SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 Legal Update
2026年10月5日
SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下 剣志郎
SAKURA法律事務所は、このたび、代表弁護士 道下剣志郎によるLegal Update第22回として、「企業が当局の立入検査・行政調査・捜索差押えを受けた場合の危機対応――公取委、金融庁、個人情報保護委員会、警察・検察、デジタル証拠と社内調査【2026年版】」を公開いたしました。
規制当局又は捜査機関が予告なく会社を訪れる場面では、平時のコンプライアンス相談とは異なる速度で法務、IT、経営、監査、広報が同時に動く必要があります。もっとも、公正取引委員会による独占禁止法上の行政調査、金融庁・財務局による業法上の検査・監督、個人情報保護委員会による報告徴収・立入検査、警察・検察による刑事上の捜索差押えは、外形が似ていても法的性格が同じではありません。応諾義務の根拠、強制力、質問・資料提出への対応、弁護士の関与、個人役職員との利益相反、その後に続く手続がそれぞれ異なります。
初動で重要なのは、当局対応を「全面協力」か「全面対抗」かという二択にしないことです。会社は、誰がどの法令に基づいて何を求めているのかを正確に確認し、適法な手続を妨げない一方で、対象範囲を漫然と拡張せず、会社側でも当局とのやり取り、閲覧・提出・持出しの対象、関係者、時刻及び判断経過を記録しなければなりません。外部弁護士への連絡、データ保全、役職員への最小限の指示、取締役会・監査機関へのエスカレーションを同時に開始する必要があります。
2026年にはデジタル証拠をめぐる実務も一段と変化しました。2026年5月21日施行の刑事訴訟法改正により、捜査機関が令状に基づき電磁的記録提供命令を行う制度が導入され、企業側はクラウド、SaaS、チャット、モバイル端末、アクセスログ、海外データリージョンまで含めたデータマップを平時から把握する必要が高まっています。また、金融庁の主要な監督指針は2026年10月1日適用版へ更新されており、立入検査は日常的なオン・オフ一体の継続的モニタリングの中で位置付けられています。
本稿では、2026年10月5日時点の法令及び最新の公的資料を踏まえ、企業が公取委、金融庁・財務局、個人情報保護委員会、警察・検察による調査・検査・捜索を受けた場合に、最初の数十分から、その後の社内調査、取締役会対応、適時開示、クロスボーダーデータ、広報及び再発防止までをどのように一つの危機対応として設計すべきかを解説します。
本稿の要旨
当局来訪時に最初に確定すべきなのは、当局名ではなく、具体的に行使されている法的権限です。公取委の独占禁止法47条に基づく行政調査は、応諾義務を罰則で担保する間接強制を伴いますが犯罪捜査ではありません。金融庁の検査は、各業法と監督指針に基づく継続的モニタリングの一部です。個人情報保護委員会は個人情報保護法146条に基づき報告・資料提出を求め、立入検査を行うことができます。警察・検察の捜索差押えは、原則として裁判官の令状に基づく刑事上の強制処分です。この区別が、その後の全ての判断の前提になります。
最初の数十分では、受付や現場担当者による即興の説明を止め、対応窓口を一本化し、身分証、告知書、令状、命令書その他の根拠書面を確認します。同時に、何を見られ、何を提出し、何を持ち出されたかを会社側で記録し、メール・チャットの自動削除、ログローテーション、端末初期化、クラウドの上書きを停止します。弁護士には直ちに連絡すべきですが、弁護士到着まで当局が当然に待つとは限りません。
公取委対応では、立入検査当日の現場対応と、課徴金減免制度、調査協力減算制度、確約手続、異議・苦情申立て、社内調査を分断してはいけません。公取委の「判別手続」は、一定の課徴金減免対象被疑行為に関する独立弁護士との秘密通信に限定された制度であり、日本に米国型の包括的なattorney-client privilegeがあると理解するのは危険です。カルテル・入札談合が疑われる場合には、完全な事実認定を待たず、リニエンシーの時間的価値を直ちに評価する必要があります。
金融庁・財務局又は個人情報保護委員会への対応では、当日の説明だけでなく、それ以前に提出した報告、監督当局との対話、漏えい報告、改善計画、取締役会の認識との一貫性が問われます。個人情報保護委員会は令和7年度、個人情報取扱事業者等に対して148件の立入検査を実施したと公表しており、監督権限は実際に用いられています。調査対応は、過去の説明と将来の是正をつなぐ作業です。
刑事捜索では、令状の罪名、場所、対象物、電磁的記録その他の記載を確認し、適法な執行を妨害しない一方、実際の執行経過を記録します。2026年5月21日からは電磁的記録提供命令が導入され、一定の場合には命令を受けた事実等を漏らさない旨の命令も制度化されています。企業の危機管理は、紙のキャビネットだけでなく、クラウド、アクセス権、外部委託先、海外本社との情報移転まで含めて設計しなければなりません。
1 最初の30分で法的性格と指揮系統を確定する――「立入検査」を一括りにしない
当局が会社に到着した直後は、事実関係を説明することより、手続の法的性格と会社側の意思決定ラインを確定することが先です。同じ「立入検査」という言葉でも、公取委の行政調査、金融庁・財務局の業法検査、個人情報保護委員会の監督、警察・検察の刑事捜索では、会社の義務と権利が異なります。まず、担当者は当局職員の所属・氏名・身分証を確認し、告知書、令状、提出命令、報告徴求その他の書面が提示された場合には、法的根拠、対象事件又は被疑事実、対象場所、対象資料・データ、対象期間及び有効期間を把握します。
受付・総務・現場社員が、善意から「事情を説明した方が早い」と考えて実体的な説明を始めることは避けるべきです。一度行われた説明は後から撤回できず、会社の公式見解と受け取られることがあります。会社側では、法務又はコンプライアンス責任者を中心に窓口を一本化し、IT、経営、監査機関及び外部弁護士へ同時に連絡し、誰が当局に同行し、誰が会社側の記録を取り、誰が取締役会等へ報告するかを決めます。
外部弁護士には直ちに連絡すべきですが、会社は「弁護士が到着するまで当局は何もできない」という前提でマニュアルを作るべきではありません。公取委の審査指針は、事業者から求めがあれば円滑な実施に支障がない範囲で弁護士の立会いを認める一方、弁護士到着まで検査開始を待つ必要はないと明示しています。刑事令状の適法な執行についても、会社が一方的に停止を命じることはできません。初動マニュアルは、外部弁護士が到着する前の十数分を自社で適切に乗り切れる設計でなければ実効性がありません。
他方で、協力することと、求められていない情報まで無限定に提供することは同義ではありません。当局が閲覧した場所・システム、提出を求めた資料、複写したデータ、持ち出した物件、質問内容、会社側の回答を時系列で記録し、可能な範囲で提出物を特定できる状態を維持します。この初動記録は、後の社内調査、当局への追加説明、役職員対応、開示判断、争訟又は是正措置の基礎となります。
2 公取委対応は立入検査、供述、リニエンシー、確約を一つの戦略として動かす
独占禁止法47条に基づく公取委の行政調査は、通常の任意照会とは異なります。公取委は、報告命令、資料提出命令、出頭命令・審尋、立入検査等を行うことができ、正当な理由なくこれに応じない場合には罰則の問題が生じます。他方で、同条に基づく権限は犯罪捜査のための権限ではなく、行政調査と犯則調査は区別されています。会社は適法な行政調査へ対応しつつ、何が47条処分で何が任意協力なのかを混同せずに記録する必要があります。
立入検査では、契約書、価格資料、会議資料、メール、チャット、会計・営業データ、端末等が調査対象になり得ます。重要なのは、当局による収集を妨げることではなく、会社側でも対象を正確に把握することです。対応終了後直ちに、当局職員、会社側対応者、対象部署・データソース、提出・留置物、質問、主要な関係者を記録した初動クロノロジーを作成します。公取委の指針上、47条処分に対する異議申立てや、任意の供述聴取に関する苦情申立てには短い期間が設定されているため、手続上の問題がある場合にも当日の記録が重要です。
供述聴取と社内ヒアリングは、同じ「事情聴取」ではありません。公取委には任意の供述聴取と47条に基づく審尋があり、指針上の運用も異なります。会社が当局聴取直前の従業員を長時間ヒアリングしたり、複数の関係者を集めて事実関係を「確認」したりすると、供述調整を疑われるだけでなく、本人の記憶を汚染し、会社と個人の利益相反を深刻化させることがあります。まず客観資料を保全・把握し、誰をいつ聴取するかを外部弁護士が調整することが重要です。
日本では、弁護士が関与した資料が全て一般的な秘匿特権で当局から保護されるわけではありません。公取委の判別手続は、課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見について事業者と独立弁護士との間で秘密に行われた一定の通信を対象とし、所定の要件を満たした物件を審査官が内容へアクセスせず還付する限定的な制度です。平時から対象通信の管理要件を理解していなければ、立入検査時にメールへ単に「Privileged」と付記しても保護は確保できません。
カルテル・入札談合の可能性が見えた場合には、課徴金減免制度と調査協力減算制度を早期に評価します。公取委によれば令和7年度の事実報告等は182件に上り、制度は実際に利用されています。立入検査を受けた後でも、対象行為、既存申請、調査協力の内容等によって検討余地が残る場合があります。他方、確約手続は価格カルテル、入札談合、受注調整等の一定のハードコア行為には利用できません。当日の現場対応、リニエンシー、確約、行政争訟、社内調査を別々の担当者が無関係に進めることは避け、単一の戦略として設計する必要があります。
3 金融庁・財務局と個人情報保護委員会への対応では「過去の説明」と「将来の是正」の整合性が問われる
金融庁・財務局の検査は、公取委の一斉立入検査とは異なる文脈で理解する必要があります。金融庁は、2026年10月1日適用の各監督指針においても、立入検査を含むオンサイト手法と、資料分析・ヒアリング等のオフサイト手法を組み合わせた継続的かつ重点的なモニタリングを基本としています。したがって、検査当日の受け答えだけではなく、それ以前に当局へ提出した資料、面談での説明、過去の指摘、改善計画、経営陣の認識及び実装状況が一つの監督記録として評価されます。
銀行、金融商品取引業者その他の金融規制業者は、自社に適用される個別業法と監督指針を前提に、当局が何を確認しようとしているのかを読み解かなければなりません。過去の提出資料と現場の実態が異なる場合、担当部門が「現在は改善済み」と口頭で説明するだけでは十分でないことがあります。原因、是正時期、経営報告、顧客影響、検証結果を説明できる記録を整え、追加報告・業務改善その他の可能性を見据えて対応する必要があります。
個人情報保護委員会は、個人情報保護法146条に基づき、法の施行に必要な限度で報告・資料提出を求め、事務所その他必要な場所へ立ち入り、質問又は帳簿書類等の検査を行うことができます。同条はこの権限が犯罪捜査のためのものではないことを明示しています。令和7年度年次報告によれば、個人情報取扱事業者等に対する立入検査は148件実施されており、漏えい等事案を契機とする原因分析、安全管理措置、本人通知及び再発防止の確認が監督実務上重要です。
PPC対応で特に問題となるのは、事故直後に提出した漏えい等報告と、その後の社内調査・フォレンジックで判明した事実との整合性です。初期報告時点で未確定だった事項は未確定と明示し、新たな事実が判明した場合には必要な追加・訂正を行うべきであり、当初説明を維持するために調査結果をねじ曲げてはなりません。規制当局対応の信頼性は、最初から全てを知っていたかではなく、各時点で何を知り、何を合理的に調査し、どう更新したかによって評価されます。
4 警察・検察の捜索差押えでは、令状とデジタル証拠の法的射程を精密に管理する
刑事捜索は、行政調査と同じ「来訪対応」として扱うべきではありません。刑事訴訟法218条は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が犯罪捜査のため必要があるとき、裁判官の令状により差押え、捜索、電磁的記録提供命令又は検証を行うことができると定めています。会社側は適法な令状執行を妨害してはなりませんが、令状に記載された罪名、差押対象、捜索場所、提供させる電磁的記録、提供方法、有効期間等を確認し、実際の執行経過との対応を記録します。
2026年5月21日施行の改正は、デジタル証拠対応を企業危機管理の中心課題にしました。電磁的記録提供命令は、提供させるべき記録と提供方法を特定して行われ、一定の場合には裁判官の許可を得て、命令を受けた事実や提供の有無をみだりに漏らしてはならない旨の命令を伴うことがあります。刑事訴訟法には命令違反に対する罰則も設けられています。企業又はサービス提供者がこの種の命令を受けた場合、通常の社内エスカレーションや海外本社報告がそのまま許されると決めつけず、命令内容を確認して対応しなければなりません。
また、差押対象が電子計算機である場合、刑事訴訟法218条2項は一定の接続された記録媒体から電磁的記録を複写した上で差し押さえる仕組みを置いています。企業の実データがクラウド、海外リージョン、SaaS、個人端末又は外部委託先に分散していると、どのアカウントがどのシステムへ接続し、誰がアクセス権を有し、どの国にデータが存在するかが重要になります。IT担当者はシステム構成を説明できる必要がありますが、捜索開始後にアカウント権限や保存先を変更して証拠環境を変えてはなりません。
弁護士との通信についても精密な理解が必要です。刑事訴訟法105条は、弁護士等が業務上委託を受けたため保管又は所持する他人の秘密に関する物について一定の押収拒絶権を定め、105条の2は一定の電磁的記録提供命令にもこれを準用しています。しかし、これは企業自身が保管する弁護士との全通信に一般的なprivilegeを付与する制度ではありません。会社資料を弁護士へCCしただけで捜索対象外になると考えることは危険です。
さらに、会社と役職員個人の利益が一致するとは限りません。個人に刑事責任の可能性がある場合、会社代理人が本人の個人的利益まで同時に代理できるかを早期に検討し、必要に応じて個人代理人を確保します。捜索当日の社員向け連絡は、証拠保存、当局連絡窓口、外部発信制限等に絞り、関係者同士で事実関係の「答え合わせ」をさせないことが重要です。
5 当局対応と社内調査を競合させない――証拠保全、ヒアリング、クロスボーダーデータを統合する
当局が調査を開始したからといって、会社が自ら事実を把握する必要がなくなるわけではありません。むしろ、行政処分、刑事責任、取締役責任、顧客対応、M&A上の補償、保険、適時開示等を判断するため、社内調査は必要です。ただし、当局対応と社内調査の順序を誤ると、証拠を汚染し、従業員の供述を不必要に揃え、当局から調査妨害を疑われる原因になります。
まず優先すべきは客観証拠の保全です。メール・チャットの自動削除、ログの上書き、端末の交換・初期化、退職者アカウントの消去、バックアップローテーション等を止め、対象者、期間、システム、保存場所をデータマップとして整理します。「資料を整理しておくように」という曖昧な指示は、関係資料の削除・移動を誘発するおそれがあるため避けるべきです。保全することと、証拠を隠すことは全く異なります。
社内ヒアリングは、客観資料を一定程度把握した後に設計します。当局が近く聴取する予定の者を会社が先に詳細聴取する必要があるか、複数社員の説明を共有させる必要があるか、個人代理人が必要かを検討します。会社が期待する回答を示唆する質問や、関係者を同席させた「事実確認会」は避けるべきです。ヒアリングの目的は会社に都合のよい物語を作ることではなく、当局対応にも耐え得る事実記録を構築することです。
外資系企業では、日本子会社から海外本社、Regional GC、Global Complianceへ迅速に報告する必要があります。しかし、報告義務と調査資料を国外へ無制限に転送する権限は同じではありません。個人情報、営業秘密、契約上の守秘義務、外国のデータ規制、当局の非開示命令その他の制約を確認し、必要な情報を必要な者へ段階的に共有します。海外本社が日本の従業員へ直接ヒアリング指示を出すことも、日本側の調査順序と衝突し得るため、指揮系統を初日に定めることが重要です。
6 取締役会、適時開示、危機広報を当局対応と同じ事実基盤で動かす
重大な当局調査では、現場対応だけが成功しても企業危機は収束しません。確認済み事実、未確認事項、当局権限、提出済み資料、今後の手続、主要な法的・事業リスクを、取締役会、監査役会、監査等委員会又は監査委員会へ適時に報告する必要があります。経営陣自身が対象行為に関与している可能性がある場合には、通常の経営ラインとは別に、独立社外取締役又は監査機関を中心とする意思決定構造を設けることを検討します。
上場会社では、当局調査の開始そのものが常に同じ形で適時開示を要求するわけではありません。しかし、対象行為の重要性、行政処分・課徴金・刑事責任の可能性、財務影響、主要事業への影響、報道状況等によって、調査開始時、重要事実の判明時、社内・外部調査の開始時、処分時、是正策決定時等に開示判断が必要になります。2026年7月版の会社情報適時開示ガイドブックと、同年改訂のコーポレートガバナンス・コードを踏まえ、法務、財務、IR、監査機関及び会計監査人が同じ時系列を共有することが重要です。
広報も「ノーコメント」か「全面否定」かの二択ではありません。事実が十分に判明していない初期段階で「違法行為は一切ない」「一部社員の個人的行為である」と断定すると、後に反対事実が判明したとき、当局対応以上の信用危機を招くことがあります。他方、確認済みの事実まで説明を避け続ければ、顧客、金融機関、投資家、従業員の不安を増幅させます。対外説明は、確認済み事実、調査中の事項、当局へ適切に対応していること、事業継続上必要な情報を区別し、更新可能な形で行うべきです。
また、会計監査人、D&Oその他の保険会社、金融機関、主要顧客・取引先への通知義務も当局調査とは別に進行します。保険通知、融資コベナンツ、表明保証・補償、重要契約の通知期限を失念すると、調査結果とは別の損失が発生します。法務チームは「当局に何を出すか」だけではなく、企業全体で同時に進む期限を統合管理する必要があります。
7 有事対応の品質は平時に決まる――Dawn Raid Protocolを企業の危機管理インフラにする
立入検査・捜索対応マニュアルが緊急連絡先一覧だけで終わっている企業は、実際の来訪時に機能しません。実効的なDawn Raid Protocolには、受付での本人確認、根拠書面の確認、社内エスカレーション、外部弁護士への連絡、当局同行者、会議室・入退室管理、IT支援、提出物ログ、証拠保全、社員通知、個人代理人の判断、海外本社との情報共有、取締役会報告、広報までを含める必要があります。
さらに、マニュアルは模擬訓練で検証しなければ意味がありません。受付が誰へ電話するか、地方拠点で本社法務が不在の間に誰が対応するか、クラウド管理者がどこにいるか、WhatsAppや個人利用端末を業務に使っている場合にどうデータを保全するか、役員本人が捜索対象となった場合に誰が会社判断を行うかをシミュレーションします。2026年のデジタル証拠制度と継続監督を前提にすれば、紙のファイル棚を案内するだけの訓練では足りません。
当局が退出した後も、危機対応は続きます。会社は同日中に、当局の行為、会社の回答、提出・持出し資料、対象システム、関係者、未解決の論点をクロノロジー化し、証拠保全を継続した上で、社内調査、役職員対応、リニエンシーその他の制度利用、開示、保険、金融機関・取引先対応、是正策を動かします。初日の記録が不十分であれば、その後の数か月にわたる防御と説明責任が不必要に難しくなります。
SAKURA法律事務所及び代表弁護士 道下剣志郎は、公取委、金融庁・財務局、個人情報保護委員会その他の規制当局対応、警察・検察による捜索差押え、社内調査・第三者委員会、個人情報、M&A後の不祥事、適時開示、レピュテーション対応を、相互に切り離された作業ではなく一つの企業危機管理として扱います。重要なのは、当日の当局対応だけを無事に終えることではなく、その後の行政・刑事手続、企業統治、事業継続及び企業価値の回復まで見通した対応を初日から設計することです。
FAQ――当局の立入検査・行政調査・捜索差押えに関する実務上の質問
Q1 当局が突然会社へ来た場合、最初に何をすべきですか。
職員の所属・氏名・身分証と、令状、告知書、命令書、通知書等の法的根拠を確認し、社内窓口を一本化して外部弁護士へ直ちに連絡します。同時に、当局とのやり取り、閲覧・提出・持出し資料を記録し、関連データの自動削除等を停止します。受付担当者が独自に実体説明を始めることは避けるべきです。
Q2 公取委の独占禁止法47条に基づく立入検査は拒否できますか。
単なる任意の情報提供依頼ではありません。47条の処分は応諾義務を罰則で担保する間接強制を伴います。適法な調査には対応しつつ、対象範囲と提出物を会社側でも記録し、手続上の問題がある場合は所定の異議申立て等を迅速に検討します。
Q3 弁護士が到着するまで当局に待ってもらえますか。
当然には待ってもらえません。公取委は円滑な検査に支障がない範囲で弁護士立会いを認め得ますが、到着まで開始を待つ義務はないとしています。刑事令状の適法な執行も会社の判断で停止できません。
Q4 公取委の聴取前に会社が社員へ詳しくヒアリングしてよいですか。
必要性はありますが、順序設計が重要です。当局聴取直前に会社が回答を示唆したり、複数関係者で事実関係を共有したりすると供述調整を疑われる可能性があります。まず客観資料を保全し、外部弁護士が当局手続と社内調査の順序を調整すべきです。
Q5 弁護士とのメールは当局から全て保護されますか。
いいえ。日本には全ての行政調査・刑事手続に共通する米国型の包括的attorney-client privilegeはありません。公取委の判別手続や刑事訴訟法105条等の限定的な保護はありますが、対象・要件が異なります。
Q6 公取委の立入検査後でもリニエンシーを検討する意味はありますか。
事案によってはあります。対象行為、既存の申請状況、申請時期、調査協力の内容によって経済的帰結が異なるため、カルテル・入札談合の疑いがあれば、完全な社内調査の終了を待たず利用可能性を評価すべきです。
Q7 警察・検察はクラウドやSaaS上のデータも対象にできますか。
デジタルデータは重要な捜査対象となり得ます。2026年5月21日から刑事訴訟法上の電磁的記録提供命令も施行されています。実際の対象範囲は令状・命令、アクセス権、データ所在その他の事実によって異なるため、会社はシステム構成を説明できる状態を維持しつつ、執行中に証拠環境を変更してはなりません。
Q8 外資系日本法人は調査資料をすぐ海外本社へ送ってよいですか。
報告が必要でも、全資料の国外送信が当然に許されるわけではありません。個人情報、契約上の守秘義務、外国法、当局の非開示命令、調査戦略を確認し、必要な範囲で段階的に共有します。
Q9 上場会社は立入検査や捜索を受けたら必ず直ちに適時開示しなければなりませんか。
一律ではありません。対象行為の重要性、当局手続の性質、財務・事業への影響、処分・刑事責任の可能性、報道状況等を踏まえて東証規則・適時開示ガイドブックに基づき判断します。調査完了まで必ず待てるという意味でもありません。
Q10 平時に最も優先すべき準備は何ですか。
受付、総務、IT、法務、経営、監査機関が実際に動けるDawn Raid Protocolを作り、データマップと外部弁護士の緊急連絡体制を整え、模擬訓練を行うことです。紙のマニュアルより、訓練で判明した欠陥を継続的に修正することが重要です。
代表弁護士 道下剣志郎「Legal Update」について
SAKURA法律事務所は、代表弁護士 道下剣志郎(Kenshiro Michishita)のプロフィールページに「LEGAL UPDATE」欄を設け、企業法務、M&A、クロスボーダー取引、国際紛争、金融規制、個人情報、AI・IT、企業危機管理、社内調査・第三者委員会、名誉毀損・レピュテーション、Web3・暗号資産、知的財産、労働法務等について、日本語及び英語で実務的な情報を継続的に発信しています。
第22回は、第21回の社内調査・第三者委員会対応から一歩進み、企業の外部から公的権限が行使される局面を扱います。行政調査、監督、刑事捜査を正確に区別しながら、デジタル証拠、社内調査、取締役会、開示及び危機広報までを統合することは、上場・非上場、日系・外資系を問わず、現代の企業危機管理の中核です。
SAKURA法律事務所 公式サイト 代表弁護士 道下剣志郎 プロフィール
SAKURA法律事務所に相談できる事項
SAKURA法律事務所では、公正取引委員会による独占禁止法調査、金融庁・財務局による検査・監督、個人情報保護委員会による報告徴収・立入検査、警察・検察による捜索差押え・任意捜査その他の当局対応について相談を受けています。
案件に応じて、立入検査・Dawn Raidの初動、令状・命令書の検討、資料提出・データ対応、課徴金減免・調査協力、社内調査、第三者委員会、デジタルフォレンジック、役職員ヒアリング、個人代理人との調整、個人情報漏えい、取締役会・監査機関報告、適時開示、保険・金融機関・取引先通知、危機広報、再発防止までを一体として検討します。クロスボーダー案件では、海外本社、General Counsel、海外法律事務所、IT・フォレンジックその他の専門家とも英語で連携します。
お問い合わせ
当局による立入検査、行政調査、捜索差押え、Dawn Raid、企業不祥事、社内調査その他の企業危機管理に関するご相談は、SAKURA法律事務所までお問い合わせください。
SAKURA法律事務所
〒106-0032 東京都港区六本木一丁目4番5号 アークヒルズサウスタワー4F
代表弁護士 道下 剣志郎
Web: https://sakura-lawyers.jp/
主な参考資料
1. 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)― e-Gov法令検索 — 第47条の事件調査権限、第94条の罰則、確約・課徴金減免制度等
2. 公正取引委員会「独占禁止法審査手続に関する指針」 — 立入検査、弁護士立会い、供述聴取、異議・苦情申立て
3. 公正取引委員会「独占禁止法違反被疑事件の行政調査手続の概要について」 — 事業者向け行政調査手続資料
4. 公正取引委員会「判別手続」 — 一定の弁護士との秘密通信の限定的取扱い
5. 公正取引委員会「課徴金減免制度について」 — リニエンシー及び調査協力減算制度
6. 公正取引委員会「確約手続に関する対応方針」 — 確約手続の対象・除外類型
7. 公正取引委員会「令和7年度における独占禁止法違反事件の処理状況について」 — 2026年6月8日、課徴金減免制度の最新公表実績等
8. 金融庁「金融検査・監督の考え方と進め方」 — 検査・監督基本方針
9. 金融庁「監督指針一覧」 — 主要監督指針の2026年10月1日適用版を掲載
10. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針 II」 — オン・オフ一体の継続的モニタリングと立入検査
11. 金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針 II」 — 金融商品取引業者等の継続的モニタリング
12. 個人情報の保護に関する法律 ― e-Gov法令検索 — 第146条の報告及び立入検査等、2026年10月時点の現行法
13. 個人情報保護委員会「令和7年度個人情報保護委員会 年次報告」 — 2026年7月公表、報告徴収・立入検査等の運用状況
14. 刑事訴訟法 ― e-Gov法令検索 — 第105条、第105条の2、第218条以下、電磁的記録提供命令等
15. 法務省「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」 — 令和7年法律第39号、成立・公布資料
16. 犯罪捜査規範 ― e-Gov法令検索 — 令状執行、捜査手続等。2026年5月21日施行改正反映
17. 日本取引所グループ「会社情報適時開示ガイドブック」 — 2026年7月版
18. 金融庁・東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定について」 — 2026年7月21日公表
20. SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 プロフィール
免責事項
本稿は、2026年10月5日時点で公表されている日本法令、公的資料及び一般的な実務を前提として、企業の立入検査、行政調査、捜索差押えその他の当局対応に関する一般的情報を提供するものであり、個別案件についての法律意見又は法的助言を構成するものではありません。当局の権限、会社及び役職員の応諾・協力義務、資料提出、供述聴取、捜索差押え、電磁的記録提供命令、弁護士との通信、課徴金減免、行政処分、刑事責任、適時開示、個人情報・クロスボーダーデータ移転その他の法的評価は、対象法令、業種、事件類型、令状・命令・通知書の文言、手続段階、データ構成、当事者の地位及びその後の法改正・当局運用等によって異なります。実際に当局から照会、来訪、検査、命令又は令状執行を受けた場合には、当該書面及び具体的事実を確認し、その時点で有効な法令・規則・監督指針・公的資料を踏まえて速やかに専門家へ相談する必要があります。