SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 Legal Update
2026年10月1日(2026年10月16日訂正)
SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下 剣志郎
SAKURA法律事務所は、代表弁護士 道下剣志郎によるLegal Update第30回として、「2026年6月1日施行 電子決済手段・暗号資産サービス仲介業――FinTech・Web3事業者の参入、媒介該当性と所属業者責任【2026年版】」を公開いたしました。
2026年6月1日、資金決済法上の新たな登録類型である「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」の制度が施行されました。暗号資産交換業者又は電子決済手段等取引業者から委託を受け、利用者の財産を預からず、売買又は交換の「媒介」のみを行う事業者について、フルライセンスである暗号資産交換業又は電子決済手段等取引業とは異なる規制体系を設けるものです。制度創設の背景には、ゲーム、非カストディ型ウォレット、比較・送客サービスその他のデジタルサービスが利用者と登録業者を接続する場面で、取引当事者でも資産管理者でもない事業者にまで従来のフルライセンスが必要となり得るという規制上の不均衡がありました。
もっとも、この新制度を「暗号資産・ステーブルコインを扱うための簡易ライセンス」と理解することは適切ではありません。制度の核心は、利用者財産を預からない媒介機能を切り出し、その業務範囲を厳格に限定するとともに、仲介業者自身の利用者保護・情報管理・システム管理を要求し、さらに委託元である登録業者を「所属業者」として監督・賠償責任の構造に組み込む点にあります。したがって、登録の可否は会社の事業目的だけで決まるものではなく、ユーザーインターフェース、表示文言、レコメンドロジック、取引画面への遷移、説明主体、資金・暗号資産の動線、API設計、外部委託、苦情処理まで含むサービス全体の設計に左右されます。
SAKURA法律事務所のLegal Updateでは、第27回において2026年成立の改正暗号資産規制と金融商品取引法への移管、第29回においてステーブルコイン(電子決済手段)の発行・償還・外国発行・仲介を取り上げました。本稿第30回は、これらを踏まえ、登録業者と利用者を結ぶ「利用者接点」の規制を主題とし、FinTech・Web3事業者、オンラインプラットフォーム、ゲーム会社、ウォレット事業者、比較・メディア事業者、海外事業者、そして委託元となる金融事業者が、どのように媒介該当性を判断し、所属関係と責任分担を構築し、プロダクトへ規制を実装すべきかを整理します。
本稿は2026年10月1日時点の資金決済法、関係政令・内閣府令、金融庁の事務ガイドライン、金融審議会資料及び公表済みの自主規制規則等を前提としています。また、本稿執筆日である2026年10月1日から、サイバー攻撃による被害発生時の報告手続等に関する関係省庁の申合せを踏まえた監督指針等の改正が適用されています。サービス開始時点での登録取得だけでなく、事故・インシデント発生後まで含めた継続的な規制対応を前提に設計することが重要です。
本稿の要旨
電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の実務で最も重要なのは、「紹介」と「媒介」の境界です。金融庁の事務ガイドラインは、媒介該当性を契約成立に向けた一連の行為全体の中で実質的に判断するとしており、勧誘、勧誘を目的とする商品説明、契約条件の交渉は原則として媒介に該当します。他方、登録業者のサイトへの単なるリンク、登録業者から提供されたコンテンツの単純転載、一般的な仕組みの説明等は、具体的な誘引行為を伴わなければ媒介に至らない場合があります。比較サイトで推奨商品を上位表示するアルゴリズムや、独自の説明を加えた取引導線は、形式上「送客」であっても媒介と評価される可能性があるため、UI・UXそのものを規制分析の対象とする必要があります。
新制度を利用できるのは、暗号資産交換業者又は電子決済手段等取引業者の委託を受け、その所属業者のために媒介を行う場合です。委託関係なく独立して媒介を業として行うのであれば、仲介業登録で足りるとは限らず、従来型の暗号資産交換業又は電子決済手段等取引業の登録が問題となります。制度は、仲介業者に交換業者と同一の財務・資産管理規制を課さない一方、登録申請段階から、所属業者、業務内容・方法、内部管理、委託先、社内規則等を具体化することを求めています。登録はサービス設計の後に付加する手続ではなく、事業設計そのものと一体です。
仲介業者は、仲介業に関して利用者から金銭その他の財産の預託を受けることが禁止され、その禁止は一定の密接関係者を介した受入れにも及びます。この非カストディ性こそが軽減された規制体系の前提です。したがって、利用者の法定通貨、電子決済手段又は暗号資産が、形式的にも実質的にも仲介業者側へ滞留しない決済・送付フローを構築しなければなりません。秘密鍵、署名権限、ウォレット操作権限、決済代行の仕組み等により利用者資産を実質的に支配する場合は、単なる媒介を超える別の規制類型を検討する必要があります。
規制が軽減されていることと、責任が軽いことは同義ではありません。金融庁は、利用者保護及び業務の適正・確実な遂行について、所属業者が第一義的な責任を果たすという制度趣旨を明示しています。資金決済法も、仲介業者が委託された行為について利用者に損害を与えた場合、所属業者が一定の要件の下で賠償責任を負う構造を設けています。したがって、所属契約では、業務範囲、説明・広告の事前審査、UI変更管理、情報共有、苦情・事故対応、再委託、監査権、記録保存、責任分担、終了時対応までを、単なる業務委託条項ではなく金融規制上の統制設計として具体化する必要があります。
さらに、2026年7月15日には暗号資産取引規制を資金決済法から金融商品取引法へ移管する改正法が成立しています。2026年8月12日に施行されたのは無登録業に対する罰則引上げ等の一部であり、暗号資産規制の中核的な移管部分については、本稿執筆日時点で全面施行に至っていません。したがって、現在の仲介業務は現行の資金決済法に適合させる必要がある一方、暗号資産仲介については将来の金商法体系への移行を見越して、契約・コンプライアンス・システムを過度に現行制度へ固定しないことが実務上重要です。
1 新制度が埋めた規制の空白――「フルライセンス」と単純紹介の間
2025年の資金決済法改正以前、暗号資産又は電子決済手段の売買・交換について「媒介」を業として行えば、たとえ自らが取引の相手方とならず、利用者の金銭や暗号資産を一切預からない場合であっても、暗号資産交換業又は電子決済手段等取引業の登録が必要となり得ました。金融審議会の資金決済制度等に関するワーキング・グループは、ゲームアプリやアンホステッド・ウォレット等の事業者が利用者に登録業者を紹介する場面を具体例として挙げ、媒介にとどまる事業者に、利用者財産の管理を前提とした財務規制や分別管理、AML/CFT等の規制をそのまま課すことは、事業実態に比して過重となり得ると整理しました。これを受けて創設されたのが、2026年6月1日施行の電子決済手段・暗号資産サービス仲介業です。
この制度は、規制を無くすのではなく、リスクの所在に応じて規制を組み替えたものです。取引の相手方となり、利用者資産を受け入れ、売買・交換を履行する機能は所属業者に残し、仲介業者には利用者接点に応じた説明、広告・勧誘、情報管理、システム、苦情対応等の規律を課す。その上で、所属業者に仲介業者の業務を管理させ、利用者との関係では所属業者にも責任を負わせる。つまり、仲介業者と所属業者の二層で利用者保護を確保することが制度の設計思想です。
この点を理解すると、新制度を利用するか否かの判断も明確になります。自社が暗号資産・電子決済手段を取り扱いたいという抽象的な事業目的から出発するのではなく、誰が契約当事者となるのか、誰が価格・商品情報を作るのか、誰が利用者に勧誘・説明を行うのか、誰が注文を受けるのか、誰が資産を受領・管理するのか、そして誰が取引成立後の苦情・取消し・返還に対応するのかを分解し、自社が担う機能が「媒介のみ」に収まるかを確認する必要があります。仲介業はフルライセンスの縮小版ではなく、機能分担を前提とする独立した業務類型です。
2 実務の核心は「媒介」の線引きにある――UI、レコメンド及び取引導線の評価
資金決済法上の「媒介」は、名称ではなく実質で判断されます。事務ガイドラインは、「業として行うこと」について対公衆性と反復継続性を基礎としつつ、現実に反復継続している場合に限らず、そのような事業として予定されている場合も含めて個別具体的に判断するとしています。また、媒介該当性については、契約成立に向けた一連の行為における当該行為の位置付けを総合的に見るべきであり、一工程だけを切り出して「注文は登録業者が受けているから自社は媒介ではない」と結論付けることはできません。
金融庁が原則として媒介に該当すると示す典型は、第三者のために行う契約締結の勧誘、勧誘を目的とした商品説明、契約締結に向けた条件交渉です。オンラインサービスでは、この考え方を画面設計へ翻訳する必要があります。暗号資産の銘柄を独自に推奨し、利用者属性に応じて「おすすめ」を表示し、特定銘柄をランキング上位に置き、購入メリットを独自文章で説明し、その直後に購入導線を置くのであれば、ボタンの先が登録交換業者の画面であっても、一連の行為として契約締結への誘引と評価される可能性があります。比較サイトについても、登録業者から提供された商品情報をそのまま掲載するだけなのか、運営者が情報を加工し、順位付けや推薦を行うのかで法的評価は変わり得ます。
反対に、単純な紹介にとどまる余地も明確にされています。登録業者のサイトへの単なるリンク設定、登録業者が作成した商品案内の単純転載、一般的な暗号資産・電子決済手段の仕組みの説明、勧誘を伴わない顧客紹介などは、具体的な契約締結への誘引を伴わなければ媒介に至らない場合があります。さらに金融庁は、オンラインゲーム等の事業者が自社サービス内の画面で取引機会を提供する場合であっても、取引の相手方が登録業者であり、取引に関する説明が登録業者から提供されることをあらかじめ明示し、送客元事業者が独自に情報を追加・加工せず、勧誘・推奨・説明・条件交渉を行わないのであれば、媒介に至らない場合があるとしています。
実務上の重要点は、形式的な免責表示を置くことではありません。「当社は紹介のみを行います」と書いていても、その直下で特定銘柄の魅力を独自に解説し、利用者の行動履歴に応じて購入を促すのであれば、表示文言だけで実態は変わりません。逆に、サービス内で取引画面をシームレスに表示していても、登録業者が相手方・説明主体であることが明確で、送客元が取引情報を独自に形成せず、誘引行為を行わない設計であれば、技術的な埋込みだけを理由に直ちに媒介となるものでもありません。したがって、法務レビューでは画面キャプチャだけでなく、コンテンツ作成主体、表示順序を決めるアルゴリズム、CTAの設計、ユーザーセグメント、A/Bテスト、プッシュ通知、チャットボットの応答、カスタマーサポートのスクリプトまで確認する必要があります。
特に生成AIを用いたレコメンドや対話型UIでは、事前に固定された説明文だけを審査する従来型の統制では不十分になり得ます。AIが利用者ごとに商品説明や推奨理由を生成する場合、その出力が勧誘・推奨に踏み込む可能性を前提に、許容される回答範囲、禁止表現、ログ保存、人による監督、モデル変更時の再審査を設計することが望まれます。媒介該当性は、法務部門だけが契約書上で判断する問題ではなく、プロダクト、マーケティング、データ、エンジニアリングを含む横断的な設計問題です。
3 所属モデルがつくる二層のガバナンス――登録、委託契約及び賠償責任
電子決済手段・暗号資産サービス仲介業として業務を行うためには、電子決済手段等取引業者又は暗号資産交換業者から委託を受け、その所属業者のために媒介を行うことが制度上の前提です。所属業者の委託を受けずに独立して電子決済手段又は暗号資産の売買等の媒介を業として行う場合には、仲介業登録ではなく、電子決済手段等取引業又は暗号資産交換業の登録が必要となり得ます。このため、事業者が先に仲介業登録だけを取得し、その後に自由に複数の取引業者を接続するという発想ではなく、所属関係と提供サービスを具体化した上で登録・変更管理を行うことが基本となります。
登録申請では、所属業者、業務の種別、業務内容・方法、第三者委託の内容等が法定事項となり、内閣府令上も、組織体制、内部管理、責任者、社内規則、所属業者との委託関係その他の資料が審査対象となります。交換業者と同一の固定的な資本金・純資産要件や利用者財産の分別管理規制をそのまま課す制度ではありませんが、それは「小規模だから」ではなく、仲介業者が利用者財産を預からないという業務境界が確保されているからです。したがって、登録審査では業務フローと内部統制の整合性が重く、事業説明資料、業務方法、システム図、規程、委託契約の間に矛盾があれば、制度趣旨との整合性を説明できません。
さらに重要なのが所属業者の位置付けです。金融庁の事務ガイドラインは、仲介業者自身が利用者保護等の措置を講ずることを当然の前提としながら、所属業者にも仲介業務の利用者保護及び適正・確実な遂行を確保する責任があり、その責任は第一義的には所属業者が果たすべきものであると明記しています。資金決済法第63条の22の14も、仲介業者が所属業者から委託を受けた行為について利用者に加えた損害につき、所属業者が一定の場合に賠償責任を負う仕組みを設けています。この構造は、所属業者にとって、外部チャネルを増やす営業提携ではなく、自社の規制責任の一部を外部接点まで拡張する関係であることを意味します。
したがって、所属契約の中心は報酬や契約期間ではありません。媒介できる商品・銘柄と地域、使用可能な説明資料、広告・UI・キャンペーンの事前承認、仲介業者による独自編集の可否、顧客問い合わせのエスカレーション、苦情・紛争・不正疑義・システム障害の即時連絡、個人情報その他利用者情報の授受、ログと帳簿の保存、監査・モニタリング、再委託、規制変更への対応、業務停止権、終了時の顧客導線・データ処理までを具体化する必要があります。
特に複数の所属業者と接続するモデルでは、どの画面・商品・取引がどの所属業者の責任範囲に属するかを利用者と社内双方から識別できるようにしなければ、平時の説明責任だけでなく、事故時の責任判定も困難になります。
4 非カストディ性をシステムで担保する――資産動線、秘密鍵及びAML/CFTとの接続
仲介業規制の最も明確な境界線は、利用者財産を預からないことです。資金決済法第63条の22の13は、仲介業者が電子決済手段・暗号資産サービス仲介業に関して利用者から金銭その他の財産の預託を受けることを禁止し、政令は一定の密接関係者を介した受入れについても規制の実効性を確保する構造を採っています。これは単なる会計上の区分ではありません。利用者が支払う法定通貨や、購入・売却・交換の対象となる電子決済手段・暗号資産が、仲介業者の銀行口座、ウォレット、オムニバス口座等を経由・滞留しないよう、資産フローそのものを設計する必要があります。
ウォレット事業では、名称が「non-custodial」であるかよりも、技術的権限が重要です。仲介業者側が秘密鍵、署名権限、復旧キーその他の仕組みを通じて、単独又は他の要素との組合せにより利用者資産の移転を実質的にコントロールできるのであれば、単なる媒介の範囲に収まるかを改めて検討する必要があります。API連携でも同様であり、注文情報を中継するだけなのか、仲介業者が価格決定・注文執行・資産移転を実質的に支配しているのかによって、規制上の評価は変わります。法務意見は、利用規約の文言だけでなく、鍵管理図、署名フロー、API権限、資金決済シーケンス、障害時の手動オペレーションを踏まえて作成すべきです。
AML/CFTについても、仲介業者は交換業者と同一の資産受入れ・取引当事者ではないため、制度創設時の議論では、取引時確認等の中心的な義務を所属業者側で履行することを前提に、仲介業者へ交換業者と同一の規制を重ねない考え方が採られました。しかし、これは仲介業者が犯罪リスクから自由であることを意味しません。内閣府令は、犯罪行為に利用された疑いがある場合の業務停止等を含む利用者保護措置や社内規則・体制整備を要求しており、金融庁の監督も反社会的勢力、情報管理、不祥事件等を対象とします。所属業者が本人確認や取引モニタリングを実効的に行えるよう、仲介段階で取得する情報、端末・アクセス情報、不正兆候、問い合わせ履歴等を適切に連携できるようにすることが重要です。
したがって、仲介業者から所属業者へ提供すべき情報、その連携時期・形式及び個人情報保護上の措置を、所属契約とシステムの双方で定める必要があります。制裁対象との関連、アカウント乗っ取り、ソーシャルエンジニアリング、リンク改ざんや不正な画面転送の兆候も連携対象となり得ます。本人確認を所属業者が行うことを理由に、仲介段階で判明した不正兆候が共有されない空白を生じさせるべきではありません。
実務上は、規制負担を下げるために「資産を持たない」構造を選択したにもかかわらず、UX向上のために一時的な立替え、利用者残高のプール、独自ウォレットへの受入れ、返金原資の仮受け等を後から追加し、当初の法的整理を崩す例に注意が必要です。新機能の追加時には、資産動線が変わるか、仲介業者が新たな信用リスク・決済リスク・鍵管理リスクを引き受けるかを変更管理の必須項目とし、必要に応じて登録区分・所属契約・利用規約を再検討する運用が求められます。
5 利用者保護をプロダクトへ実装する――説明、広告、情報管理、外部委託及びシステム
仲介業者が利用者とのフロントエンドを担う以上、利用者保護は所属業者へ全面的に委ねることはできません。資金決済法と内閣府令は、所属業者等の商号その他の明示、電子決済手段・暗号資産の性質や取引条件に関する説明・情報提供、広告・勧誘に関する規律、利用者情報の安全管理、委託先管理、帳簿書類の作成・保存等を求めています。暗号資産については、本邦通貨又は外国通貨ではないこと、価格変動による損失可能性、対象暗号資産の概要・特性等を説明することが必要であり、所属業者が所定の説明を行う場合に重複説明を省略できる場面があるとしても、誰が、どの画面で、何を説明したかを証跡化する設計が必要です。
特に広告・マーケティングは、媒介該当性と利用者保護規制が交差する領域です。マーケティング部門が独自に作成するバナー、LP、SNS、インフルエンサー施策、プッシュ通知、紹介コード、報酬キャンペーン等は、単なるブランド広告から特定取引への勧誘へ容易に移行します。所属契約上の事前承認プロセスと、社内の法務・コンプライアンス審査を二重化し、承認済み素材をどのチャネル・期間・ユーザー層で用いるかまで管理する必要があります。表示内容だけでなく、ランキングや推薦の根拠、手数料・対価関係、利用者に誤認を生じさせるUI、ダークパターンの有無も確認対象です。
情報管理と外部委託も軽視できません。仲介業者は、利用者属性、取引希望、アクセスログ、端末情報等、金融取引に近接するデータを取得し得ます。これらは個人情報保護法への対応に加え、金融規制上の情報管理態勢としても管理する必要があります。クラウド、KYC関連サービス、CRM、チャット、生成AI、分析ツール等を外部利用する場合には、委託先の選定、契約、アクセス制御、再委託、障害・漏えい報告、データ所在、終了時の返還・削除を含む管理が必要です。電子決済手段・暗号資産サービス仲介業者に関する内閣府令第58条は、所定の仲介行為に係る帳簿書類を、帳簿の閉鎖の日から少なくとも10年間保存することを求めています。保存場所は国内が原則ですが、外国の営業所等で作成した帳簿書類について作成後遅滞なく国内に写しを保存する場合、又は電磁的記録を国内の営業所等で遅滞なく閲覧できる状態に置く場合には、同条所定の例外があります。これは分析用データや技術ログのすべてを一律に10年間保存させる規定ではありません。同府令第59条の記載事項を備えた法定記録、保存期間の起算点及びその他の個人データを保有する根拠を区別し、所属業者が監督・事故対応に必要な情報を取得できる契約とデータ設計へ接続すべきです。
システム面では、金融庁の事務ガイドラインが、経営陣によるシステムリスクの認識、取締役会承認を含むシステム戦略、開発と運用の牽制、セキュリティポリシー、外部委託先管理、障害時対応等を監督上の着眼点として掲げています。仲介業は資産を預からないからサイバーリスクが小さい、という理解は危険です。アカウント乗っ取り、取引先URLの改ざん、APIの不正操作、フィッシング、説明画面の差替え、顧客情報漏えい等により、仲介層だけでも重大な利用者被害が生じ得ます。
加えて、2026年10月1日から適用される監督指針等の改正を踏まえ、サイバー攻撃被害時の当局報告を含むインシデント対応手順を最新化し、所属業者との報告経路・判断権限・初動時間軸を平時から定めておく必要があります。
6 海外事業者の日本向けサービス――「所在地」ではなく勧誘の実態で設計する
海外のウォレット、ゲーム、取引アプリ、FinTechプラットフォームが日本の利用者を対象とする場合、会社の設立地やサーバー所在地だけで日本法の適用を回避できるものではありません。資金決済法は、登録を受けていない外国電子決済手段・暗号資産サービス仲介業者による国内所在者への勧誘を禁止しており、金融庁の事務ガイドラインは、インターネットを用いたクロスボーダー取引について、日本向け勧誘を回避するための具体的な着眼点を示しています。
ガイドライン上、取引に際して住所、郵送先、メールアドレス、支払方法その他の情報から利用者の所在を確認する手続を設け、日本国内にある者であると信ずるに足りる合理的な事情がある場合には注文に応じないよう配慮すること、日本国内向けコールセンターの設置や日本国内所在者を対象とするホームページへのリンク等によって日本向け取引を誘引しないことなどが例示されています。これらは形式的な日本語ページの有無だけを見るものではありません。アプリストアの配信地域、日本円表示、日本向け広告、日本語サポート、国内インフルエンサー、国内イベント、ローカルKOL、決済手段、利用者獲得キャンペーン等を総合すれば、実質的に日本市場を対象としていると評価される可能性があります。
海外事業者が日本市場へ正式参入する場合には、①自らフルライセンスを取得するのか、②日本の登録業者との所属関係の下で仲介業登録を取得するのか、③機能を紹介・技術提供に限定して規制業務を日本の登録業者へ委ねるのかという構造選択が必要です。この選択は、規制コストだけでなく、ブランド、顧客データ、取引UI、収益分配、商品の選定権、将来のライセンス拡張、撤退時の顧客移管に影響します。
したがって、日本参入の法務は登録要否の一問一答ではなく、事業モデル、契約、データ、プロダクト、マーケティングを一体として設計するクロスボーダー案件として扱うことが適切です。
7 施行後の実務と2026年改正金商法への接続――現在の適法性と将来の移行を同時に設計する
2026年6月1日に仲介業制度が施行された直後、同年7月15日には「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、暗号資産取引に係る規制を資金決済法から金融商品取引法へ移管する方向が確定しました。もっとも、2026年8月12日に施行されたのは無登録業に対する罰則の引上げ及び証券取引等監視委員会の犯則調査権限の追加に関する一部規定であり、暗号資産規制の中核的な移管部分は、本稿執筆日時点では全面施行されていません。したがって、現時点の暗号資産仲介業務は、2026年6月施行の資金決済法上の仲介業制度を正面から遵守する必要があります。
一方、将来の制度移行を無視して数年単位のシステム・契約を固定することも合理的ではありません。金融審議会では、暗号資産取引を金商法へ移管する際、暗号資産仲介についても金商法上の仲介規制へ移し、必要な経過措置を設けること、金融商品仲介業に適用される規律を踏まえることが検討されてきました。最終的な施行政省令・監督指針・経過措置は今後の確認が必要ですが、仲介業者は、所属関係、外務員的な人的管理、広告・勧誘管理、記録、商品情報、利益相反管理等の追加・変更が生じても改修できるよう、契約条項とシステム権限をモジュール化しておくことが有益です。
実務上、2026年の新制度を活用する企業が最初に行うべきことは、登録申請書を作り始めることではありません。まず現行のユーザージャーニーを可視化し、各画面・メッセージ・API・資産動線について「紹介」「媒介」「売買・交換」「管理」のどの機能を担っているかを整理する。その上で、希望する規制境界に合わせてプロダクトを修正し、所属業者候補との責任分担を設計し、内部規程・システム・契約・表示を同じ業務モデルへ収斂させることが必要です。登録審査とサービスローンチを別工程と考えず、リーガル・アーキテクチャをプロダクト・アーキテクチャへ落とし込むことが、制度を安定的に利用するための要点です。
また、所属業者側にとっても、仲介チャネルは単なる営業網ではありません。新しいユーザー層へのアクセスと引換えに、自社が第一義的な監督責任と一定の賠償リスクを引き受けるため、仲介候補先のデューデリジェンス、UI・広告の継続監視、システム接続審査、変更管理、事故時の停止権限が不可欠です。新制度はFinTech・Web3の流通チャネルを広げる可能性を持ちますが、その成否は、登録の有無以上に、所属業者と仲介業者が一つの規制システムとして機能できるかにかかっています。
FAQ――経営者・General Counsel・事業責任者から多い実務上の質問
Q1 暗号資産交換業者へのアフィリエイトリンクを置くだけでも仲介業登録が必要ですか。
単なるリンク設定だけで直ちに媒介になるわけではありません。金融庁の事務ガイドラインは、勧誘を伴わない単純な紹介や、登録業者サイトへの単なるリンク設定を、媒介に至らない場合の例として挙げています。ただし、リンクと併せて自社独自の見解として特定銘柄・サービスを推奨・説明する場合、ランキングや利用者属性に応じて購入を誘導する場合などは、契約締結への誘引として媒介に該当し得ます。報酬の有無だけでなく、表示内容とユーザージャーニー全体で判断する必要があります。
Q2 比較サイトで登録業者や暗号資産をランキング表示すると「媒介」になりますか。
自動的に媒介となるわけではありませんが、リスクは高まります。登録業者から提供された情報を単に転載するのと、自社が情報を加工し、特定商品を推奨するように上位表示するデザインやアルゴリズムを設けるのとでは、金融庁の評価は異なり得ます。ランキング基準、スポンサー関係、表示順の決定ロジック、説明文、CTA、利用者属性によるパーソナライズまで確認し、契約締結への誘引と評価されるかを分析すべきです。
Q3 非カストディ型ウォレットで暗号資産の購入機能を提供する場合、新制度を利用できますか。
利用可能性はありますが、「非カストディ」という名称だけでは足りません。自社が暗号資産交換業者の委託を受けて売買等の媒介のみを行い、利用者財産を預からず、秘密鍵その他の権限によって実質的に資産を管理せず、取引の相手方と履行主体が所属交換業者である構造であれば、新制度との親和性があります。他方、ウォレット機能を通じて自社が資産移転を実質的に支配する場合や、独自に取引を成立・執行する場合は、別の登録類型を含めて検討が必要です。
Q4 オンラインゲームの画面内でユーザーに暗号資産を購入させる場合、ゲーム会社は必ず仲介業者になりますか。
必ずしもそうではありません。金融庁は、ゲーム等のサービス画面内で取引機会を提供していても、取引相手方が登録業者であること、取引説明が登録業者から提供されることを事前に明示し、ゲーム会社が独自の情報追加・加工、勧誘・推奨・説明、条件交渉を行わないなど、契約締結への誘引と評価されない設計であれば媒介に至らない場合があるとしています。実際のUI、ゲーム内報酬との連動、購入促進表示等を含めた個別判断が必要です。
Q5 仲介業者が利用者の金銭や暗号資産を数秒だけ一時的に受ける設計は許されますか。
慎重に避けるべきです。資金決済法は、仲介業に関して利用者から金銭その他の財産の預託を受けることを禁止しており、短時間であれば当然に許容されるという例外を設けていません。ユーザー体験上の都合で一時受入れが必要に見える場合も、資産が所属業者へ直接移転する構造、決済代行の役割分担その他の代替設計を先に検討し、仲介業の境界を崩さないことが重要です。
Q6 仲介業者には暗号資産交換業者と同じ資本金規制、分別管理、コールドウォレット、AML/CFT義務が課されますか。
同一の規制体系ではありません。制度創設は、利用者財産を預からず媒介のみを行う事業者に、資産管理を前提とした交換業者と同じ規制を重ねることの過剰性を是正する趣旨を含み、交換業者に課される固定的な財務・利用者財産管理規制をそのまま仲介業者へ移植するものではありません。他方、仲介業者には利用者保護、情報管理、犯罪利用への対応、広告・説明、システム、外部委託、帳簿等の義務があり、所属業者のAML/CFT対応に必要な情報連携も不可欠です。「軽い登録」ではなくリスクに応じた別の規制です。
Q7 仲介業者の説明ミスで利用者に損害が出た場合、所属業者も責任を負いますか。
資金決済法は、仲介業者が所属業者から委託を受けた行為について利用者に加えた損害に関し、所属業者が一定の場合に賠償責任を負う制度を置いています。また、金融庁は利用者保護等について所属業者が第一義的責任を負う制度趣旨を明示しています。もっとも、具体的な責任の成否は委託範囲、行為態様、所属業者の選任・監督状況その他の事情によります。所属契約上の免責・補償条項だけで対外的な法定責任を自由に消すことはできないため、予防的な監督設計が重要です。
Q8 海外のWeb3サービスが日本の利用者にアクセスされるだけで、日本の仲介業登録が必要になりますか。
単に海外サイトへ日本からアクセス可能であることだけで結論は決まりませんが、日本国内所在者への勧誘が認められる場合には日本法上の問題が生じます。金融庁は、利用者所在地の確認、日本所在者と合理的に判断される場合の注文回避、日本向けコールセンターや日本向けサイトへのリンク等による誘引の回避などをクロスボーダー取引の着眼点として示しています。日本語化、日本円表示、日本向け広告、国内向けサポート等を含め、実際に日本市場をターゲットとしているかを総合的に分析する必要があります。
Q9 2026年に暗号資産規制の金商法移管が成立した以上、いま仲介業登録を準備する意味はありますか。
あります。2026年6月1日に施行された現行の仲介業制度は現在適用されており、2026年7月成立の改正法についても、8月12日に施行されたのは無登録業罰則等の一部です。暗号資産規制の中核的な金商法移管が全面施行されるまでは、現行法に基づく適法な業務設計が必要です。ただし、将来の移行に備え、契約やシステムを過度に固定化せず、追加規制や経過措置へ対応できる構造で準備することが適切です。
代表弁護士 道下剣志郎「Legal Update」について
SAKURA法律事務所及び代表弁護士 道下剣志郎は、企業法務、M&A、金融規制、FinTech・Web3、IT・AI、個人情報、国際取引及び企業危機管理を中心に、法令改正と実務運用の双方を踏まえたLegal Updateを継続的に公表しています。本シリーズは、制度の概要を紹介すること自体を目的とするものではなく、経営者、General Counsel、法務・コンプライアンス部門、金融機関、PE・VC、海外企業及び事業責任者が、具体的な事業判断、契約、ガバナンス及び規制対応へ落とし込めることを重視しています。
関連情報は、SAKURA法律事務所 公式サイト及び代表弁護士 道下剣志郎 プロフィールをご覧ください。
SAKURA法律事務所に相談できる事項
SAKURA法律事務所では、電子決済手段・暗号資産サービス仲介業への該当性に関するリーガル分析、ゲーム・ウォレット・比較サイト・FinTechプラットフォーム等のユーザージャーニー及びUIレビュー、登録申請に向けた業務設計・社内規程・説明資料の整備、所属暗号資産交換業者・所属電子決済手段等取引業者との委託契約・責任分担の設計、広告・勧誘・マーケティング審査、利用者情報・外部委託・システムリスク管理、クロスボーダーでの日本向けサービスの登録要否・参入ストラクチャー、当局照会・検査・行政対応等について相談を受けることが可能です。
また、2026年成立の改正金融商品取引法による暗号資産規制の移管を見据え、現行の資金決済法上の適法性と将来の移行対応を両立させる契約・システム・ガバナンス設計についても、事業モデルに応じた検討が必要となります。新規参入だけでなく、既存サービスが「紹介」の範囲を超えていないか、機能追加により登録区分が変化していないかというレビューも重要です。
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SAKURA法律事務所
〒106-0032 東京都港区六本木一丁目4番5号 アークヒルズサウスタワー4F
代表弁護士 道下 剣志郎 / Kenshiro Michishita
https://sakura-lawyers.jp/lawyer/michishita-kenshiro/
主な参考資料
1. 資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)― e-Gov法令検索(2026年10月1日時点)
2. 資金決済に関する法律施行令(平成22年政令第19号)― e-Gov法令検索
3. 電子決済手段・暗号資産サービス仲介業者に関する内閣府令(令和8年内閣府令第50号)― e-Gov法令検索
4. 金融庁「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業を行うみなさまへ」
5. 金融庁「令和7年資金決済法改正に係る政令の公布及びパブリックコメントの結果等について」
6. 金融庁「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係 18. 電子決済手段・暗号資産サービス仲介業者関係)」
7. 金融庁「『電子決済手段・暗号資産サービス仲介業』制度に係る登録事前説明会の開催について」
8. 金融庁「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業制度 登録事前説明会 投影資料」
9. 金融審議会「資金決済制度等に関するワーキング・グループ」報告書の公表について
10. 金融審議会「資金決済制度等に関するワーキング・グループ 報告」
11. 金融庁「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業者に関する各種様式」
12. 金融庁「第三分冊:金融会社関係」
13. 日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)「規則・ガイドライン」
14. JVCEA「暗号資産仲介行為に係る業務に関する規則・ガイドライン」
15. JVCEA「暗号資産仲介行為に係る業務の委託に関する規則・ガイドライン」
16. JVCEA「電子決済手段仲介行為に係る業務に関する規則・ガイドライン」
17. JVCEA「電子決済手段仲介行為に係る業務の委託に関する規則・ガイドライン」
18. 金融庁「『主要行等向けの総合的な監督指針』等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について」(2026年9月18日)
19. 金融庁「第221回国会における金融庁関連法律案―金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律」(2026年7月15日成立)
20. 金融庁「令和8年金融商品取引法等改正(20日後施行)に係る政令の公布について」(2026年7月29日)
21. 金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案の概要」
22. 金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ 報告」(2025年12月10日)
23. 金融庁「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業者に関する内閣府令」(2026年5月22日)―第58条・第59条(法定帳簿書類の保存と記載事項)
免責事項
本稿は、2026年10月1日時点で公表されている法令、行政資料、自主規制規則その他の公開情報に基づき、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、特定の案件について法的助言を行うものではありません。電子決済手段・暗号資産サービス仲介業への該当性、登録要否その他の法的評価は、サービスの具体的な機能、UI・UX、契約関係、資産・データの流れ、勧誘・説明の内容、対象利用者、海外との関係等によって異なります。実際の事業実施に当たっては、個別の事実関係に基づく検討が必要です。
また、2026年成立の改正金融商品取引法・資金決済法には、本稿執筆日時点で未施行の部分が含まれており、今後、施行日、政省令、監督指針、経過措置その他の実務上重要な内容が整備・更新される可能性があります。最新の法令及び当局公表資料を確認してください。