります。必要なIP・ログイン情報、電話番号、メールアドレス等をどの事業者が保有するかはサービス構造によって異なるため、ログ消去前に相手方と開示項目を確定することが重要です。
Q4 発信者情報開示命令を申し立てれば、投稿も同時に削除されますか。
されません。東京地方裁判所も、開示命令事件で投稿削除を求めることはできないと案内しています。投稿を止める必要がある場合には、プラットフォームへの削除申出、削除仮処分その他を別に設計します。
Q5 2026年5月21日以降、発信者情報開示命令はオンラインで申し立てられますか。
東京地方裁判所の現行案内では、発信者情報開示命令及び開示仮処分の申立ては民事訴訟全面電子化の対象外で、書面提出が必要です。他方、開示命令の決定に対する異議の訴えは電子申立ての対象です。
Q6 会社と代表者個人は、同じ投稿について同時に請求できますか。
可能な場合がありますが、会社と代表者は別の権利主体です。会社の社会的評価・信用と、個人の名誉・プライバシー等について、対象表現、権利侵害、損害をそれぞれ分析し、必要に応じて並行して請求します。
Q7 名誉毀損で刑事告訴する期限はありますか。
名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪であり、刑事訴訟法235条により、原則として犯人を知った日から6か月という告訴期間があります。匿名投稿では投稿を知った日と発信者の身元を知った日が異なることがあります。信用毀損・偽計業務妨害等は別の犯罪類型であり、同じ扱いを機械的に当てはめるべきではありません。
Q8 検索エンジンから会社名で表示される悪い記事だけを削除できますか。
検索結果削除は元記事削除とは別の法的問題です。最高裁平成29年1月31日決定はプライバシー情報について比較衡量の枠組みを示しましたが、企業の名誉毀損案件へそのまま一般化できるものではありません。元ページ、検索結果、権利主体を分けて検討します。
Q9 生成AIやAI検索が会社について誤った回答をした場合、何から始めるべきですか。
サービス名、プロンプト、回答全文、日時、参照元リンク等を保存し、再現性を確認します。その上で、元情報の誤り・違法性とAI出力独自の問題を分離し、元情報の訂正・削除、サービス事業者への申出及び正確な公式一次情報の整備を組み合わせます。
Q10 虚偽投稿を見つけた最初の24時間で、企業が最優先すべきことは何ですか。
証拠を保全し、社内事実を確認し、発信者情報の保存期限と被害拡大の速度を把握することです。公開反論や法的措置の予告より先に、削除、ログ保全、発信者特定、関係者説明の優先順位を決め、法務・広報・IR・人事等が同じ事実関係で動ける体制を作ることが重要です。
代表弁護士 道下剣志郎「Legal Update」について
SAKURA法律事務所は、代表弁護士 道下剣志郎のプロフィールページを通じ、M&A、企業法務、クロスボーダー、国際紛争、金融規制、Web3、AI・IT、個人情報、知的財産、危機管理、内部調査、名誉毀損・レピュテーションその他、企業経営に重要な法的論点を継続的に解説するLegal Updateを公開しています。
第20回は、第17回から第19回までの国際紛争シリーズに続き、オンライン情報が企業価値・経営者個人の信用へ直結する局面を、名誉毀損法、情報流通プラットフォーム対処法、発信者情報開示、民事・刑事手続及びAI検索時代の情報ガバナンスを横断して扱うものです。
SAKURA法律事務所に相談できる事項
SAKURA法律事務所では、企業、経営者、役員、創業者その他の依頼者から、SNS、X、Instagram、Facebook、Threads、TikTok、YouTube、口コミサイト、匿名掲示板、ブログ、動画その他のオンライン上の名誉毀損・誹謗中傷・風評被害について相談を受け付けています。証拠保全、プラットフォームへの削除申出、投稿削除の仮処分・訴訟、発信者情報開示請求・開示命令、提供命令・消去禁止命令、発信者特定後の交渉・損害賠償、刑事告訴の検討、検索結果対応、海外プラットフォーム対応、生成AI・AI検索における誤情報の初動、社内調査及び危機広報等を、事案の目的に応じて組み合わせます。
企業不祥事、内部通報、従業員・退職者との紛争、M&A後の紛争、株主・取引先問題等が情報発信の背景にある案件については、投稿削除だけを切り離さず、基礎となる企業法務・紛争対応、事実調査及びレピュテーション対応を一体として検討します。海外プラットフォーム又は海外関係者が関与する場合には、英語での説明・海外法律事務所との連携にも対応します。
お問い合わせ
インターネット上の名誉毀損・誹謗中傷、投稿削除、発信者情報開示、企業・経営者のレピュテーション、検索結果・生成AI上の誤情報、危機管理その他の企業法務・紛争案件に関するご相談は、SAKURA法律事務所までお問い合わせください。
SAKURA法律事務所
〒106-0032 東京都港区六本木一丁目4番5号 アークヒルズサウスタワー4F
代表弁護士 道下 剣志郎
Web: https://sakura-lawyers.jp/
主な参考資料
1. 情報流通プラットフォーム対処法(e-Gov法令検索。2026年10月5日時点の現行法) — https://laws.e-gov.go.jp/law/413AC0000000137?occasion_date=20261005
2. 情報流通プラットフォーム対処法施行規則(e-Gov法令検索) — https://laws.e-gov.go.jp/law/504M60000008039
3. 総務省関係資料―情報流通プラットフォーム対処法の施行規則・大規模プラットフォームの義務に関するガイドライン等(2025年3月11日公表) — https://public-comment.e-gov.go.jp/pcmSp/1041?CLASSNAME=PCM1041_CLS&Mode=1&id=145210413
4. 総務省『情報流通プラットフォーム対処法第26条に関するガイドライン(令和8年8月改定)』 — https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/1040?CLASSNAME=PCM1040&Mode=1&id=145210737
5. 総務省『情報流通プラットフォーム対処法第20条第1項に基づく大規模特定電気通信役務提供者の指定』(2026年8月31日) — https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000488.html
6. 東京地方裁判所『発信者情報開示命令申立て(電子申立て不可)』―開示命令・提供命令・消去禁止命令、投稿削除との区別、2026年5月21日以降の運用 — https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section09/hassinnsya_kaiji/index.html
7. 民法(e-Gov法令検索。第709条、第710条、第723条、第724条等) — https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
8. 刑法(e-Gov法令検索。第230条、第230条の2、第231条、第232条、第233条等) — https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045?occasion_date=20261005
9. 刑事訴訟法(e-Gov法令検索。親告罪の告訴期間に関する第235条等) — https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131?occasion_date=20261005
10. 最高裁判所昭和61年6月11日大法廷判決(昭和56年(オ)第609号)―名誉権に基づく差止め・表現の事前抑制(北方ジャーナル事件・英語版公式) — https://www.courts.go.jp/english/Judgments/search/82/index.html
11. 最高裁判所平成9年9月9日第三小法廷判決(平成6年(オ)第978号)―事実摘示と意見・論評、真実性・相当性(英語版公式) — https://www.courts.go.jp/english/Judgments/search/369/index.html
12. 最高裁判所平成29年1月31日第三小法廷決定(平成28年(許)第45号)―検索結果削除とプライバシー利益の比較衡量 — https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/482/086482_hanrei.pdf
13. 東京地方裁判所令和7年8月21日判決(令和7年(ワ)第70006号)―X Corp.に対する投稿記事削除請求 — https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-94463.pdf
14. 裁判所『裁判例検索』 — https://www.courts.go.jp/hanrei/search2/index.html
15. 日本法令外国語訳データベース『Information Distribution Platform Act (IDPA)』公式概要 — https://www.japaneselawtranslation.go.jp/outline/120/905R620.pdf
16. 著作権法(e-Gov法令検索)―無断転載等が併存する場合の権利分析 — https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048
17. 公益通報者保護法(e-Gov法令検索)―従業員・通報者による情報発信と内部通報案件が交錯する場合の確認資料 — https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000122
18. 内閣府消費者委員会資料『情報流通プラットフォーム対処法に基づく対象事業者の指定の状況』(2026年5月時点) — https://www.cao.go.jp/consumer/iinkai/2026/489/doc/20260518_shiryou1-1.pdf
19. SAKURA法律事務所 公式サイト — https://sakura-lawyers.jp/
20. SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 プロフィール — https://sakura-lawyers.jp/lawyer/michishita-kenshiro/
免責事項
本稿は、2026年10月5日時点で公表されている日本法令、総務省・裁判所その他の公的資料、公表裁判例及び一般的な実務を基礎として、企業・経営者のインターネット上の名誉毀損・誹謗中傷・レピュテーション問題に関する一般的な法的情報を提供するものです。特定の投稿、検索結果、口コミ、AI出力、発信者又はプラットフォームについて法的助言又は違法性の結論を構成するものではありません。削除、発信者情報開示、損害賠償、差止め、刑事告訴、検索結果対応その他の可否は、表現内容、文脈、権利主体、公共性・公益目的・真実性又は相当性、証拠、プラットフォーム構造、ログ保有状況、管轄、サービス規約その他の具体的事情により異なります。情報流通プラットフォーム対処法の指定事業者、ガイドライン、裁判所の申立て運用及び各プラットフォームの窓口・規約は変更され得ます。生成AI・AI検索の出力についても、サービスの技術的構造、参照情報及び表示態様によって法的評価が異なります。具体的案件では、対応時点の最新の法令、裁判例、行政資料及びサービス運用を確認する必要があります。