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2026.09.30

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【SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 Legal Update】外国企業が日本企業を買収する際のM&A法務――取引ストラクチャー、デューデリジェンス、SPA、外為法・競争法及びクロージング実務【2026年版】について公開いたしました。

SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 Legal Update

2026年9月24日

SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下 剣志郎

SAKURA法律事務所は、このたび、代表弁護士 道下剣志郎によるLegal Update第13弾として、「外国企業が日本企業を買収する際のM&A法務――取引ストラクチャー、デューデリジェンス、SPA、外為法・競争法及びクロージング実務【2026年版】」を公開いたしました。

外国企業による日本企業の買収は、日本市場への参入、技術・人材・顧客基盤の獲得、サプライチェーンの構築、事業ポートフォリオの拡大等を短期間で実現し得る重要な経営手段です。他方、クロスボーダーM&Aでは、単に日本企業の株式を売買するだけでは足りません。対象会社の法的リスクを把握し、適切な取引ストラクチャーを選択し、規制当局の承認・届出を織り込み、契約でリスクを配分し、クロージング後に事業を安定して引き継げる状態を作る必要があります。

特に2026年は、日本のM&A実務にとって重要な制度変更が相次いでいます。2026年5月1日には公開買付制度及び大量保有報告制度の改正が施行され、市場内取引を含む公開買付規制の対象範囲が拡大し、会社支配権に重大な影響を与える取得についての閾値が30%へ見直されました。また、2027年からは改正外為法による対内直接投資審査制度の新たな枠組みが施行・全面適用される予定です。

さらに、上場会社の支配権取得を巡っては、経済産業省の「企業買収における行動指針」が実務上重要な判断枠組みとなっており、2026年には同指針の趣旨をより明確にするための解釈、ポイント及びQ&Aの検討も進められています。日本企業に対する買収提案の実務は、数年前と比べても大きく変化しています。

このような環境下で外国企業が日本企業を買収する場合、外為法、会社法、金融商品取引法、独占禁止法、業種別規制、労働法、個人情報保護法、知的財産法その他を個別に確認するだけでは十分ではありません。これらを一つの取引工程に統合し、案件初期からクロージング及びPMIまでを設計することが重要です。

本稿では、2026年9月24日時点の法令及び公的資料を踏まえ、外国企業、海外PEファンド、海外VCその他の外国投資家が日本企業を買収する際に確認すべき主要な法的論点を、案件開始からクロージング後までの実務の流れに沿って解説します。

本稿の要旨

外国企業による日本企業M&Aで最初に決めるべきことは、株式譲渡契約の条文ではなく、「何を取得し、何を取得しないのか」という取引ストラクチャーです。株式取得であれば対象会社の法人格と既存の契約・債務・許認可・従業員関係を原則として維持したまま支配権を取得できますが、潜在債務も会社に残ります。他方、事業譲渡等では取得対象を選別しやすい反面、契約移転、許認可、従業員、資産移転等について個別手続が増えます。

M&Aの法務デューデリジェンスは、問題点を列挙するための作業ではありません。発見したリスクを、価格、ストラクチャー、前提条件、表明保証、補償、誓約、クロージング前是正、PMIのどこで処理するかを決めるための取引設計です。日本企業を買収する外国企業は、会社・契約、許認可、労務、知的財産、個人情報、訴訟、コンプライアンス、外為法その他の論点を、事業上の重要性と金額的重要性に応じて評価する必要があります。

上場会社を対象とする場合には、非上場会社の相対取引とは別の規律が加わります。2026年5月1日施行の改正公開買付制度では、市場内取引も一定の公開買付規制の対象に組み込まれ、いわゆる支配権取得に関する閾値は30%へ見直されました。5%超の保有については大量保有報告制度も問題となります。買収提案の進め方については、経済産業省の「企業買収における行動指針」が示す企業価値・株主共同の利益、株主意思及び透明性の原則も重要です。

外国投資家による日本企業取得では、外為法を案件初期から確認する必要があります。対象会社の業種・重要技術だけでなく、投資家属性、最終親会社、外国政府等の影響、取得割合、取締役指名及び情報アクセス等を確認し、必要な事前届出をクロージング条件及びスケジュールへ組み込む必要があります。

SAKURA法律事務所及び代表弁護士 道下剣志郎は、外国企業による日本企業M&Aについて、ストラクチャリング、法務デューデリジェンス、契約交渉、外為法・競争法その他の規制対応、クロージング及びPMIを一体として設計することが重要であると考えています。

1 外国企業による日本企業M&A――会社を買うのか、事業を買うのか

日本企業を買収する方法は一つではありません。最も典型的なのは既存株主から株式を取得する株式譲渡ですが、事業譲渡、会社分割、株式交換その他の組織再編を利用する場合もあります。上場会社については公開買付けその他の資本市場取引を用いることがあります。

株式取得では、対象会社そのものの株主が変わるため、原則として対象会社が締結した契約、雇用関係、許認可、資産及び負債は会社内に残ります。買主にとっては事業承継を比較的連続的に行いやすい反面、簿外債務、過去の法令違反、税務・労務・訴訟その他の潜在リスクも対象会社に残ります。したがって、デューデリジェンスと契約上のリスク配分が重要になります。

事業譲渡では、取得する資産・契約・負債等を個別に定めることができ、不要な事業又はリスクを切り離しやすいという利点があります。他方、契約上の地位、債権債務、許認可、従業員等について個別の移転手続又は同意が必要となることがあり、クロージング作業は複雑化しやすくなります。

したがって、買収ストラクチャーは「税務上有利か」「手続が簡単か」という一要素だけではなく、取得したい事業、承継させたくないリスク、必要な許認可、従業員、契約相手方の同意、外為法・競争法、資金調達及び将来のExitを踏まえて選択する必要があります。

2 非上場会社M&Aと上場会社M&Aは、同じ「株式取得」でも法務が大きく異なる

非上場会社のM&Aでは、特定の株主との相対交渉により株式譲渡を行うことが中心です。株主構成、株式譲渡制限、取締役会又は株主総会の承認、種類株式、株主間契約その他を確認し、必要な社内手続を整えます。

これに対し、上場会社の株式を取得して支配権を得る場合には、金融商品取引法上の公開買付制度、大量保有報告制度、インサイダー取引規制、上場規則、適時開示等の資本市場規制が重要になります。また、対象会社取締役会の対応、株主への情報提供、買収提案の透明性等について、経済産業省の「企業買収における行動指針」が実務上重要な役割を果たします。

したがって、外国企業が日本企業を買収する場合には、最初の段階で対象会社が上場会社か非上場会社かを明確にし、それぞれに応じた案件プロセスを設計する必要があります。

3 案件開始時――NDA、情報管理及びインサイダー情報

M&Aの初期段階では、対象会社又は売主との秘密保持契約を締結した上で、情報提供を受けることが一般的です。NDAでは、秘密情報の定義、利用目的、開示可能な関係者、専門家・融資金融機関への共有、競合部門との情報遮断、返還・削除、残存条項等を具体的に設計します。

上場会社又は上場会社グループが関係する場合、買収交渉の開始、業績情報、未公表の重要事実等がインサイダー情報となり得ます。外国本社の役員、投資委員会、FA、融資金融機関その他を含む情報アクセスの範囲を管理し、取引前後の株式売買を適切に制限する必要があります。

競合事業者間のM&Aでは、デューデリジェンスにおける価格、顧客、将来戦略その他の競争上機微な情報の共有にも注意が必要です。必要に応じてClean Teamを設け、事業部門がアクセスできる情報を制限することがあります。

4 LOI・基本合意書――法的拘束力の範囲を曖昧にしない

案件の初期段階では、Letter of Intent、Memorandum of Understanding、基本合意書等を締結することがあります。ここでは、想定取引価格、取引ストラクチャー、デューデリジェンス、独占交渉、秘密保持、費用負担、スケジュール、規制承認等を整理します。

最も重要なのは、どの条項に法的拘束力を持たせ、どの条項を非拘束とするかを明確にすることです。価格や買収義務そのものを非拘束としつつ、独占交渉義務、秘密保持、費用負担、準拠法等のみ拘束力を持たせる設計は実務上一般的ですが、文言が不明確であれば、当事者が意図しない拘束関係が争点となる可能性があります。

外国企業の本社承認、投資委員会、融資コミットメント、外為法・競争法その他の規制承認を要する案件では、LOI段階から必要な条件及び想定タイムラインを整理しておくことが重要です。

5 法務デューデリジェンスの本質――「問題を探す」のではなく「契約へ変換する」

法務デューデリジェンスは、対象会社の問題点を可能な限り多数列挙する作業ではありません。重要なのは、対象会社の事業価値及び取引目的に照らして重大な法的リスクを特定し、そのリスクを取引価格、ストラクチャー、前提条件、表明保証、補償、誓約、クロージング前是正又はPMIのいずれで処理するかを決定することです。

例えば、重要契約にチェンジ・オブ・コントロール条項がある場合、その契約が事業価値の中核であれば、単にDD報告書へ記載するだけでは足りません。相手方同意をクロージング条件とするのか、同意が得られない場合の価格調整を行うのか、代替契約を準備するのかまで検討する必要があります。

同様に、未払残業、許認可の不備、知財権帰属の欠缺、個人情報の違法取得、訴訟、過去の贈収賄リスク等についても、発見した事実をM&A契約上の処理へつなげることがDDの実務的な価値です。

6 コーポレートDD――株式を本当に取得できるかを確認する

コーポレートDDでは、定款、登記事項、株主名簿、株式発行・譲渡履歴、株主総会・取締役会議事録、種類株式、新株予約権、株主間契約その他を確認し、売主が対象株式を有効に保有しているか、第三者の権利が付着していないか、必要な承認手続は何かを確認します。

非上場会社では株式譲渡制限が付されていることが多く、譲渡承認機関及び手続を確認する必要があります。ストックオプション、転換証券、種類株式等が存在する場合には、完全希薄化ベースの資本構成と、クロージング後の持分比率を確認します。

過去の増資、自己株式取得、組織再編等に会社法上の瑕疵がないかも重要です。株式取得の法的前提そのものに問題がある場合、買収後の所有権又はガバナンスに重大な影響を及ぼし得ます。

7 重要契約DD――Change of Control、解除権、独占・競業及び最恵待遇を確認する

対象会社の主要顧客、仕入先、販売代理店、ライセンサー、クラウド事業者、JVパートナー、金融機関その他との契約は、M&A価値を支える重要な資産です。重要契約DDでは、契約期間、解除権、更新、価格改定、最低購入義務、独占、競業避止、最恵待遇、責任制限、知財、秘密保持、準拠法及び紛争解決等を確認します。

とりわけ株主変更又は支配権変更を契機として相手方の事前同意又は解除権が発生するChange of Control条項は重要です。買収後も契約名義が変わらない株式取得であっても、支配権変更だけで契約上の権利義務が変化する場合があります。

事業譲渡の場合には、契約上の地位を譲渡するため相手方同意が必要となることが多く、株式取得以上に契約移転の作業が重要となります。

8 許認可DD――M&A後も事業を継続できるか

金融、決済、暗号資産、保険、通信、医療・医薬、労働者派遣、職業紹介、不動産その他の規制業種では、必要な許認可・登録・届出の有無及び遵守状況を確認する必要があります。

株式取得では法人格自体は変わらないため許認可がそのまま維持される場合がありますが、株主・役員・支配権の変更について届出又は承認が必要な制度もあります。事業譲渡の場合、許認可が当然に承継されず、新たな取得が必要となることもあります。

したがって、許認可DDでは「ライセンスがあるか」だけではなく、買収によって変更届・事前承認等が必要か、クロージング時点で継続して事業を行えるかまで確認する必要があります。

9 労務DD――簿外債務だけでなく、買収後の組織統合を見据える

労務DDでは、雇用契約、就業規則、賃金・賞与、労働時間、未払残業、管理監督者、固定残業代、労働組合、ハラスメント、懲戒、退職、社会保険、労働紛争等を確認します。

株式取得では使用者である対象会社自体は変わらないため、原則として従業員との雇用関係はそのまま存続します。一方、事業譲渡では労働契約の承継について個別の対応が必要となり、会社分割には労働契約承継法に基づく特別の手続があります。ストラクチャーによって雇用承継の法的処理が異なります。

また、M&A後に報酬制度、職務等級、就業規則、退職制度等をグローバル基準へ統合する場合、日本法上の不利益変更その他の労務リスクを検討する必要があります。PMIを想定した労務DDが重要です。

10 知的財産・IT・データDD――買収した価値が本当に対象会社に帰属しているか

テクノロジー企業その他の知財集約型企業では、特許、商標、著作権、ソフトウェア、営業秘密、データ、ドメイン等の権利帰属が企業価値そのものとなります。従業員・役員・外部委託先が開発した成果について、対象会社へ適切に権利が帰属しているかを確認します。

ソフトウェアについては、オープンソースソフトウェアの利用条件、第三者コード、ライセンス、ソースコード管理等も重要です。AIを利用したプロダクトでは、学習データ、AIモデル、生成物、外部AIサービスとの契約等も確認対象になります。

個人情報及びデータについては、取得時の利用目的、プライバシーポリシー、第三者提供、委託、国外移転、安全管理、漏えい事故、本人対応等を確認します。日本の個人情報保護法には一定の域外適用もあり、海外本社とのデータ共有設計も買収後に重要になります。

11 コンプライアンスDD――贈収賄、競争法、内部通報及び不祥事

企業買収では、過去のコンプライアンス違反が買収後に対象会社の行政処分、損害賠償、取引停止、レピュテーション毀損として顕在化する可能性があります。贈収賄、カルテル、不適切会計、景品表示、下請・取引適正化、輸出管理、マネー・ローンダリング、反社会的勢力その他、事業内容に応じたリスクを確認します。

内部通報制度及び社内調査の履歴も重要です。通報件数の多寡だけではなく、重大な通報が適切に調査・是正されているか、経営陣が関与する案件について独立性が確保されているかを確認します。

2026年12月1日には改正公益通報者保護法が施行されるため、クロージング後の制度整備も見据え、対象会社の内部通報規程及び運用を確認する必要があります。

12 訴訟・紛争DD――「現在の訴訟」だけを見ない

訴訟DDでは、係属中の訴訟・仲裁だけでなく、請求前の紛争、行政調査、警告書、重大クレーム、製品事故、知財紛争、労働紛争等を確認します。

また、過去に解決した紛争でも、和解契約上の継続義務、秘密保持、再発防止、ライセンス制限等が買収後の事業へ影響する場合があります。

DDで重大な紛争が判明した場合、補償条項だけで処理するのではなく、エスクロー、価格留保、特別補償、クロージング前解決等を検討することがあります。

13 外為法――外国買主は案件の最初からFEFTAを確認する

外国企業による日本企業買収では、外国為替及び外国貿易法、いわゆる外為法に基づく対内直接投資審査が重要です。対象会社の事業・技術、買主の属性、取得割合、取締役指名、情報アクセス等に応じて事前届出が必要となる場合があります。

2026年改正外為法は、2027年から施行・全面適用される予定であり、間接取得、外国政府等の支配・影響、重要技術及び投資後のリスク管理等について規制を強化します。第11弾のLegal Updateで詳しく解説したとおり、外為法はクロージング直前に確認する項目ではありません。

外為法上の届出・待機期間及び当局から求められるリスク軽減措置は、SPAのクロージング条件、ロングストップデート、規制努力義務及び解除権へ反映する必要があります。

14 独占禁止法・企業結合審査――日本での売上がある外国企業同士の取引にも適用され得る

日本の独占禁止法は、一定の企業結合について事前届出を求めています。株式取得では、買主グループの国内売上高が200億円を超え、対象会社及びその子会社の国内売上高が50億円を超え、買収後の議決権保有割合が20%又は50%を超える一定の場合等に、JFTCへの届出が必要となります。

届出が必要な取引は、原則として届出後30日を経過するまで実行することができません。大型・複雑案件では、正式届出前からJFTCとの事前相談を行い、市場画定、競争への影響、内部資料等について説明する場合があります。

また、形式的な届出基準を満たさない取引でも、買収対価が大きく日本の消費者へ影響し得る案件等についてJFTCが審査を行う可能性があります。外国企業同士のグローバルM&Aでも、日本国内売上や市場への影響を確認する必要があります。

15 上場会社の公開買付制度――2026年5月の改正を前提にする

上場会社の支配権を取得する買収では、公開買付制度が極めて重要です。2026年5月1日に施行された改正金融商品取引法等により、市場内取引(立会内)も一定の公開買付規制の対象とされ、会社支配権に重大な影響を与える取得についての閾値は従来の3分の1から30%へ引き下げられました。

したがって、市場内で株式を買い進める場合でも、30%の閾値を超える取得等では公開買付けが必要となる可能性があります。公開買付けの適用除外、部分買付け、全部勧誘義務、公開買付期間その他のルールは取引内容に応じて個別に確認する必要があります。

公開買付けを利用する案件では、買付価格、買付予定数、前提条件、ファイナンス、当局届出、対象会社の意見表明、スクイーズアウト手続等を全体として設計する必要があります。

16 大量保有報告制度――5%を超える上場株式取得には別の開示規制がある

上場株式等を一定割合以上保有する場合、公開買付制度とは別に大量保有報告制度が問題となります。一般に、上場会社の株券等保有割合が5%を超える場合には、大量保有報告書の提出義務を検討する必要があります。

2026年5月1日には大量保有報告制度の改正も施行され、保有割合の計算方法、共同保有者の範囲、重要提案行為等その他の制度が見直されています。買収前の市場買付け、共同投資家との合意、アクティビスト的関与等を行う場合には、共同保有者該当性や保有目的の記載を含めて慎重な検討が必要です。

公開買付けの準備を進める一方で市場から株式を取得する場合など、複数の制度が同時に問題となるため、取得戦略と開示義務を一体として管理する必要があります。

17 「企業買収における行動指針」――上場会社の買収提案をどう進めるか

経済産業省は2023年、「企業買収における行動指針」を策定し、上場会社の経営支配権を取得する買収について、企業価値・株主共同の利益の原則、株主意思の原則及び透明性の原則を提示しました。

同指針は法令そのものではありませんが、日本の上場会社M&Aにおける取締役会の行動、買収提案の検討、情報開示、株主意思の尊重等について重要なベストプラクティスを示しています。2026年には指針の趣旨をより明確にするため、経済産業省が解釈、ポイント及びQ&Aの案を公表し、パブリックコメントを実施しました。

外国買主が日本の上場会社へ買収提案を行う場合、価格だけでなく、買収後の経営方針、企業価値向上策、資金調達の確実性、従業員・取引先等への影響を含めて、真摯かつ具体的な提案として説明できる準備が重要です。

18 SPA――買収価格ではなくリスク配分を定める契約

株式譲渡契約、いわゆるSPAは、株式をいくらで買うかだけを定める契約ではありません。署名からクロージングまでの行為、表明保証、補償、前提条件、解除、責任制限等を通じ、買収リスクを売主と買主の間で配分する契約です。

買収価格については、固定価格、クロージング時の純有利子負債・運転資本等による価格調整、Locked Box等、案件に応じた方式を採用します。クロスボーダー案件では、為替、資金移動、源泉税その他も取引経済条件へ影響する場合があります。

DDで特定した個別リスクは、一般的な表明保証だけに依存せず、必要に応じて特別補償、クロージング前是正、エスクロー、価格調整その他の方法で処理することが重要です。

19 表明保証――DDを代替するものではない

表明保証では、株式の権原、会社の適法な設立、財務、重要契約、許認可、労務、税務、知財、個人情報、訴訟、コンプライアンス等について売主又は対象会社が一定の事実を表明します。

しかし、表明保証が存在するからDDを簡略化してよいという関係にはありません。表明保証違反が判明しても、売主の資力、責任上限、請求期間、ミニマム・バスケット、開示例外等によって実際の回収可能性は限定され得ます。

DDと表明保証は相互補完的なものです。DDで重要なリスクを発見し、表明保証及び補償条項をそのリスクへ合わせて設計することが重要です。

20 補償・責任制限――「違反がある」ことと「回収できる」ことは別問題

SPAでは、表明保証違反、誓約違反、特定リスク等について補償責任を定めます。その際、責任上限、請求期間、de minimis、basket、損害の範囲、間接損害、重複回収、保険金控除等を定めることがあります。

売主が投資ファンド又は買収後に清算予定のSPVである場合、契約上の請求権があっても実際に資金回収できるかが問題となります。エスクロー、保証、親会社保証、W&I保険等を検討する場合があります。

クロスボーダー案件では、補償請求をどこで、どの法に基づき、どの資産へ執行できるかまで検討することが必要です。

21 署名からクロージングまで――Interim Covenantsと事業価値の保全

SPA署名からクロージングまで時間が空く案件では、対象会社が通常の事業運営を維持するための誓約、いわゆるInterim Covenantsを定めます。重大な資産処分、借入れ、配当、役員報酬変更、重要契約締結、従業員処遇変更等について買主同意を求める場合があります。

もっとも、クロージング前は売主が対象会社を支配しており、買主が過度に経営へ介入すれば、競争法上のgun jumpingその他の問題となる可能性があります。買主の保護と対象会社の独立した事業運営のバランスが必要です。

規制承認に時間を要する案件では、署名からクロージングまでの期間が長くなるため、通常運営義務と買主同意事項を慎重に設計します。

22 クロージング条件――規制承認、第三者同意、是正事項を実行可能な形で定める

クロージング条件には、外為法、競争法、業法その他の必要な規制承認・届出、重要契約の第三者同意、対象会社の社内承認、特定の是正措置、ファイナンス等を含めることがあります。

条件は多ければ安全というものではありません。条件の成否が客観的に判断でき、誰がどの程度努力する義務を負うか、いつまでに満たすか、満たされない場合に解除できるかを明確にする必要があります。

外国買主の本国側で必要となる競争法・外国投資規制等も含め、各国の規制承認を一つのクロージング工程表として管理することが重要です。

23 クロージング――株式・対価・会社支配を同時に確実に移す

クロージングでは、株式譲渡、代金支払、株券又は株主名簿書換、役員交代、社内承認、登記、担保解除、必要書類の引渡し等を行います。案件によっては銀行口座、電子証明書、印章、IT管理者権限その他の実務的な支配移転も重要です。

非上場会社では、株式譲渡契約だけでなく、株主名簿上の処理及び譲渡承認等を正確に行う必要があります。完全子会社化する場合、残存株主への対応やスクイーズアウト手続が別途必要となる場合があります。

クロージングチェックリストを作成し、法律上の権利移転と事業上の管理権限移転が一致するよう管理することが重要です。

24 PMI――M&Aの法務はクロージングで終わらない

クロージング後は、ガバナンス、契約、労務、個人情報、IT、知財、内部通報、許認可、外為法上のリスク軽減措置等を買主グループの体制へ統合する必要があります。

DDで「クロージング後対応」とした事項について、責任者と期限を定めなければ、報告書のまま放置されることがあります。特に重大なコンプライアンスリスク、データ管理、権限管理、就業規則等は早期に是正する必要があります。

また、日本企業の意思決定、雇用慣行、取引先関係等を無視してグローバルルールを一方的に導入すると、法的・事業的な摩擦が生じることがあります。日本法に適合させながらグループガバナンスへ統合することがPMI法務の役割です。

25 SAKURA法律事務所が考えるクロスボーダーM&Aの要諦

外国企業による日本企業買収で最も重要なのは、各法律のチェック項目を並べることではありません。買収目的を理解し、その目的を達成するためにどの会社・事業・技術・人材・契約を取得する必要があるのかを特定し、それを最も安全かつ実行可能な取引ストラクチャーへ変換することです。

その上で、DDで発見したリスクを契約条件へ落とし込み、外為法・競争法その他の規制承認をスケジュールへ織り込み、クロージング後のガバナンスとPMIまで設計する必要があります。法務アドバイザーは、問題を指摘するだけでなく、取引を成立させるためにどのリスクをどの手段で処理するかを提示する役割を負います。

SAKURA法律事務所及び代表弁護士 道下剣志郎は、M&A、企業法務、国際取引、IT・AI、個人情報、知的財産、労働、危機管理、Web3・金融規制その他の分野を横断し、外国企業による日本企業への投資・買収を支援しています。海外本社、海外法律事務所、FA、会計・税務専門家その他のアドバイザーと連携し、日本法上の論点をグローバルな取引工程へ統合することを重視しています。

26 よくあるご質問

Q1 外国企業が日本企業を買収する場合、最も一般的な方法は何ですか。

非上場会社では既存株主から株式を取得する株式譲渡が一般的です。ただし、取得対象を選別したい場合には事業譲渡等が適することもあります。上場会社の支配権取得では公開買付け等の資本市場手続が重要になります。取引目的、許認可、従業員、契約、潜在債務、税務等を踏まえてストラクチャーを選択します。

Q2 株式取得なら対象会社の契約はそのまま引き継げますか。

法人格は変わらないため、原則として対象会社の契約関係は存続します。ただし、Change of Control条項によって株主又は支配権の変更に相手方同意が必要となる場合や、解除権が発生する場合があります。重要契約は個別に確認する必要があります。

Q3 M&Aの法務デューデリジェンスでは何を確認しますか。

コーポレート、重要契約、許認可、労務、知的財産、IT・個人情報、訴訟、コンプライアンス、外為法その他、対象会社の事業に応じた項目を確認します。重要なのは問題の有無だけでなく、発見したリスクを価格、SPA、クロージング条件又はPMIでどう処理するかを決めることです。

Q4 外国企業が日本企業を買う場合、外為法の届出は必ず必要ですか。

必ずではありません。買主の属性、対象会社の業種・技術、取得割合、投資形態等によって異なります。ただし、指定業種その他一定の投資では事前届出が必要となるため、案件初期から確認すべきです。2027年には改正外為法の新制度が施行・全面適用される予定です。

Q5 日本の競争法上、M&Aの届出が必要になる基準は何ですか。

株式取得の場合、一定の国内売上高基準を満たし、買収後の議決権割合が20%又は50%を超える一定の場合にJFTCへの事前届出が必要となります。届出基準を満たさない大型取引でも、国内市場への影響等に応じて審査が行われる可能性があります。

Q6 日本の上場会社の株式を市場で買い集めれば、TOBを避けられますか。

2026年5月1日施行の改正制度では、市場内取引も一定の公開買付規制の対象となり、会社支配権に重大な影響を与える取得についての閾値は30%へ見直されています。市場買付けであってもTOB義務が生じる場合があるため、取得計画を事前に検討する必要があります。

Q7 SPAの表明保証があれば、DDを簡略化できますか。

適切ではありません。表明保証違反があっても、責任上限、請求期間、開示例外、売主の資力等により実際の回収が限定される可能性があります。DDで重大リスクを把握し、その結果に応じて表明保証・補償・価格・クロージング条件を設計することが重要です。

Q8 日本企業買収後に従業員の雇用条件をグローバル基準へ変更できますか。

一律にはできません。日本の労働法上、労働条件の不利益変更には制約があり、雇用契約・就業規則その他を踏まえた検討が必要です。PMI計画の段階から日本法上の労務リスクを確認することが重要です。

Q9 M&A契約は日本法準拠にする必要がありますか。

必ず日本法でなければならないわけではありません。ただし、日本会社の株式・会社法手続、外為法、競争法、許認可等の日本法上の規律は準拠法選択だけでは排除できません。紛争解決、執行可能性、当事者・資産の所在等を踏まえて準拠法及び紛争解決条項を設計します。

Q10 外国企業が日本企業M&Aを始める際、最初に弁護士へ伝えるべきことは何ですか。

買収目的、対象会社、希望する取得割合、上場・非上場の別、想定価格帯、希望スケジュール、買主グループの最終支配者、資金調達方法、買収後に確保したい経営権限等です。これらを基礎に、必要な規制確認、DD範囲及び取引ストラクチャーを設計できます。

27 代表弁護士 道下剣志郎「Legal Update」について

SAKURA法律事務所では、代表弁護士 道下剣志郎のプロフィールページに「Legal Update」を設け、M&A、企業法務、国際取引、AI・IT、個人情報、知的財産、危機管理、労働、内部通報、Web3・暗号資産その他、企業及び経営者が直面する重要な法律問題について継続的に情報を発信しています。

第13弾となる本稿は、第11弾の改正外為法、第12弾のDoing Business in Japanを受け、外国企業による日本企業M&Aの全体像を、案件立上げからDD、契約、規制対応、クロージング及びPMIまで体系的に整理したものです。

今後は、法務デューデリジェンス、株式譲渡契約、表明保証、国際訴訟、外国判決の承認・執行、国際仲裁その他の各論についても、SAKURA法律事務所及び代表弁護士 道下剣志郎の実務経験を踏まえたLegal Updateを順次公開する予定です。

28 外国企業による日本企業M&Aに関してご相談いただける事項

SAKURA法律事務所では、外国企業、海外PE・VC、グローバル事業会社その他の外国投資家による日本企業への投資・買収について、取引ストラクチャーの検討、NDA・LOI、法務デューデリジェンス、SPA・株主間契約その他の契約交渉、外為法・独占禁止法その他の規制対応、クロージング及びPMIに関する法的支援を行っています。

上場会社に対する公開買付け、非上場会社の株式取得、事業譲渡、JV、少数投資、スタートアップ投資その他の案件について、取引の性質に応じた対応が可能です。

海外本社のGeneral Counsel、M&A Team、Investment Committee、海外法律事務所、FA、会計・税務専門家等との英語での連携を含め、日本法上の論点をグローバルなディールプロセスへ組み込む形で支援いたします。

29 お問い合わせ

外国企業による日本企業M&A、クロスボーダーM&A、法務デューデリジェンス、SPA、外為法、企業結合審査、公開買付け、JVその他の国際企業法務に関するご相談は、SAKURA法律事務所までお問い合わせください。

お問い合わせの際には、ご相談内容に「外国企業による日本企業M&Aに関する相談」とご記載いただけますと、担当弁護士へのご案内が円滑です。

SAKURA法律事務所
代表弁護士 道下 剣志郎
〒106-0032 東京都港区六本木一丁目4番5号 アークヒルズサウスタワー4F
電話 03-6910-0692

本記事の執筆・監修
SAKURA法律事務所
代表弁護士 道下 剣志郎

主な参考資料

経済産業省「M&Aに関する各種ガイドライン及び出版物」

経済産業省「企業買収における行動指針―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて―」

経済産業省「企業買収における行動指針」の解釈・ポイント・Q&A案に係るパブリックコメント(2026年6月18日)

金融庁「令和6年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等に関するパブリックコメントの結果等について」

金融庁「大量保有報告制度の概要について」

金融庁「企業内容等開示ガイドライン等(TOB関連・大量保有報告制度関連)」

公正取引委員会「Mergers」

公正取引委員会「Threshold for Notification (By Sales in Japan)」

公正取引委員会「The Status of Notifications Regarding Business Combinations and the Results of Reviews of Major Business Combinations in FY2024」

財務省「対内直接投資審査制度について」

財務省「2027年施行 外為法改正 関連資料」

JETRO「Setting Up Business in Japan」

※本記事は、2026年9月24日時点における会社法、金融商品取引法、独占禁止法、外為法その他の法令及び公的資料を基礎として、外国企業による日本企業M&Aに関する一般的な法的情報を提供することを目的とするものです。個別具体的な案件について法的助言又は法律上の結論を示すものではありません。M&Aの適切な取引ストラクチャー、届出・承認の要否、公開買付規制、企業結合審査、契約条件その他の法的評価は、対象会社の上場・非上場の別、事業内容、株主構成、投資家属性、取得割合、取引スキーム、規制業種、競争環境その他の具体的事実によって異なります。また、経済産業省の「企業買収における行動指針」に関する2026年の解釈・ポイント・Q&Aは、本稿作成時点で公表・検討過程にある資料を含みます。具体的案件では、実行時点の最新法令、ガイドライン及び当局公表資料を確認する必要があります。

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