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2026.10.29

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【SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 Legal Update】2026年7月21日施行 改訂コーポレートガバナンス・コード――成長投資、取締役会・独立社外取締役、政策保有株式と株主総会前開示【2026年版】について公開いたしました。

LEGAL UPDATE | 第33回

分析基準日:2026年10月7日 | 訂正日:2026年10月20日

SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎

2026年7月21日、東京証券取引所はコーポレートガバナンス・コードの2026年改訂版を施行しました。今回の改訂は、個別のガバナンス項目を追加するだけのものではありません。2015年の適用開始から十年以上が経過する中で、形式的なコンプライに陥りやすいという課題を踏まえ、コードそのものを「プリンシプル化」「スリム化」し、コンプライ・オア・エクスプレインの対象となる原則をより概念的なものに絞る一方、その趣旨や具体的な実践例を「解釈指針」として新設するという構造的な改編が行われました。上場会社に求められるのは、チェックリストへの対応ではなく、自社の中長期的な企業価値をどのように高めるのかを取締役会が自ら設計し、その理由を投資家に説明することです。 [1] [2]

改訂の中心にあるのは「成長投資」です。取締役会には、会社の目指すところに向けた成長の道筋を構築し、自社の資本コストを踏まえて、設備、研究開発、人的資本、知的財産その他の無形資産への投資、事業ポートフォリオの見直し等について具体的に何を実行するのかを説明することが求められました。同時に、現預金等の金融資産や実物資産を含む経営資源が、策定・公表した経営戦略や経営計画に照らして適切に配分されているかを、取締役会が不断に検証することも明確化されています。これは、単純な株主還元の強化を要求するものではなく、成長投資、資本効率、機会コスト、財務健全性及び中長期的な企業価値を一体として判断するガバナンスを求めるものです。 [2]

取締役会の機能についても、CEOのサクセッション、独立社外取締役の役割・質・数・独立性、指名委員会・報酬委員会、取締役会実効性評価、内部監査、リスク管理、取締役会事務局の機能に至るまで、実効性を重視した再整理が行われました。サイバーセキュリティ、地政学的要因によるサプライチェーン途絶、技術等の情報流出も、全社的リスク管理体制を整備する際の考慮事項として明示されています。M&A、支配株主との取引、不祥事対応その他の有事において、独立社外取締役が意思決定の実質的な担い手となり得ることも、今回の改訂の重要な文脈です。 [2]

さらに、株主との建設的な対話が独立した原則として再構成され、有価証券報告書を定時株主総会前に提出することが、株主の適切な権利行使に向けた環境整備の重要な例としてコード上明示されました。解釈指針では、株主総会開催日の3週間以上前の提出が最も望ましいとされていますが、これは現時点で一律の法的義務を課すものではなく、株主総会開催時期の後ろ倒しも含めた制度・実務上の検討が想定されています。本稿では、2026年改訂版の法的性質と適用範囲を確認した上で、成長投資、資本配分、取締役会、独立社外取締役、株主との対話、政策保有株式及び総会前開示を、上場会社の実務として一本の流れで整理します。 [2] [7]

本稿の要旨

2026年改訂の第一の意味は、コーポレートガバナンス・コードを「細かな項目を満たす文書」から「経営判断の質を高める原則」へ戻そうとしている点にあります。改訂版は、プリンシプルベース・アプローチとコンプライ・オア・エクスプレインの趣旨を改めて強調し、従来の補充原則を再整理しました。新設された解釈指針は、原則の実質的な実施を支援するものですが、それ自体はコンプライ・オア・エクスプレインの対象ではありません。もっとも、解釈指針へ移された事項や削除された事項の重要性が失われたわけではないことも、コード自体が明示しています。したがって、単に「原則数が減ったから対応事項が減った」と理解するのは誤りです。 [2]

第二に、成長投資と経営資源配分が取締役会の中心課題として明確化されました。取締役会は、会社の目指すところに向けた成長の道筋を構築し、資本コストを踏まえた収益計画・資本政策・収益力・資本効率の目標を示した上で、成長投資や事業ポートフォリオの見直し等について具体的な実行内容を説明すべきとされています。現預金を多く保有していること自体が否定されるわけではありませんが、保有の必要性・合理性を説明できることが重要です。政策保有株式についても、縮減方針、個別銘柄ごとの保有適否・資本コストとの関係の検証、議決権行使基準、売却を妨げないこと等が原則として整理され、資本配分の問題として経営戦略との整合性を問われる構造が一層明確になりました。 [2]

第三に、取締役会の実効性が、形式的な社外取締役数ではなく、戦略、CEO人事、監督、リスク管理、意思決定プロセス全体の質によって評価される方向が強まりました。Prime市場上場会社では、独立社外取締役を少なくとも3分の1以上選任すべきという枠組みが維持される一方、支配株主を有するPrime市場上場会社には、支配株主から独立した独立社外取締役を少なくとも過半数選任する原則が置かれています。解釈指針では、適切な場合には、重要な利益相反取引を審議する独立性ある特別委員会を設ける方法も示されています。今回の改訂は「人数」だけでなく、独立社外取締役の資質、実質的独立性、株主との対話、指名・報酬への主体的関与、取締役会事務局の機能強化までを一体として捉えています。 [2]

第四に、上場会社は改訂版コードへの対応を2027年7月末までにコーポレート・ガバナンス報告書へ反映する必要があります。2026年7月21日に改訂版は施行済みですが、移行実務では、既存のガバナンス報告書、取締役会規程、委員会規程、CEOサクセッション、資本配分方針、政策保有株式、株主との対話方針、リスク管理、取締役会実効性評価等を横断的に見直す必要があります。重要なのは、2027年7月の報告書更新をゴールにするのではなく、その前に取締役会で実質的な議論を行い、説明できる経営判断とプロセスを形成することです。 [4]

第1章 2026年改訂の本質――「形式的コンプライ」から経営判断の実質へ

コーポレートガバナンス・コードは会社法や金融商品取引法と同じ意味での強行法規ではなく、各原則それ自体が直接の法的拘束力を有する規範ではありません。もっとも、東京証券取引所の上場会社には、上場市場区分に応じてコードへの対応が求められ、Prime市場・Standard市場の上場会社は全原則について、Growth市場の上場会社は基本原則について、実施しないものがある場合にその理由を説明することが求められています。したがって、「法令ではないから任意」という理解も、「全項目を形式的に満たさなければならない」という理解も、いずれもコードの構造を正確には捉えていません。 [2]

2026年改訂版は、この点を従前以上に強く打ち出しました。改訂版の序文は、プリンシプルベース・アプローチについて、原則の文言に形式的に従うのではなく、その趣旨・精神に照らして自社の活動が適切かを判断することを求めています。また、コンプライ・オア・エクスプレインについても、個別事情によっては形式的にコンプライするより、むしろエクスプレインを積極的に選択すべき場合があることを明記しました。その上で、エクスプレインを選択した場合には、ひな型的な表現ではなく、株主等の理解を得られるよう丁寧に説明すべきとしています。さらに、コンプライする場合であっても、具体的な取組みと合理的理由を示すことが建設的な対話に資するとされました。 [2]

構造面では、従来の補充原則が再整理され、ガバナンスの中核となる事項を原則へ格上げする一方、詳細な具体例や趣旨・背景は「解釈指針」へ移されました。解釈指針はコンプライ・オア・エクスプレインの対象ではありませんが、原則の実質的な実施を支援する位置付けです。ここで注意すべきなのは、解釈指針へ移管された事項やコードから削除された事項について、重要性が失われたと解釈してはならないことです。今回の「スリム化」は負担削減だけを目的とするものではなく、取締役会と経営陣に、何を本質的な論点として考えるべきかを明確にするための編集です。 [2]

実務上は、従来のガバナンス報告書を文言置換するだけでは不十分です。2026年改訂版で原則の抽象度が上がった分、各社は自社の事業特性、成長フェーズ、資本構成、支配株主の有無、海外投資家比率、リスクプロファイル、機関設計等を前提に、なぜ現在のガバナンス体制が企業価値向上に適しているのかを説明する必要があります。これは法務・総務部門が単独で行う開示作業ではなく、経営戦略、財務、IR、人事、リスク管理及び取締役会運営を統合するガバナンス設計の問題です。

第2章 成長投資と経営資源配分――取締役会は「何に資本を使うか」を説明できなければならない

2026年改訂の最も重要なメッセージは、取締役会が会社の目指すところに向けた「成長の道筋」を構築し、その実現に必要な経営資源の配分を監督することです。原則4-1は、取締役会が会社の経営理念等を確立し、成長の道筋を構築するなど戦略的な方向付けを行うことを主要な役割・責務の一つと位置付けました。経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを踏まえて収益計画や資本政策の基本方針を示し、収益力・資本効率等に関する目標を提示した上で、設備、研究開発、人的資本、知的財産その他の無形資産への投資や、事業ポートフォリオの見直し等について具体的に何を実行するのかを説明すべきとされています。 [2]

この改訂は、資本効率だけを高めるために現金を減らし、自社株買いや配当を増やすことを機械的に要求するものではありません。金融庁・東証の改訂趣旨は、現預金等の金融資産や実物資産を保有することが常に否定されるわけではなく、会社が保有の必要性・合理性を説明できる限り、適正な水準の資産保有も経営資源配分の一環であることを明確にしています。他方、単に「将来の投資に備える」「財務健全性を確保する」という抽象的説明では、投資機会、機会コスト、資本コスト、成長フェーズ、M&A余力、財務規律との関係を十分に示したとは言い難い場合があります。取締役会は、保有する資本をどの選択肢へ振り向けることが中長期的な価値創造につながるのかを比較し、意思決定の論理を投資家に説明できる状態にする必要があります。 [1] [2]

政策保有株式も、この資本配分の文脈で捉えるべきです。改訂版の原則1-4は、政策保有株式として上場株式を保有する場合に、縮減に関する方針・考え方を含む保有方針を開示し、毎年、取締役会で個別銘柄ごとに保有目的の適切性、保有に伴う便益・リスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証することを求めています。また、政策保有株主から売却意向が示された場合に取引縮減を示唆するなどして売却を妨げるべきではないこと、取引の経済合理性を検証しないまま取引を継続すべきではないことも原則化されています。政策保有株式は、従来型の取引関係を維持するための慣行ではなく、他の投資機会と同じく資本コストと企業価値の観点から説明を要する資産となっています。 [2]

M&Aや事業売却との関係でも、この原則は重要です。成長の道筋を実現するために必要な事業と、資本を拘束する一方で十分なリターンを生まない事業を区別し、買収、売却、カーブアウト、JV、研究開発投資、人材投資等を一つのポートフォリオ戦略として検討することが求められます。取締役会の議事録や投資委員会資料においても、単に案件単体のIRRやシナジーだけを見るのではなく、会社全体の資本配分方針と成長の道筋に照らして意思決定を位置付けておくことが、後の株主対話や買収提案への対応において重要な説明基盤となります。

第3章 取締役会の機能強化――戦略、CEO人事、リスクテイクを一つの監督機能として捉える

2026年改訂は、取締役会を「重要案件を承認する会議」から、経営戦略を構築し、適切なリスクテイクを支え、経営陣を実効的に監督する主体として再定義しています。原則4-2は、取締役会に対し、経営陣による適切なリスクテイクを支える環境整備を求めるとともに、経営資源の配分が策定・公表した経営戦略や経営計画に照らして適切かを不断に検証することを求めました。これは、リスクを避けること自体をガバナンスの成果とみるのではなく、適切な内部統制・リスク管理を前提として、経営陣が企業家精神を発揮し、果断な意思決定を行える環境を作るという「攻めのガバナンス」の考え方です。 [2]

CEOの選解任は、その中でも最も重要な戦略的意思決定の一つとされています。原則4-3は、取締役会がCEOのサクセッションプランの策定・運用に主体的に関与し、後継者候補の育成と資質を備えたCEOの選任が十分な時間と資源をかけて計画的に行われるよう監督することを求めています。また、会社の業績等の評価を踏まえ、CEOが機能を十分に発揮していないと認められる場合に解任するための客観性・適時性・透明性ある手続を確立すべきとされました。サクセッションを「現CEOが退任するときの後継者選び」と捉えるのではなく、経営戦略の変化に合わせ、どのような資質・経験を持つCEOが必要かを継続的に更新するプロセスとして設計する必要があります。 [2]

リスク管理についても対象が広がっています。原則4-4の解釈指針は、グループ全体を含む内部統制・全社的リスク管理体制の構築と内部監査部門の活用を求め、サイバーセキュリティリスク、国際的な経済安全保障を巡る環境変化等の地政学的要因によるサプライチェーン途絶リスク、技術等の情報流出リスクへの対応を考慮事項として挙げています。これらはコンプライアンス上の「守り」だけでなく、事業継続、取引機会、M&A、サプライヤー再編、技術戦略等に直結する経営リスクです。取締役会は、リスク一覧表の確認ではなく、どのリスクを取ることでどの成長機会を獲得し、どのリスクは許容しないのかというリスクアペタイトと戦略の接続を議論すべきです。 [2]

サステナビリティも取締役会の独立した責務として整理されました。原則4-5は、中長期的な企業価値向上の観点から、取締役会がサステナビリティを巡る課題に積極的・能動的に取り組み、基本方針を策定し適切に対応すべきとしています。気候変動、人権、従業員の健康・労働環境、自然災害、多様性等は、ESG開示のためだけの論点ではありません。事業戦略、調達、投資、人材、ブランド、規制対応及びM&Aのデューデリジェンスと結び付け、企業価値への影響を取締役会の言葉で説明することが必要です。 [2]

第4章 独立社外取締役、指名・報酬委員会、取締役会事務局
――「人数」から「機能」へ

独立社外取締役について、2026年改訂は、役割、質、数、独立性及び機能発揮を分けて整理しました。役割としては、経営陣の選解任その他の重要な意思決定を通じた監督、経営陣・支配株主等との利益相反の監督、少数株主を含むステークホルダーの意見の取締役会への反映、経営方針・経営改善への助言が掲げられています。解釈指針は、必要に応じ独立社外取締役自身が株主と対話すること、経営陣の説明が是認できない場合に反対意見を述べること、業績悪化・不祥事・企業買収等の有事には、特に経営陣が利害関係を持つ場合に意思決定の主体として適切に判断することまで踏み込んでいます。 [2]

独立社外取締役の数について、Prime市場上場会社は資質を十分備えた独立社外取締役を少なくとも3分の1以上、その他の市場の上場会社は2名以上選任すべきとされています。さらに、支配株主を有するPrime市場上場会社には、支配株主から独立した独立社外取締役を少なくとも過半数、支配株主を有するその他の市場の上場会社には3分の1以上選任すべきとの原則が置かれています。ただし、解釈指針では、適切と考える場合には、支配株主と少数株主の利益が相反する重要な取引・行為を審議する独立性ある特別委員会の設置を代替的な対応として示しています。重要なのは、形式的な頭数ではなく、利益相反場面で独立した意思決定が機能するかです。 [2]

指名委員会・報酬委員会も、CEOサクセッションと報酬を取締役会の実質的な監督事項とするための制度として位置付け直されています。監査役会設置会社又は監査等委員会設置会社で、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会を設置し、適切な関与・助言を得るべきとされ、Prime市場上場会社では各委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本としています。委員会の存在だけでなく、権限、審議事項、情報アクセス、経営陣との関係、答申の扱いを明確にしなければ、実質的な独立性は確保できません。 [2]

さらに注目すべきは、取締役会事務局、いわゆるコーポレートセクレタリー等の機能強化です。解釈指針は、取締役会事務局を会議招集・資料配布の事務方にとどめず、取締役会・委員会の役割に照らして適切な審議事項を設定し、社外取締役・社外監査役への情報提供や社内との連絡調整を行う主体として位置付けています。取締役会資料の質、送付時期、年間アジェンダ、審議時間、社外取締役へのブリーフィングを設計する機能が弱い会社では、独立社外取締役を増やしても実効性は上がりません。取締役会の機能強化は、人選と同時に情報設計・会議設計の改革を伴う必要があります。 [2]

第5章 株主との対話、政策保有株式、総会前開示――株主総会だけで説明責任を果たす時代ではない

2026年改訂版は、第1章の基本原則自体に「株主との対話」を組み込み、原則1-1として建設的な対話を独立した形で整理しました。上場会社は、株主からの対話の申込みに対し、持続的成長と中長期的企業価値向上に資するよう合理的な範囲で前向きに対応し、取締役会は、対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針を検討・承認し、開示すべきとされています。対話には、株主の希望や主な議題を踏まえ、合理的な範囲で経営陣、社外取締役を含む取締役又は監査役が臨むことを基本とし、対話で把握した株主の意見・懸念を経営陣や取締役会へフィードバックする体制も求められます。 [2]

この仕組みは、アクティビストからの提案に応じるか否かという有事対応に限られません。資本配分、事業ポートフォリオ、政策保有株式、役員報酬、CEOサクセッション、M&A、サステナビリティ等について、平時から投資家の問題意識を取締役会へ取り込み、自社の経営方針を説明することで、将来の買収提案や株主提案に対しても一貫した説明が可能になります。他方で、株主との対話に際しては、インサイダー情報やフェア・ディスクロージャー・ルールが適用される重要情報の管理を前提とする必要があり、IR担当だけでなく法務、経営企画、財務、人事等の連携が不可欠です。

定時株主総会前の有価証券報告書提出は、今回の改訂で特に注目される点です。原則1-2は、有価証券報告書を株主総会開催日前に提出することを、株主が適切な判断を行うための環境整備の重要な例として明記しました。解釈指針では、役員報酬や政策保有株式等のガバナンス情報を含む有価証券報告書について、本来、株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましいとし、そのために株主総会開催日や議決権行使基準日を従前の慣行から後ろ倒しすることも含めて検討するとしています。もっとも、金融庁自身も現行法制・実務の下で3週間以上前の提出が必ずしも容易でないことを認識し、事業報告等との一本化や監査の一元化等の制度的検討を並行して進めています。したがって、現時点で「3週間前提出が一律の法的義務になった」と表現するのは正確ではありません。 [2] [7]

また、可決された会社提案議案に相当数の反対票があった場合には、取締役会が反対理由や原因を分析し適切に対応すべきとする原則も維持されています。今後、取締役会は、賛否結果を単に集計するのではなく、議決権行使助言会社の方針、主要機関投資家の議決権行使基準、エンゲージメントで示された懸念、自社の説明内容との関係を検証する必要があります。コーポレートガバナンス・コードと2025年に第三次改訂されたスチュワードシップ・コードは「車の両輪」とされており、企業側だけでなく投資家側にも、短期的・形式的な評価ではなく目的を持った対話が求められています。 [6]

第6章 政策保有・サステナビリティ・内部通報を個別論点として分断しない

2026年改訂版を実務に落とす際、政策保有株式、人的資本、多様性、内部通報、サステナビリティ等を、それぞれ別の開示担当者が処理する個別テーマとして分断すると、本来の意図を見失います。基本原則2の解釈指針は、従業員等への人的資本投資や適切な分配、取引先との公正・適正な取引、サプライチェーンにおける適正な価格転嫁等を、ステークホルダーとの協働を通じた企業価値創出の一環として位置付けています。原則2-2も、中核人材の多様性について、自主的かつ測定可能な目標と、人材育成方針・社内環境整備方針を実施状況と併せて開示することを求めています。 [2]

内部通報については、上場会社が適切な体制を整備し、取締役会が運用状況を監督すべきとの原則が置かれています。解釈指針は、経営陣から独立した窓口の設置、情報提供者の秘匿、不利益取扱いの禁止等に言及しています。公益通報者保護法上の義務とは別に、ガバナンスの観点では、経営陣自身が関与する問題を取締役会が把握できる仕組み、内部通報と内部監査・監査役・独立社外取締役の連携、重大案件のエスカレーションが実質的に機能しているかが問われます。 [2]

サステナビリティについても、単なるESG情報開示の問題ではなく、取締役会の事業判断とリスク管理の問題です。気候変動、人権、サプライチェーン、従業員、自然災害、データ・技術流出等が企業価値にどう影響するかを特定し、成長投資や事業ポートフォリオ、M&A、調達、人材戦略へ反映することが求められます。実務的には、サステナビリティ委員会、リスク委員会、内部監査、経営会議、取締役会の役割分担を明確にし、どの情報がどの頻度で取締役会へ上がるのか、KPIとリスク指標をどう設定するかまで落とし込む必要があります。

こうした各論点を統合する軸が「中長期的な企業価値」です。政策保有株式を縮減することも、人的資本投資を増やすことも、サステナビリティ委員会を設置することも、それ自体が目的ではありません。取締役会は、自社の成長の道筋に照らして、なぜその取組みが必要で、どのリターン又はリスク低減を期待し、どの指標で効果を検証するのかを説明する必要があります。この説明が欠ければ、形式的コンプライを離れようとした2026年改訂の趣旨に逆行することになります。

第7章 2027年7月までの実務対応――ガバナンス報告書を書く前に取締役会を変える

東京証券取引所は、2026年改訂を踏まえたコーポレート・ガバナンス報告書について、遅くとも2027年7月末日までに改訂版コードに基づく更新を行うよう求めています。それまでの定期更新を2021年版コードに基づいて行うことも可能ですが、その場合は所定の記載を行い、最終的には期限までに改訂版への対応を別途反映する必要があります。期限まで時間があるように見えますが、取締役会や委員会の実際の運用を変え、その実績を説明できる状態にするには、一年間の取締役会サイクルを前提に早期着手する必要があります。 [4] [5]

まず行うべきは、旧コードと新コードの条文差分だけを並べたチェックリストではなく、自社のガバナンスの「実態」を原則ごとに評価することです。成長の道筋と資本配分について、取締役会で十分な時間をかけて議論しているか。CEOサクセッションは候補者名簿ではなく経営戦略と結び付いているか。指名・報酬委員会は重要事項に実質的に関与しているか。独立社外取締役は必要な情報へアクセスできるか。政策保有株式の検証は資本コストを踏まえているか。内部監査は取締役会へ直接報告できるか。株主対話の内容が取締役会へ届いているか。こうした問いに対して、規程、議事録、年間アジェンダ、取締役会資料、委員会運用、IR記録等を確認しながらギャップを特定する必要があります。

次に、開示と実務を同時に設計します。ガバナンス報告書に「取締役会は成長投資を議論している」と書くのであれば、資本コスト、事業ポートフォリオ、成長投資、現金水準、政策保有株式等を年間アジェンダに組み込み、実際に議論し、必要な資料を整備すべきです。独立社外取締役の機能発揮を説明するのであれば、社外役員会合、株主との対話、情報提供、筆頭独立社外取締役、委員会活動等の実態を作る必要があります。逆に、自社にとって原則どおりの仕組みが適切でない場合には、その理由と代替的な仕組みを具体的に説明することが、今回のコードが求める「丁寧なエクスプレイン」です。

最後に、2026年改訂を平時の開示対応に閉じ込めないことが重要です。MBO、支配株主取引、アクティビストからの提案、買収提案、不祥事、CEO交代、サイバー攻撃、地政学リスク等の場面では、平時に構築した取締役会の独立性、情報アクセス、資本配分の論理、株主対話の蓄積がそのまま意思決定の質を左右します。ガバナンスは、有事が起きてから特別委員会を設置することだけでは完成しません。平時から、なぜこの経営戦略・資本政策・取締役会構成が企業価値に資するのかを説明できる体制を整えておくことが、2026年改訂版への最も実質的な対応です。

その意味で、今回の改訂は「2027年7月までに報告書を更新するプロジェクト」ではなく、取締役会が経営戦略、資本配分、CEO人事、リスク、株主との対話をどのように統合して意思決定するかを再設計する機会と捉えるべきです。法務、経営企画、財務、IR、人事、内部監査、コーポレートセクレタリーが分断されたままでは、プリンシプルベースのコードに対応することは難しくなります。各社が自社にふさわしいガバナンスを自ら設計し、その実効性を取締役会で検証し、投資家へ説明することこそが、2026年改訂の中心的な要請であると考えられます。

FAQ

Q1 2026年改訂コーポレートガバナンス・コードは法律ですか。

いいえ。コードの各原則自体は法的拘束力を有する法令ではなく、プリンシプルベースかつコンプライ・オア・エクスプレインの枠組みです。ただし、東証上場会社は市場区分に応じてコードへの対応とガバナンス報告書での説明が求められるため、単なる任意の参考資料ではありません。会社法、金融商品取引法、上場規則等の法的義務とは区別して整理する必要があります。 [2]

Q2 Prime市場・Standard市場・Growth市場で適用範囲は同じですか。

同じではありません。Prime市場・Standard市場の上場会社はコードの全原則がコンプライ・オア・エクスプレインの対象ですが、Growth市場の上場会社は基本原則が対象です。もっとも、Growth市場でも原則・解釈指針を自主的なガバナンス改善の参考とすることは有用です。 [2]

Q3 2026年改訂へのガバナンス報告書の対応期限はいつですか。

東京証券取引所は、改訂版コードに関する事項を記載したコーポレート・ガバナンス報告書を、遅くとも2027年7月末日までに提出するよう求めています。それまで旧コードに基づき定期更新する場合には、その旨を明示した上で、期限までに改訂版に基づく更新を別途行う必要があります。 [4]

Q4 有価証券報告書を株主総会の3週間前までに提出することが法的義務になったのですか。

一律の法的義務として3週間前提出が新設されたわけではありません。改訂コードは、有価証券報告書の総会前提出を株主の権利行使環境整備の重要な例として原則1-2に記載し、解釈指針で3週間以上前の提出が最も望ましいとしています。金融庁も現行実務上の難しさを認識し、事業報告等との一本化等の制度的検討を進めています。 [2] [7]

Q5 2026年改訂によりPrime市場上場会社は独立社外取締役を過半数にしなければならなくなりましたか。

一般のPrime市場上場会社について一律に過半数を求める原則ではありません。Prime市場上場会社は少なくとも3分の1以上が基本です。他方、支配株主を有するPrime市場上場会社については、支配株主から独立した独立社外取締役を少なくとも過半数選任すべきとする原則が置かれています。解釈指針では、適切な場合に独立性ある特別委員会を設置する対応も示されています。 [2]

Q6 独立社外取締役は株主と直接対話する必要がありますか。

改訂版は、株主の希望や議題を踏まえ、合理的な範囲で社外取締役を含む取締役等が対話に臨むことを基本としています。また、独立社外取締役の解釈指針は、必要に応じ自身が株主と対話すること等を通じて少数株主等の意見を取締役会に反映させるよう努めることを求めています。すべての面談に社外取締役が出席するという意味ではありません。 [2]

Q7 現預金を多く保有しているとコード違反になりますか。

現預金の保有自体が否定されるわけではありません。重要なのは、資本コスト、成長フェーズ、投資機会、財務健全性、機会コスト等を踏まえ、保有水準の必要性・合理性を説明できることです。取締役会には、現預金等を含む経営資源が経営戦略・経営計画に照らして適切に配分されているかを不断に検証することが求められます。 [2]

Q8 政策保有株式はすべて売却しなければならないのですか。

一律の売却義務ではありません。ただし、保有方針・縮減方針を開示し、毎年、個別銘柄について保有目的、便益・リスクと資本コストとの関係等を具体的に検証する必要があります。保有するのであれば、その合理性を説明できなければならず、政策保有株主から売却意向を示された場合に取引縮減を示唆するなどして売却を妨げるべきではありません。 [2]

Q9 CEOサクセッションについて何を整備すべきですか。

取締役会が経営戦略に照らしてCEOに必要な資質を定義し、候補者の育成・評価、緊急時の代替、選任プロセス、解任基準までを継続的に監督することが重要です。候補者名を作るだけではなく、会社の成長の道筋や事業ポートフォリオの変化に応じて必要なCEO像を更新し、指名委員会・独立社外取締役が主体的に関与する仕組みが求められます。

Q10 サイバーセキュリティや経済安全保障もコーポレートガバナンス・コードの対象ですか。

原則4-4の解釈指針は、全社的リスク管理体制を整備する際の考慮事項として、サイバーセキュリティリスク、地政学的要因によるサプライチェーン途絶、技術等の情報流出リスクへの対応を明示しています。これらは単なるIT又は法務上のリスクではなく、取締役会が戦略・事業継続・成長機会と関連付けて監督すべき経営リスクです。 [2]

Q11 上場会社は2027年7月までに何から着手すべきですか。

まず、新旧条文の差分確認ではなく、自社の取締役会・委員会・資本配分・CEOサクセッション・政策保有株式・株主対話・リスク管理等の実態を改訂版原則に照らして評価すべきです。その上で、取締役会年間アジェンダ、規程、委員会運用、情報提供、開示、実効性評価を一体で見直し、実際の運用実績を作った上でガバナンス報告書へ反映することが重要です。

代表弁護士 道下剣志郎「Legal Update」について

SAKURA法律事務所の「Legal Update」は、代表弁護士 道下剣志郎が、企業法務、M&A・Private Equity、コーポレートガバナンス、国際取引・紛争、金融規制・資本市場、AI・テクノロジー、データ保護、Web3、危機管理その他の企業活動に重要な法的テーマについて、法令、裁判例、行政資料、取引所規則その他の一次資料を基礎として、経営判断と実務に接続する形で継続的に解説するシリーズです。

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SAKURA法律事務所に相談できる事項

SAKURA法律事務所では、上場会社のコーポレートガバナンスについて、2026年改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応、コーポレート・ガバナンス報告書の見直し、取締役会・指名委員会・報酬委員会・特別委員会の設計、独立社外取締役の役割・独立性、CEOサクセッション、取締役会実効性評価、株主との対話方針、政策保有株式、関連当事者取引、内部通報・内部監査、リスク管理その他のガバナンス体制について、会社法・金融商品取引法・上場規則・各種ガイドラインを踏まえて検討することができます。

また、MBO、支配株主による完全子会社化、第三者からの買収提案、アクティビスト対応、株主提案、経営権争い、重大不祥事、CEO交代等、平時のガバナンスの実効性が直接問われる局面では、独立社外取締役や特別委員会の意思決定プロセス、利益相反管理、外部専門家の起用、取締役会議事録・開示、株主との対話を一体として設計する必要があります。平時の制度設計と有事対応を切り離さず、企業価値と株主共同の利益の観点から意思決定プロセスを整えることが重要です。

2027年7月末の改訂版コード対応に向けては、単にガバナンス報告書の文章を修正するのではなく、既存規程・委員会規程・年間取締役会アジェンダ・資本配分方針・政策保有株式検証・CEOサクセッション・社外取締役への情報提供・株主対話・リスク管理等を横断的に点検し、実際の運用と開示が整合する状態を作る必要があります。SAKURA法律事務所では、必要に応じ、社内法務・経営企画・IR・人事・内部監査その他の関係部門と連携しながら、実務対応を整理することが可能です。

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SAKURA法律事務所

〒106-0032 東京都港区六本木一丁目4番5号 アークヒルズサウスタワー4F

代表弁護士 道下剣志郎

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主な参考資料

本文中の参照番号は以下の資料に対応します。法令、取引所規則、裁判例、行政指針及び実務上の提言は、法的性質を区別して参照してください。

1. 金融庁・東京証券取引所|コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定(2026年7月21日)

2. 金融庁・東京証券取引所|コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版、原文PDF)

3. 金融庁・東京証券取引所|Japan’s Corporate Governance Code(2026年改訂版、公式参考英訳PDF)

4. 東京証券取引所FAQ|2026年改訂コードを踏まえたガバナンス報告書の更新期限

5. 金融庁|上場会社の担当者の皆様へ(2026年7月、PDF)

6. 金融庁|スチュワードシップ・コード(第三次改訂版)の確定(2025年6月26日)

7. 金融庁|有価証券報告書の定時株主総会前の開示に向けた施策等の一覧

8. e-Gov法令検索|会社法(平成17年法律第86号)

9. e-Gov法令検索|金融商品取引法(昭和23年法律第25号)

免責事項

本稿は、2026年10月7日時点で公表されているコーポレートガバナンス・コード、金融庁・東京証券取引所の公表資料、会社法、金融商品取引法その他の公開情報に基づき、上場会社のコーポレートガバナンスに関する一般的な情報を提供することを目的として作成したものであり、特定の会社・取引・株主対応について法的助言又は法律上の結論を示すものではありません。実際の対応は、上場市場区分、機関設計、株主構成、支配株主の有無、会社規模、事業特性、経営戦略、資本構成その他の個別事情により異なります。

コーポレートガバナンス・コードの各原則は、法令とは異なり、それ自体として法的拘束力を有する規範ではありませんが、東京証券取引所の上場制度上、市場区分に応じてコンプライ・オア・エクスプレインへの対応が求められます。本稿においてコード上の「すべき」とする記載を紹介する場合も、会社法上の法的義務、金融商品取引法上の開示義務、上場規則上の遵守事項、コード上の原則・解釈指針を区別して理解する必要があります。

また、有価証券報告書の株主総会前開示、サステナビリティ開示その他の関連制度については、今後も法制・開示実務の見直しが行われ得ます。具体的な対応を行う際には、金融庁、東京証券取引所、法務省その他の関係機関による最新の法令・規則・ガイドライン・FAQ・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へ個別に相談してください。

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