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2026.10.29

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【SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 Legal Update】2026年1月1日施行 取適法(旧下請法)とサプライチェーン取引改革――価格協議、従業員基準、特定運送委託、支払適正化と2027年支払告示【2026年版】について公開いたしました。

LEGAL UPDATE 36 / 2026

初稿:2026年10月8日 | 改訂・公開資料確認:2026年10月22日

SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎

SAKURA法律事務所は、代表弁護士 道下剣志郎によるLEGAL UPDATE第36回として、取適法とサプライチェーン取引改革に関する本稿を公表します。

2026年1月1日、「下請代金支払遅延等防止法」は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」)へと改められた。2025年5月23日公布の令和7年法律第41号による改正である。名称変更の意義は、取引先を「下請」として一方的に管理する発想から、受託取引の公正化と価格転嫁を通じてサプライチェーン全体の持続可能性を確保する制度へ重点を移したことにある。もっとも、これは価格をいくらでも引き上げる義務を発注者へ課したという意味でも、従来の契約自由を全面的に否定したという意味でもない。法律の対象となる委託取引について、発注、協議、履行、決済の各段階で相手方に不合理な負担を転嫁しないための規律が、より明確に、そして広く適用されるようになったのである。 [⁠1⁠] [⁠3⁠] [⁠2⁠5⁠]

改正は、価格協議の要請に応じず一方的に代金を決める行為の禁止に加え、手形払の禁止、支払期日までに満額の現金化が困難な電子記録債権・一括決済方式に対する規律、資本金に依存しない従業員基準、物流における特定運送委託の新設を柱とする。さらに、発注内容の明示と取引記録の保存は、取適法第4条と第7条を中心とする新しい運用へ移行した。従来の発注書、購買約款、検収フロー、ERP、買掛金管理、外注先マスターを変更しなければ、法務部門が改正法を理解していても違反が日常の発注処理から自動的に発生するおそれがある。 [⁠1⁠] [⁠5⁠] [⁠1⁠1⁠]

規制環境も2026年中に具体化している。公正取引委員会は同年9月29日、製造委託及び特定運送委託を含む取引での支払遅延、手形交付、電子記録債権の利用をめぐり勧告を公表した。これは裁判所による有罪判断ではなく、取適法に基づく行政上の勧告であるが、法施行後の支払実務についてどのような事実が問題視されるかを端的に示している。また、同年6月には、取適法の適用対象外にも及ぶ独占禁止法上の新たな「支払告示」が制定され、2027年4月1日施行とされた。発注者は「自社に取適法が適用される取引だけ改めればよい」という対応では、次の制度変更に追いつけない。 [⁠1⁠3⁠] [⁠1⁠8⁠] [⁠1⁠9⁠]

本稿では、取適法を個々の禁止事項の一覧として紹介するのではなく、企業が取引の入口で適用関係を判定し、発注時の条件を特定し、費用上昇の協議を実質的に行い、支払方法と代金管理を変更し、物流・IT・知的財産を含む委託構造全体を統制するという順序で分析する。現行の取適法、独占禁止法、フリーランス・事業者間取引適正化等法、行政指針及び将来施行される支払告示の法的性格は区別し、その上で、取引契約と内部統制に何を反映すべきかを検討する。

本稿の要旨

取適法は2026年1月1日以降の発注に適用される。旧下請法から移行した現行法の適用は、物品の製造・修理、情報成果物の作成、役務の提供及び新設の特定運送委託という取引の内容と、取引当事者の資本金又は常時使用する従業員数の組合せで判定する。従業員基準は資本金基準が適用されない場合に補充的に用いられ、製造等の類型では300人、その他の情報成果物・役務類型では100人が分岐点になる。企業の資本金だけを見た一括判定や、親子会社・海外関係者・間接委託を形式だけで除外する運用は危うい。 [⁠1⁠] [⁠2⁠] [⁠5⁠] [⁠1⁠0⁠] [⁠1⁠1⁠]

改正の中心にあるのは、委託事業者による価格形成過程の公正化である。費用の変動その他の事情が生じ、中小受託事業者が協議を求めたのに、協議に応じず、又は協議で求められた事項について必要な説明若しくは情報を提供せず、一方的に代金を決定してその利益を不当に害することは、第5条第2項第4号の問題となる。他方、受注者の希望額を全額受け入れる義務が当然に生じるわけではない。原材料費、エネルギー費、労務費、取引条件及び生産性の変化を合理的に検討し、要求の受領から根拠資料、双方の説明、社内決裁、回答までを追跡可能な記録として残すことが重要である。 [⁠1⁠] [⁠5⁠] [⁠1⁠0⁠]

発注時には第4条に基づく明示、取引の進行に応じて第7条に基づく記録の作成・保存、受領日等を基準とした60日以内のできる限り短い期間内の支払期日管理が必要となる。記録は、必要事項をすべて記載又は記録し終えた日から2年間保存する。手形による支払は施行後の対象発注について禁止され、電子記録債権や一括決済方式でも所定の支払期日までに代金満額の金銭を受領できないものは許されない。振込手数料の控除、手形廃止に伴う名目を変えた減額、不当な金型の無償保管や契約外作業の強制は、財務・物流・購買の各部門が横断して見直す必要がある。 [⁠1⁠] [⁠6⁠] [⁠7⁠] [⁠8⁠] [⁠1⁠1⁠]

2027年4月1日に施行される独占禁止法上の支払告示は、2026年10月22日現在、制定済みだが未施行である。その対象・例外を、あらゆる商取引の支払を無条件に60日以内とする規律へ単純化してはならない。製造委託等という取引類型、受注者の相対的な取引上の地位及び正当な理由の有無を確認する必要がある。企業が構築すべきなのは、改正法名を契約書に追記する程度の対応ではなく、取引分類、価格交渉、明示・保存、支払・是正、経営層への報告を連動させる仕組みであり、これこそが取適法の実務対応の核心である。 [⁠1⁠8⁠] [⁠1⁠9⁠] [⁠2⁠0⁠]

第1章 「下請法から取適法へ」
――2026年改正の射程を取引プロセスから捉える

取適法は、受託取引において発注者の取引上の地位や情報優位を背景として生じやすい不公正な取扱いを予防するための特別法である。令和7年法律第41号により旧下請法と旧下請中小企業振興法が改正され、2026年1月1日に施行された。取適法の目的は、受託取引の公正化及び中小受託事業者の利益保護にあり、価格協議、支払及び物流を通じて取引条件の適正化を図ることにある。委託事業者・中小受託事業者という新たな用語の採用は、従来の一方的な「親事業者・下請事業者」という位置付けを制度的に見直す姿勢を示しているが、義務の有無を決めるのは用語の印象ではなく、条文上の取引内容・規模要件及び個別の行為である。 [⁠1⁠] [⁠3⁠] [⁠4⁠]

実務で特に誤りやすいのは、法改正の適用時点である。公正取引委員会は、2026年1月1日以降に発注された対象取引に新法の禁止行為等が適用される旨を明示している。例えば、前年に発注された案件の支払が2026年に行われたという一事をもって、当然にその発注全体へ新たな手形禁止規定が遡及適用されるわけではない。反対に、長期基本契約が2025年に締結されていても、2026年以降に個別発注がされるときは、新法上の検討が必要になる。契約日、個別発注日、給付受領日、役務提供日、代金支払日を別々に管理する必要があるのはこのためである。 [⁠1⁠1⁠]

また、改正法は「すべての中小企業との取引」を一律に規制するものではない。取引が法定の委託類型に当たり、かつ当事者間の規模要件を満たすことが必要であり、単に企業間で継続売買があることや価格交渉力に差があることのみで取適法が当然に適用されるものではない。他方、取適法が及ばない取引にも、独占禁止法上の優越的地位の濫用、フリーランス法その他の規律が重なり得る。労務費転嫁指針は、これらの法令上のリスクを検討する際に参照する行政指針であり、独立した法律ではない。したがって、購買コンプライアンスの入口で「取適法対象か否か」だけを判定して検討を終了するのではなく、その先に残る法的リスクを明示する二段階の審査が不可欠となる。 [⁠5⁠] [⁠1⁠2⁠] [⁠2⁠3⁠]

経営判断の観点からは、この改正は発注単価の問題にとどまらず、企業の利益率、運転資本、調達継続性、サプライヤー離脱リスク及びグループ取引の透明性に影響する。価格抑制が短期的な原価改善をもたらしても、それが受注者による品質投資や賃上げ、設備保全を困難にすれば供給障害が生じる。発注者側の法務は、違反を避けるための消極的な契約修正にとどまらず、安定供給を損なわない価格形成と支払条件を経営・購買・財務部門と設計する必要がある。

第2章 対象取引の判定
――従業員基準と特定運送委託が広げた適用領域

取適法の対象は、まず取引の性質によって定まる。製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託に加え、改正により特定運送委託が明文で加わった。製造・修理・特定運送、プログラム作成、運送・倉庫保管・情報処理等の政令で定める類型では、法人の発注者の資本金が3億円超で受注者が3億円以下、又は発注者が1,000万円超3億円以下で受注者が1,000万円以下という組合せが基本となる。その他の情報成果物作成・役務提供委託では、発注者が5,000万円超で受注者が5,000万円以下、又は発注者が1,000万円超5,000万円以下で受注者が1,000万円以下という組合せとなる。受注者が個人である場合も各類型の対象に含まれる。数値だけを表にして終わらせず、委託の内容から法定の類型を判定しなければならない。 [⁠1⁠] [⁠2⁠] [⁠4⁠]

資本金基準に該当しない場合、新設された従業員基準が適用される。前者の委託類型では法人である発注者が常時使用する従業員300人超、個人又は法人である受注者が300人以下、後者では法人である発注者100人超、受注者100人以下という組合せが重要になる。公正取引委員会の運用基準は、資本金基準が適用されない場合に従業員基準を適用すると整理しており、任意に有利な基準だけを選択する制度ではない。従業員数は法人グループの合計人数ではなく当該事業者ごとに判断され、賃金台帳の対象となる継続雇用の労働者を基本とするため、パートタイマーやアルバイトも一定の場合に含まれる。外注先の従業員数の確認それ自体を一律の法的義務とすることはできないが、基準値付近の取引先では発注時点の確認記録を残すことが合理的である。 [⁠1⁠] [⁠5⁠] [⁠1⁠0⁠] [⁠1⁠1⁠]

物流分野では、特定運送委託をどこまで把握できるかが実務の分岐点となる。例えば、製造業者が製造物を顧客へ納入するため運送事業者に運送を依頼する場合や、小売業者が販売した商品の顧客への配送を委託する場合は、所定の要件を満たせば対象となる。他方、自社工場から自社物流センターへの移動が常に特定運送委託になるわけではなく、輸送時点で特定の販売先に向けた配送経路の一部かどうかなどが問われる。輸送距離や「宅配便」というサービス名だけで分類することもできない。運送・荷役・待機を一括発注する契約では、法定の運送と附帯業務の切分け及び対価配分を発注書に反映しておく必要がある。 [⁠5⁠] [⁠1⁠0⁠]

IT・コンテンツ取引についても、完成物の性質と「業として行う」行為を見極める必要がある。とりわけ、自社利用の情報システムを外注すれば常に情報成果物作成委託となるわけではない。自ら用いる情報成果物については、発注者がその作成を業として行っているかという要件を具体的に検討する。システム部門の存在や潜在的な作成能力だけで、その実態に関する確認を代替すべきではない。プログラム開発、顧客へ提供するソフトウェア、デザイン、広告・映像制作、調査成果物を、同じ外注費の勘定科目だけで一括判定することはできない。 [⁠1⁠] [⁠5⁠] [⁠1⁠0⁠]

建設工事の請負そのものは取適法上の役務提供委託から除かれるが、建設会社が別途発注する建築設計・図面・建材製造・運送等は対象となり得る。親子会社間も法律上の一律の適用除外ではなく、実質的に同一会社内の取引とみられるものについて運用上問題とされていない場合があるにとどまる。外国企業が販売先であることも、日本国内で行われる特定運送委託の適用を当然に否定しない。業種、資本関係又は契約書の表題だけでは、これらの判断はできない。 [⁠1⁠] [⁠5⁠] [⁠1⁠0⁠]

したがって企業は、契約書の名称、成果物の種類、取引の流れ、双方の資本金・従業員、受領・提供の態様、再委託の有無を一つの「取引判定記録」にまとめるべきである。同一の取引先でも、プログラム開発、広告映像、運送、金型製作とでは結論が異なり得る。対象判定を法務部門の単独作業にせず、発注部門が業務内容を具体的に記載し、必要に応じ財務・人事情報を確認し、曖昧な案件を法務へエスカレーションする手順に落とし込むことが重要である。

第3章 発注と検収の法務
――第4条明示・第7条記録・60日支払を一体で設計する

取適法の実務対応は、契約締結後ではなく個々の発注の瞬間に始まる。委託事業者は第4条により、発注後直ちに必要事項を書面又は電磁的方法で明示しなければならない。委託する給付の内容、納期、納入場所、検査完了期日、代金額、支払期日等が確定しなければ、後日に仕様変更や検収不合格を理由とする減額の適否を検討する基礎が失われる。基本契約の一般条項に「詳細は別途協議」と記載するだけでは、個別の発注条件の明示を代替できない。発注書・注文メール・電子購買システムのどの方法を用いるにせよ、法定事項と変更履歴を後から特定できる設計が必要である。 [⁠1⁠] [⁠6⁠] [⁠9⁠]

電磁的方法による明示は、旧制度のように相手方の事前承諾を一律の条件とするものではない。他方、第4条第2項は、電磁的方法で明示を受けた中小受託事業者が書面の交付を求めたとき、規則所定の例外を除き、遅滞なく書面を交付することを求める。電子化を進める企業は、送信・閲覧・保存だけでなく、この請求を受け付けて処理する窓口も設ける必要がある。 [⁠1⁠] [⁠6⁠]

継続的な取引で共通する支払条件や検査手続をあらかじめ明示し、個別発注書からその共通条件との関連性を示す運用は認められる。明示事項を定められない正当な理由がある場合には、未定の事項、理由及び定める予定期日を示し、確定後直ちに補充の明示を行う。代金額の確定がやむを得ず困難な場合には、具体額が客観的に定まる算定方法を明示する余地もあるが、確定した金額は速やかに通知する必要がある。これらは、価格が不確定のまま実作業を開始させ、納品後に発注者が裁量で都合のよい金額を決めてよいという意味ではない。そのような運用は、明示義務、協議に応じない代金決定、買いたたき等の問題を重ねて生じさせる。 [⁠5⁠] [⁠6⁠] [⁠1⁠0⁠]

第7条及び記録保存規則は、委託内容、給付受領日、検査結果、変更・やり直しの内容と理由、代金額・支払状況等を、事実の発生に応じて記録することを求める。同規則第3条の保存期間は、必要事項をすべて記載又は記録し終えた日から2年間であり、発注日や最初の納品日から一律に数えるものではない。電磁的記録には、訂正・削除の履歴、明瞭な表示・出力、検索等について所定の要件もある。行政調査で発注時の合意と後日の履行を再現できるよう、現場のチケット管理、承認ログ、見積改定、ERP上の検収データを接続する必要がある。最終請求書だけを保存する運用では、追加作業や減額の理由まで説明できない。 [⁠1⁠] [⁠7⁠] [⁠9⁠]

第3条は、給付の検査の有無にかかわらず、物品等の受領日又は役務提供日を基準に、60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めることを求める。請求書の到着や社内検収の遅れを理由として起算点を後ろへずらすことはできない。また、60日という上限は、適法に定めたそれより早い支払期日を守らなくてよいという猶予期間ではない。第5条第1項第2号は、定められた支払期日の経過後も支払わないことを禁止する。購買側が「支払サイト60日」と認識していても、会計システムの日付項目と実際の決済日がこの規律に一致しているかを検査する必要がある。 [⁠1⁠] [⁠9⁠] [⁠1⁠0⁠]

遅延利息も二つの場面を区別する。第6条第1項は、支払期日までに代金を支払わなかった場合について、給付受領日等から起算して60日を経過した日から支払日まで、未払額に所定の率を乗じた利息を求める。第2項は、受注者の責めに帰すべき理由なく減額した場合について、減額日と受領日等から60日を経過した日のいずれか遅い日から、減額分を支払う日までを対象とする。規則の率はいずれも年14.6%である。支払遅延の成立時点と法定の遅延利息の起算点を混同せず、是正時には元本の支払・返還だけでなく利息も精査すべきである。 [⁠1⁠] [⁠4⁠] [⁠8⁠]

契約実務では、検査条項、保証条項、修補・再製作条項、相殺条項が取適法の強行的な規律を潜脱しないよう注意が必要である。例えば、受注者の責めに帰すべき事由のない納品拒否や一方的な返品、発注後の無条件な値引き、発注者の都合によるやり直し費用の押付けは、契約条項が存在することや相手方が形式的に同意したことだけで適法になるものではない。適切な仕様と検収基準を事前に定め、瑕疵・不適合が生じた場合には原因と費用負担を証拠に基づき整理することが、紛争予防と支払管理の双方に資する。 [⁠1⁠] [⁠5⁠] [⁠2⁠6⁠]

第4章 価格協議の実質化
――一方的な代金決定を避けながら合理的な価格を形成する

2026年改正における重要な変化は、価格をいくらにするかという結論だけでなく、その形成過程が規制上の評価対象となったことである。第5条第2項第4号と同項柱書は、給付に関する費用の変動その他の事情、受注者からの協議の求め、協議の拒否又は協議で求められた事項についての必要な説明・情報提供の欠如、一方的な代金決定による中小受託事業者の利益の不当な侵害を問題とする。従来の買いたたき規制が、同種・類似の給付に通常支払われる対価に比べて著しく低い価格を不当に定めることを捉えるのに対し、新たな規定は協議の実質を別の観点から問う。発注者自身が最終価格を合理的と考えていても、その決定過程に関する問題が当然に解消するわけではない。 [⁠1⁠] [⁠5⁠] [⁠1⁠0⁠]

この違いを理解しなければ、企業の対応は二つの極端に陥る。一方では、受注者から価格改定の申入れがあっても「予算がない」「全社共通の単価表である」と通知するだけで、協議した事実を形式的に作ろうとする。他方では、新法の施行により受注者の希望する値上げにすべて応じなければ違法になると誤解する。しかし、新法は値上げ要求を無条件に承諾する義務を定めるものではない。双方が合理的な資料に基づいて交渉し、その結果として希望額の一部又は全部を受け入れない場合でも、交渉の実態及び価格決定の合理性によって評価が分かれる。公正取引委員会の取適法Q&Aも、この区別を明示している。 [⁠1⁠0⁠]

労務費の転嫁については、内閣官房と公正取引委員会が策定し2026年1月1日に改正した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が有力な判断資料となる。同指針は、発注者の経営トップが関与し、受注者からの申入れを待つだけでなく協議の機会を設け、最低賃金や春季労使交渉等の公表資料を尊重し、合理的な説明を行い、交渉記録を残す行動を求める。ただし、同指針は法律の条文と同じ性格の新たな罰則付き義務ではなく、独占禁止法・取適法上のリスクを判断し予防するための行政指針である。この法的位置付けを踏まえた上で、社内の値決め手続へ実装すべきである。 [⁠1⁠2⁠]

実際の交渉では、原材料費・エネルギー費・労務費の上昇、公表指数、為替変動、輸送費、設備更新、工程変更、需要見通しといった資料が重要となる。発注者が受注者に対し、公開情報で説明可能な労務費上昇について企業秘密に近い原価明細まで一律に要求し、提出がない限り交渉しないとする対応は、実質的な協議を妨げるおそれがある。他方、受注者側も、値上げの根拠を整理し、要求時期・対象品目・価格改定率を明確にして交渉に臨むことが望ましい。受注者が下位の取引先の費用を適切に転嫁できるかという点も、サプライチェーン全体の価格形成として考慮すべきである。 [⁠1⁠0⁠] [⁠1⁠2⁠]

競争入札であっても、名称だけで適法性は決まらない。公正取引委員会のQ&Aが示すように、取引条件について必要な情報が示され、受注者が自由な意思で入札価格や応募の可否を判断できるかなど、具体的な手続が重要である。相見積りを取得したという事実や、一度は応募を断れるという形式をもって、協議拒否や情報提供の欠如を常に正当化することはできない。 [⁠1⁠0⁠]

企業法務が設計すべきは「協議したことにする」ための記録ではなく、説明責任を果たせる価格交渉プロセスである。調達担当者が申入れを受領した日、提出資料、検討した費目、社内で採否を判断した理由、再提案の有無、回答の時期を残し、一定額以上の価格改定や例外的な据置きについては決裁権限とエスカレーションを定める。価格協議を求めたことのみを理由とする不利益な取扱いは避けるべきであるが、当局への申告を理由とする報復措置の法定禁止とは根拠と要件を区別して理解する必要がある。価格交渉を透明化することは、法的防御のためだけでなく、長期の調達戦略とサプライヤーの事業継続を両立させる意思決定の質を高める。 [⁠1⁠] [⁠1⁠2⁠]

第5章 手形・電子記録債権・減額の実務
――財務システムの変更までが法令対応である

2026年1月1日以降の取適法対象の発注について、手形を交付して代金を支払うことは禁止された。さらに、電子記録債権や一括決済方式を用いる場合でも、法定の支払期日までに製造委託等代金に相当する金銭の満額を受け取ることが困難なものは、支払遅延として問題となる。ここで重要なのは、現金化が理論上可能であることと、受注者が割引料等の負担なしに代金満額を期日までに受領できることは同じではないという点である。資金化コストを受注者へ転嫁する決済方式を「電子化したから適法」と扱うことはできない。 [⁠1⁠] [⁠1⁠0⁠] [⁠1⁠1⁠]

口座振込の手数料も、従来の取引慣行を機械的に維持できない領域である。あらかじめ合意していたからという理由で振込手数料を受注者負担として代金から差し引く運用は、受注者に責任がない減額として禁止される。さらに、公正取引委員会は、手形払を現金払へ変更する際に資金調達のための「割引料」を差し引くことや、振込手数料を委託事業者負担に変更する代わりに従前の単価を一方的に引き下げることも、減額、買いたたき又は協議を欠く一方的代金決定に該当するおそれがあると説明している。単に支払方法のコードを変更するだけでは足りず、価格決定と経理処理を一体として見直さなければならない。 [⁠1⁠0⁠] [⁠1⁠1⁠]

2026年9月29日の株式会社不二製作所に対する勧告は、支払方法の形式と実態を区別する必要を示す。公表資料には、製造委託先44名、特定運送委託先2名が記載され、60日以内の未払が1名、同年2月から5月の手形交付が5名、期日までの満額の金銭化が困難な電子記録債権の利用が40名について示されている。勧告では、46名に対する支払が遅延した代金及び遅延利息等の支払が求められた。第5条第1項第2号の支払遅延を理由とする第10条第1項の勧告は、代金及び遅延利息等の是正を求める行政上の措置であり、民事上の全争点や刑事上の有罪を確定するものではない。手形を廃止したはずの企業でも、旧条件が部門・取引先ごとに残ることへの警告として読むべきである。 [⁠1⁠3⁠]

支払条件と同じ程度に注意すべきなのが、発注後の減額、受領拒否、返品、購入・利用強制、不当なやり直し、金型・治具の無償保管である。例えば、取引数量が減少して製造に使用しなくなった金型を、発注者の指示で受注者が長期間無償保管する構造は、不当な経済上の利益の提供要請の問題を生じ得る。これとは別に、代金控除の事例として、公正取引委員会は2026年9月9日、株式会社トリドールホールディングスが卸売業者を介して37名の受注者に食品の製造を委託し、代金から「システム利用料」名目で一律1.1%を差し引いていた取扱いについて、旧下請法及び取適法に基づき勧告した。2025年12月以前と2026年1月以降の発注に適用する法令を区別した点にも意味がある。名目を「協力金」「システム費」「品質調整金」としても、受注者の責めに帰すべき理由なく発注時に定めた代金を減らす実態があれば、評価は変わらない。 [⁠5⁠] [⁠1⁠4⁠] [⁠2⁠6⁠]

広告業に対する2026年6月29日公表の集中調査も、業務の外形より運用を確認する意義を示している。公正取引委員会は、発注内容の明示、制作内容の変更、手形・電子記録債権、振込手数料等の問題を把握し、71件の指導を行ったと公表した。対象には旧法から新法への移行期の取引が含まれ、この件数を新法施行後の刑事事件数や勧告件数と読み替えることはできない。制作現場、購買部門、経理部門が別々の記録を持っている場合こそ、その突合が必要となる。 [⁠1⁠5⁠]

企業としては、発注書の金額と支払実績をサプライヤー単位で突合し、手形・電子記録債権・一括決済の現金化日、振込手数料、相殺・控除項目、支払期日、受領日等を例外検知できるようにする必要がある。購買部門が適法に発注しても、経理システムが旧条件のまま「月末締め翌々月末払」を機械的に計算すれば、案件によって60日を超過し得る。財務部門による資金繰りへの影響評価、取引先への変更通知、基本契約・発注条件の見直しと、実際の入金日を検証する事後監査を同時に進めなければ、改正対応は完成しない。

第6章 物流・IT・知財・フリーランス取引
――契約名称を超えて取引の実質を把握する

2026年改正の影響は、製造業だけに限定されない。特定運送委託の新設により、荷主が自社の販売・製造・修理等に係る物品を取引先へ運ぶために運送を依頼する場面も、法定要件を満たせば対象となった。従来、荷主から元請運送業者への取引と、運送事業者から再委託先への取引との間にあった規律の差を縮小するものである。もっとも、倉庫内作業や荷待ち時間は、運送と常に同一の法的給付になるわけではない。目的地、発着地、運送と附帯作業の内容、作業主体、荷主・着荷主の指示系統を契約で明確にし、無償の荷下ろし・長時間待機を運送会社へ常態的に負担させることのない運用を考える必要がある。 [⁠1⁠] [⁠5⁠] [⁠1⁠0⁠]

別の制度として、公正取引委員会は2026年6月17日に物流特殊指定の改正を公表し、同月18日付の改正告示を2027年4月1日から施行することとした。取適法の特定運送委託は2026年1月から既に適用されているが、物流特殊指定は独占禁止法上の別の規律である。改正には、所定の特定着荷主の行為により特定発荷主の利益を不当に害する場合の規律も含まれ、物流に関与するすべての者へ同一の直接義務を課す制度と理解してはならない。運送会社だけでは解消できない長時間荷待ちや契約外作業について、適用主体・行為・施行時期を確認しつつ、荷主間の調整と費用負担を契約化することが課題となる。 [⁠2⁠0⁠] [⁠2⁠1⁠]

ソフトウェア、デザイン、ゲーム、広告、動画制作等の情報成果物作成委託では、著作権やノウハウの帰属も受託取引の公正性と切り離せない。発注書に成果物の範囲を示さないまま企画の追加修正を要求したり、採用しなかったデザインの権利まで無償取得したり、仕様変更に伴う工数を支払わずに再制作させたりすれば、給付内容の不当な変更・やり直し又は経済上の利益提供要請の問題が生じ得る。知的財産の譲渡・利用許諾が契約上有効に合意されているとしても、その範囲と対価が発注条件として十分に特定され、適正な価格形成が行われているかを併せて確認する必要がある。 [⁠5⁠] [⁠1⁠6⁠] [⁠1⁠7⁠]

この点について、公正取引委員会・中小企業庁・特許庁は2026年6月24日に知的財産取引に関するガイドラインを策定し、公正取引委員会は同年10月1日に取適法及びフリーランス法の運用基準等の改正を公表した。知的財産、ノウハウ、データについて、何を給付内容とし、どの権利をどの対価で取得するのかを、発注・協議・記録の中で明確にする必要性が増している。ガイドラインの策定自体を新たな刑罰法規の創設と扱うべきではないが、形式的な権利譲渡条項だけで取引の公正性を説明できるという理解は改めるべきである。 [⁠1⁠6⁠] [⁠1⁠7⁠]

自社で使う一般的な弁護士業務・会計業務等の委託は、通常、他者へ業として提供する役務の再委託に当たらず、取適法上の役務提供委託には該当しない。建設工事の請負そのものにも別途の建設業法上の規律がある。他方、IT、制作、設計、物流等が混在する業務を「サービス契約」と呼ぶだけでは適用判断を免れない。個人事業主への委託にはフリーランス法も関係し、公的指針は同一の行為が双方に違反する場合に原則として同法を優先適用する取扱いを示しているが、これは行政上の重複処理の問題である。取適法の対象判定や固有の義務を検討しなくてよいという意味ではなく、各法の要件を個別に確認する必要がある。 [⁠1⁠] [⁠5⁠] [⁠2⁠3⁠] [⁠2⁠4⁠]

さらに、取引に商社やグループ会社、調達代行業者が介在する場合、形式上の契約主体だけでなく、仕様の決定、価格交渉、発注承認、代金支払の実態を見なければならない。公正取引委員会のQ&Aは、商社が実質的に発注へ関与せず事務代行にとどまる場合には元の発注者が委託事業者となり得ると整理している。複数の契約を組み合わせて支払や交渉の責任主体を不明確にするほど、調査・紛争時の説明は困難になる。海外本社が調達条件を決定し、日本法人が発注・支払を行う場合や、海外顧客向け商品の国内配送を委託する場合も、具体的な国内取引に即した整理が必要である。 [⁠1⁠0⁠]

第7章 2027年支払告示と取引ガバナンス
――購買・法務・財務の統合対応

「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」は、2026年6月18日付の公正取引委員会告示第3号であり、2027年4月1日に施行される。取適法そのものの再改正ではなく、独占禁止法上の特定の不公正な取引方法を指定する別の制度である。対象となる取引は取適法第2条第6項の製造委託等を基礎とし、同法の資本金・従業員の規模要件を用いない。他方、国・所定の公的主体は除かれ、発注者に対し取引上の地位が劣っていないと認められる受注者も対象から外れる。規模要件がないことを、すべての企業間売買・支払に適用されるという意味へ拡張してはならない。 [⁠1⁠8⁠] [⁠1⁠9⁠]

対象取引では、給付受領日等から60日を経過した後も代金を支払わないことが、正当な理由がある場合を除き禁止される。運用基準は、受注者の責任に関わる事情や、取引上の合理的な理由に基づく委託前の実質的な合意や、十分な時間的余裕をもって事前に同意を得て通常生ずべき損失を発注者が負担する場合等を検討対象としている。しかし、契約書への形式的な署名や業界慣行への言及だけで、正当な理由が認められるわけではない。物品・役務の性質、支払期間を必要とする実態、実際の交渉、資金負担等の取扱いを踏まえて判断する必要がある。経理システムに「合意済み」という例外区分を置くだけでは、この審査を行ったことにならない。 [⁠1⁠8⁠] [⁠1⁠9⁠]

さらに重要なのは、支払告示の例外を取適法対象取引へ持ち込まないことである。両制度に抵触する行為については原則として取適法を優先適用するという運用が示されており、同法の支払期日規制を当事者間の合意で一般的に延長できるわけではない。発注者は、現に適用される取適法の規律と、2027年から適用される告示の対象・例外を別々に判定した上で、実務上可能な限り短い支払期間へ統一することを検討すべきである。改正物流特殊指定も同日施行されるが、規律する関係と行為は同一ではない。 [⁠1⁠] [⁠1⁠8⁠] [⁠1⁠9⁠] [⁠2⁠0⁠]

企業の実装順序としては、まず取引マスターの適用区分を整理し、発注時の法定明示事項を必須項目化し、価格改定の申入れを統一窓口で受領する仕組みを設ける。その上で、購買担当者に協議権限・説明責任・例外承認ルールを与え、財務部門が支払期日の起算点、手数料、現金化条件、控除項目を月次で検証し、法務部門が調達契約と行政対応を監督する。取引先に対して一方的な監査資料提出を要求するだけでは、信頼と交渉の基盤を損なう。受注者の規模や取引形態に応じた合理的なデータ確認を行い、改善指示や例外処理も記録することが望ましい。

違反の疑いが発見された場合には、発注・受領・支払等の証拠を保全し、対象期間と取引先を特定した上で、未払・控除額及び遅延利息の精査、必要な返金・是正、支払条件の変更、担当部門への教育、再発防止措置へ進むべきである。2026年6月公表の令和7年度の運用実績には、旧下請法の適用期間に属する処理と2026年1月以降の取適法処理が含まれるため、その数字を新法施行後の違反件数だけと理解してはならない。公正取引委員会の勧告は行政上の措置であり、これを直ちに民事訴訟の勝訴判決や刑事有罪と同視することも適切ではない。事案に応じ、当局への説明と受注者への対応を整合させる必要がある。 [⁠2⁠2⁠]

最終的に問われるのは、企業が取引適正化を持続的な経営管理へ組み込めているかである。取締役会及び経営会議には、調達先の価格改定要請、60日を超える支払、契約外作業、金型等の無償保管、サプライヤー離脱、行政からの照会、2027年支払告示への移行状況等を、監督に必要な粒度で報告する体制が望ましい。受注者側にとっても、発注条件、協議記録、原価上昇資料、受領・支払記録を整備することは、正当な価格交渉や債権回収の基礎となる。取適法対応は法令順守に閉じた作業ではなく、価格形成と資金の流れを可視化することによって企業価値と取引先の持続可能性を両立させる実務である。

FAQ

Q1 2026年からの取適法は、どの取引にいつから適用されますか。

2026年1月1日以降に発注された、製造・修理・情報成果物作成・役務提供・特定運送のうち法定の類型と規模要件を満たす取引が対象です。2025年の基本契約を継続していても、新年以降の個別発注は別途判定します。 [⁠1⁠] [⁠1⁠1⁠]

Q2 取適法の従業員基準は、資本金基準と自由に選択できますか。

いいえ。資本金基準が適用されない場合に従業員基準を適用します。対象類型に応じ、発注者が300人超で受注者が300人以下、又は発注者が100人超で受注者が100人以下という双方の組合せで判断します。各事業者について、発注時点の法定の人数を確認することが基本です。 [⁠1⁠] [⁠5⁠] [⁠1⁠0⁠]

Q3 取引先の従業員数を毎回証明書で確認する法的義務がありますか。

人数を確認する行為そのものが一律の法的義務ではありません。ただし、基準値付近の取引先や従業員数の変動が大きい取引先では、記録の残る方法で確認し、対象判定を更新することが実務上有用です。 [⁠1⁠0⁠] [⁠1⁠1⁠]

Q4 取引先から値上げを求められたら、必ず希望額を認めなければ違法ですか。

必ずしもそうではありません。第5条第2項第4号は、費用変動等の事情の下で協議を拒み、又は必要な説明・情報提供を欠いて一方的に代金を決め、受注者の利益を不当に害する行為を問題とします。実質的な協議と合理的な説明を経て、希望額の全部又は一部を受け入れない場合もあり得ます。 [⁠1⁠] [⁠5⁠] [⁠1⁠0⁠]

Q5 発注内容を電子メールや購買システムで明示してもよいですか。

所定の電磁的方法を用いることは可能です。発注後直ちに必要事項を明示し、共通条件との関連性や未定事項の補充を管理してください。電子明示を受けた相手方から書面交付を求められた場合には、第4条第2項及び規則の例外を確認し、原則として遅滞なく書面を交付する必要があります。 [⁠1⁠] [⁠6⁠]

Q6 60日の支払期限は検収完了日や請求書到着日から数えますか。

原則として物品等の受領日又は役務提供日が基準です。社内検収や請求書処理の遅れによって起算点をずらすことはできません。また、60日より早い支払期日を適法に定めた場合、その期日を過ぎても60日までは支払わなくてよい、ということにはなりません。 [⁠1⁠] [⁠9⁠] [⁠1⁠0⁠]

Q7 2026年以降も手形やでんさいで支払うことはできますか。

取適法対象の2026年1月1日以降の発注について手形交付は禁じられます。電子記録債権や一括決済方式も、支払期日までに代金満額の金銭を受け取ることが困難なものは支払遅延として問題となります。名称より実質的な資金化条件が重要です。 [⁠1⁠] [⁠1⁠0⁠] [⁠1⁠1⁠]

Q8 相手方が同意していれば、振込手数料を代金から差し引けますか。

取適法対象の発注では、事前の合意があっても、受注者に責任がない振込手数料を代金から控除することは減額の禁止に抵触します。負担変更に合わせて単価を一方的に引き下げる場合も別途検討が必要です。ここで述べる行政規制上の禁止と、個別契約の私法上の効力は区別して判断します。 [⁠1⁠0⁠] [⁠1⁠1⁠]

Q9 自社工場から物流センターへの運送も特定運送委託ですか。

一律にはいえません。特定の販売先等へ向けた配送経路の一部か、配送先が未確定の拠点間移動かなど、取引の目的と実態によって判断が異なります。契約上の運送範囲と荷待ち・荷役の費用負担も整理してください。 [⁠5⁠] [⁠1⁠0⁠]

Q10 フリーランスとの業務委託には、どちらの法律が適用されますか。

双方の適用要件を満たす場合があります。両法に違反する行為の行政上の取扱いについては原則としてフリーランス法が優先適用される旨の公的説明がありますが、取適法対象の判定自体が不要になるわけではありません。委託内容、相手方の事業形態及び各法の要件を区別して検討します。 [⁠2⁠3⁠] [⁠2⁠4⁠]

Q11 2027年の支払告示によって、すべての企業間支払が無条件に60日以内となりますか。

なりません。支払告示は取適法の再改正ではなく、2027年4月1日施行の独占禁止法上の別の告示です。製造委託等の範囲、主体の除外、受注者の相対的な取引上の地位及び正当な理由の有無を確認します。告示の例外を、現行の取適法対象取引の支払期限を一般的に延長する根拠として用いることもできません。 [⁠1⁠8⁠] [⁠1⁠9⁠]

Q12 違反の疑いが見つかった場合、何を保全し、何を是正すべきですか。

発注・受領・支払データ、契約、明示事項、協議及び変更の記録を保全し、適用法、取引先、期間、金額を特定します。未払額・減額分に加え、第6条による遅延利息を区別して精査し、支払・返還、契約・システム変更、当局対応、教育と経営報告を連動させます。第7条の記録は、必要事項をすべて記載又は記録し終えた日から2年間の保存が必要です。 [⁠1⁠] [⁠7⁠] [⁠8⁠]

代表弁護士 道下剣志郎「Legal Update」について

SAKURA法律事務所の代表弁護士 道下剣志郎(Kenshiro Michishita)は、企業法務、M&A、クロスボーダー取引、金融規制、IT・AI、企業不祥事・危機管理、紛争対応等の実務上の論点を対象に、法令・監督資料・公表事例等の一次資料を踏まえた「Legal Update」を継続的に公表しています。本シリーズは、制度の概要を紹介するだけでなく、企業の経営判断、契約設計、ガバナンス及び実際の取引運用に法制度をどう反映するかを検討することを目的としています。第36回では、調達部門・財務部門・法務部門・経営陣の判断が交錯する取適法を取り上げ、受託取引の法的分類から価格協議、決済、行政調査、2027年の支払改革までを一体として論じました。

代表弁護士の経歴・取扱分野については、道下剣志郎プロフィールをご参照ください。関連する法務サービスについては、SAKURA法律事務所公式サイトに掲載しています。 プロフィール / 事務所公式サイト

SAKURA法律事務所に相談できる事項

SAKURA法律事務所では、企業の調達・委託取引に関し、取適法の適用対象判定、資本金・従業員基準と取引類型の整理、基本取引契約書・発注書・購買約款のレビュー、価格改定・労務費転嫁に関する協議方針及び記録制度の構築、支払期日の見直し、手形・電子記録債権・一括決済方式の法的評価、振込手数料・控除項目・金型保管・契約外作業のリスク検証について相談を受けることが可能です。

製造業・物流業だけでなく、システム開発、広告・映像制作、デザイン、ソフトウェア、建設周辺業務など、複数の委託類型が交錯する取引では、業務実態と契約上の責任分担を整理した上で、知的財産の取扱い、仕様変更・検収・支払、フリーランス法及び独占禁止法との関係を総合的に検討する必要があります。海外企業が日本企業を通じて委託を行う場合や、グループ内の集中購買・商社経由の調達等についても、実際の発注主体と取引の流れを踏まえた対応が考えられます。

公正取引委員会・中小企業庁等の照会への対応、違反の疑いが生じた場合の事実調査と是正、受注者側の代金・価格協議に関する交渉、契約上の紛争予防にも、個別事実と最新の法令・公表運用を踏まえて対応します。2027年4月施行の支払告示を見据えた経理・購買システムの法的要件整理や内部規程の改定についても、契約条項だけに終わらない継続的な法務管理を設計することが重要です。

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主な参考資料

本文・FAQの参照番号と下記資料名は、対応する公式資料へのリンクです。法令の日本語正文、行政の運用基準、参考英訳は法的位置付けが異なります。2025年11月のテキストは法令本文等の確認に用い、2026年10月の運用改正は資料5・17で別途確認しています。

1. e-Gov法令検索|製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(昭和31年法律第120号、2026年1月1日施行版)

2. 公正取引委員会|取適法施行令を含む法令・規則等の公式掲載ページ

3. 公正取引委員会|令和7年法律第41号の成立(2025年5月16日)

4. 公正取引委員会・中小企業庁|中小受託取引適正化法テキスト(2025年11月。法令本文を収録)

5. 公正取引委員会|取適法の運用基準(2026年10月1日改正を反映)

6. 公正取引委員会|取適法第4条の明示に関する規則

7. 公正取引委員会|取適法第7条の書類等の作成及び保存に関する規則

8. 公正取引委員会|取適法第6条第1項及び第2項の率を定める規則

9. 公正取引委員会|委託事業者の義務

10. 公正取引委員会|よくある質問コーナー(取適法)

11. 公正取引委員会|取適法施行に当たり事業者の皆様に御留意いただきたい事項

12. 内閣官房・公正取引委員会|労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(2026年1月1日改正)

13. 公正取引委員会・中小企業庁|株式会社不二製作所に対する勧告等(2026年9月29日)

14. 公正取引委員会|株式会社トリドールホールディングスに対する勧告(2026年9月9日)

15. 公正取引委員会|広告業における集中的な取適法調査(2026年6月29日)

16. 公正取引委員会・中小企業庁・特許庁|知的財産取引に関するガイドラインの策定(2026年6月24日)

17. 公正取引委員会|取適法及びフリーランス法の運用基準等の改正(2026年10月1日)

18. 公正取引委員会|製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法(2026年6月18日告示第3号、2027年4月1日施行)

19. 公正取引委員会|支払告示の運用基準(2026年6月18日)

20. 公正取引委員会|特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合等の特定の不公正な取引方法(2027年4月1日施行版)

21. 公正取引委員会|支払告示及び物流特殊指定改正に関する事務総長定例会見(2026年6月17日、英語)

22. 公正取引委員会|令和7年度における取適法の運用状況等(2026年6月10日)

23. 公正取引委員会|フリーランス法特設サイト

24. 内閣府・公正取引委員会|アニメの制作現場における取引の適正化に関する指針(2026年6月22日。関係法令の重複適用に関する説明を参照)

25. 公正取引委員会|取適法の英語参考訳(日本語の現行法が基準)

26. 公正取引委員会|委託事業者の禁止行為

免責事項

本稿は、2026年10月22日までに確認した取適法、関連規則・運用基準、公正取引委員会・中小企業庁等の公式一次資料に基づき、企業の取引適正化に関する一般的な法的・実務的情報を提供するものであり、個別案件の法律意見又は代理対応を提供するものではありません。具体的な適用関係は、取引の性質、当事者の資本金・従業員数、発注時点、価格協議、契約、支払手段その他の事実により異なります。

取適法、独占禁止法、フリーランス法、建設業法その他の法令には適用範囲と重複関係の違いがあります。行政の運用基準・Q&A・指針は法令そのものと同一ではなく、勧告・指導、民事責任及び刑事判断も区別する必要があります。実務上の提言は、個別の取引を検討するための分析であり、すべてが一律の法定義務であることを意味しません。日本法の英訳は参考資料であり、解釈は現行の日本語正文を基準とします。

支払告示及び改正物流特殊指定は2027年4月1日施行であり、本稿の資料確認日現在は未施行です。公表事例の評価は当該公表内容に限り、同種取引全体の違法性を断定するものではありません。具体的な契約変更、是正又は当局対応に際しては、最新の法令・公式資料と事実関係を確認してください。

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