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2026.09.30

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【SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 Legal Update】外国企業が日本でビジネスを始める際に知っておくべき法務――会社設立、契約、雇用、個人情報、外資規制及び紛争対応【Doing Business in Japan 2026】について公開いたしました。

SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下剣志郎 Legal Update

2026年9月24日

SAKURA法律事務所 代表弁護士 道下 剣志郎

SAKURA法律事務所は、このたび、代表弁護士 道下剣志郎によるLegal Update第12弾として、「外国企業が日本でビジネスを始める際に知っておくべき法務――会社設立、契約、雇用、個人情報、外資規制及び紛争対応【Doing Business in Japan 2026】」を公開いたしました。

外国企業が日本市場へ進出する際、「日本法人を設立すれば事業を開始できる」と理解されることがあります。しかし、日本進出の法務は会社設立だけで完結するものではありません。どの形態で日本へ進出するか、誰を代表者とするか、どの業種を営むか、外国投資規制が適用されるか、必要な許認可は何か、誰を雇用するか、どの情報を取得するか、どの契約で取引するか、紛争が生じた場合にどの法域・裁判所で解決するかという一連の設計が、事業開始後の法的安定性を左右します。

日本は、外国企業による投資・事業活動を広く受け入れており、株式会社又は合同会社による子会社設立、外国会社の支店設置、一定の準備活動に限定した駐在員事務所の設置等、複数の進出形態が認められています。他方、日本国内で事業を行う以上、外国企業であることを理由として労働法、個人情報保護法、消費者法、独占禁止法その他の国内法の適用を免れるわけではありません。

さらに2026年は、日本進出を検討する外国企業にとって重要な制度変更が重なる年です。2025年10月には在留資格「経営・管理」の許可基準が大幅に見直され、2026年7月には改正個人情報保護法が公布されました。2026年10月1日からはカスタマーハラスメント防止措置が事業主の義務となり、同年12月1日からは改正公益通報者保護法が施行されます。また、外国投資審査についても、2027年から改正外為法が施行・全面適用される予定です。

したがって、外国企業の日本進出において重要なのは、設立登記を最短で終えることではありません。事業計画、規制、契約、人事、データ、知的財産及び紛争対応を、日本で実際に事業を運営できる一つの法務基盤として整えることです。

本稿では、2026年9月24日時点の法令及び公的資料を踏まえ、外国企業が日本で事業を開始する際に確認すべき主要な法的論点を、進出形態の選択から事業開始後のコンプライアンスまで、実務の流れに沿って解説します。

本稿の要旨

外国企業が日本で事業を開始する場合、最初に決めるべきことは「株式会社を作るか」ではなく、日本で何を行い、誰が契約主体となり、どの程度の責任・税務・規制・人員・情報管理を日本側に持たせるかという事業設計です。市場調査等に限定する駐在員事務所、外国本社と同一法人で事業を行う支店、日本法人として独立した責任主体となる子会社では、法的性質が大きく異なります。

日本で継続的に取引を行う外国会社には会社法上の登記規制があり、支店では外国本社が最終的な債務責任を負います。他方、株式会社又は合同会社として設立する日本子会社は外国親会社と別法人であり、ガバナンス、資金調達、従業員雇用、契約、許認可及び将来のM&Aを含めて、日本事業を独立して運営しやすいという特徴があります。

外国企業は、会社設立と並行して、外為法上の対内直接投資規制及び事後報告、業種別許認可、在留資格、銀行口座、労働・社会保険、個人情報保護、知的財産、消費者法、競争法、税務及び紛争解決を確認する必要があります。特に金融、決済、暗号資産、保険、通信、医療・医薬、職業紹介・労働者派遣、不動産その他の規制業種では、法人が設立されても必要な登録・許可等を取得しなければ事業を開始できない場合があります。

また、日本法の適用は日本法人の有無だけでは決まりません。個人情報保護法には一定の域外適用があり、日本にいる個人へ商品・サービスを提供する外国事業者が国外で日本の個人に関する個人情報を取り扱う場合にも適用され得ます。日本の顧客へオンラインサービスを提供する企業は、「日本法人を作っていないから日本法は関係ない」と考えるべきではありません。

SAKURA法律事務所では、外国企業の日本進出について、会社設立そのものだけでなく、進出形態、外資規制、契約、雇用、データ、知的財産、業法規制、M&A及び紛争対応を横断し、日本事業全体の法的基盤を設計することが重要であると考えています。

1 日本進出の法務は「会社設立」から始まるのではない

外国企業から日本進出の相談を受ける際、最初の質問として「株式会社と合同会社のどちらがよいか」と尋ねられることがあります。しかし、会社形態の選択は、日本で行う事業の内容、契約主体、資金の流れ、責任分配、必要な許認可、人員計画、将来の資金調達又はM&A等を確認した後に行うべき判断です。

例えば、日本では市場調査及び広告活動のみを行い、売上を計上しないのであれば、駐在員事務所という選択肢があり得ます。他方、日本で顧客と契約し、商品又はサービスを継続的に提供するのであれば、通常は支店又は日本子会社その他の事業拠点を検討する必要があります。日本で従業員を雇用し、長期的な事業基盤を構築する場合には、労働法、社会保険、在留資格、税務及び内部管理体制も同時に設計する必要があります。

したがって、適切な進出法務は、登記申請から始めるのではなく、日本で予定する事業活動を一つずつ分解し、それぞれに適用される法令及び実務を確認することから始まります。

2 日本への主な進出形態――駐在員事務所、支店、日本子会社

外国企業が日本へ進出する代表的な方法として、駐在員事務所、外国会社の日本支店、日本子会社があります。これらは単に名称が異なるのではなく、法律上の主体、営業活動の可否、責任、登記、銀行口座、税務その他の点で性質が異なります。

駐在員事務所は、一般に、市場調査、情報収集、商品購入、広告・宣伝等、本格的な営業開始前の準備的・補助的活動を行うために利用されます。JETROも、駐在員事務所は営業活動を行うことができず、通常は会社法上の登記を必要としないと説明しています。駐在員事務所自体の名義で銀行口座を開設したり、不動産を賃借したりすることも通常困難であるため、長期的な営業拠点として利用するには限界があります。

日本支店は外国本社と別法人ではなく、外国会社の一部です。支店で発生した債務については、原則として外国本社が最終的な責任を負います。日本で継続的な取引を行う外国会社には会社法上の登記が必要となり、支店を設置する場合には日本に住所を有する代表者を少なくとも1名置く必要があります。

日本子会社は、株式会社又は合同会社等として設立される日本法人です。外国親会社とは別の法人格を持ち、外国親会社の責任は原則として出資者としての範囲に限定されます。日本国内の契約主体、雇用主体、許認可主体及び資金調達主体を明確にしやすく、将来の外部投資、JV、事業売却その他の資本政策との親和性も高いため、継続的に日本で事業を展開する外国企業では日本子会社が選択されることが多くあります。

3 株式会社と合同会社――どちらを選ぶべきか

日本子会社を設立する場合、実務上は株式会社(Kabushiki Kaisha、KK)又は合同会社(Godo Kaisha、GK)が中心となります。いずれも出資者の責任が原則として出資額に限定される法人ですが、機関設計、運営方法、対外的認知、資本政策等に違いがあります。

株式会社は、日本において最も一般的な会社形態であり、株式を基礎とした資本構成を持ちます。取締役等の機関設計が会社法上体系的に定められており、将来的な第三者投資、株式譲渡、M&A、ストックオプションその他の資本政策を予定する場合には扱いやすい形態です。

合同会社は、定款自治の幅が比較的大きく、機関設計及び内部運営を柔軟に設計できます。完全子会社として親会社が直接管理し、外部株主を入れる予定が乏しい場合には、合同会社が合理的な選択となることがあります。

会社形態は、設立コストだけで決めるべきではありません。将来の資金調達、役員構成、意思決定、利益配分、持分譲渡、再編、Exit、税務上の取扱い等を踏まえて選択する必要があります。

4 外国会社の日本支店――「簡単だから支店」でよいとは限らない

日本支店は、日本法人を新たに設立しないため、組織構造が比較的簡潔であることが一つの特徴です。しかし、支店は外国本社と同一の法人であるため、日本事業に関する契約責任、損害賠償責任その他の債務が外国本社へ直接帰属します。

また、グループ内の会計・税務、契約締結権限、個人情報・機密情報への本社アクセス、親会社の監査・開示、将来の事業売却等を考えると、日本法人として事業を切り分ける方が管理しやすい場合があります。

外国企業が支店を選択する際には、設立手続の簡便さだけでなく、責任の範囲、日本におけるPermanent Establishmentの税務、許認可、契約、情報管理、撤退時の手続等を含めて判断することが重要です。

5 会社設立・登記――登記簿を作ることではなく、事業の「器」を正しく設計する

日本子会社は法務局への設立登記によって成立します。外国会社の日本支店についても、会社法上必要な事項を登記する必要があります。外国親会社に関する証明書、代表権を証する書類、署名証明、宣誓供述書その他、外国で準備又は認証すべき書類が必要となる場合があります。

設立時に重要なのは、商号、本店所在地、事業目的、資本金、事業年度、役員、代表権、株式又は持分の設計等を、実際の日本事業と整合させることです。特に事業目的は、予定する事業、将来追加する可能性のある事業及び許認可要件を踏まえて設計する必要があります。

なお、日本の会社法上、会社設立自体は極めて小額の資本金でも可能ですが、在留資格、許認可、金融機関との取引、取引先の信用審査、資金繰り等では別の基準が問題となります。「会社法上設立できること」と「実際に日本で事業を運営できること」は分けて考える必要があります。

6 外為法――外国企業の日本進出では設立時から確認が必要

外国投資家による日本法人の設立、株式取得その他の投資については、外国為替及び外国貿易法、いわゆる外為法に基づく事前届出又は事後報告が問題となります。特に安全保障上重要な指定業種を営む企業への投資では、投資実行前の届出が必要となる場合があります。

外国企業が新たに日本子会社を設立する場合でも、事業内容及び投資家属性に応じて外為法上の手続を確認する必要があります。JETROの日本進出フローでも、会社設立前後の手続として外為法上の事前届出・事後報告が位置付けられています。

また、2026年に成立した改正外為法及び関係政省令等は、2027年から外国投資審査制度を大きく見直します。SAKURA法律事務所のLegal Update第11弾で解説したとおり、間接取得、外国政府等の支配・影響、重要技術及び投資後のリスク管理まで審査の射程が広がります。日本進出時には、現在の事業だけでなく将来予定する投資・買収も見据えて外為法対応を設計することが重要です。

7 業種別の許認可――法人を設立しても、事業を開始できるとは限らない

日本では、多くの事業を会社設立だけで開始できますが、一定の業種については登録、許可、認可、届出その他の行政手続が必要です。金融商品、銀行、保険、資金移動、暗号資産、貸金、電気通信、医療、医薬品・医療機器、人材紹介、労働者派遣、旅行、不動産その他の分野では、業法上の規制が事業モデルに直接影響します。

許認可の必要性は、会社名や業界分類だけで決まるものではありません。顧客から誰が金銭を受領するのか、誰の名義で契約するのか、資金又はデータをどこまで預かるのか、誰が専門サービスを提供するのか、広告・仲介・紹介のみなのか、プラットフォームとして第三者取引へどこまで関与するのかといった具体的なビジネスモデルによって判断が変わります。

したがって、新規事業では、法人設立後に許認可を確認するのではなく、サービス設計段階で規制マッピングを行い、必要な許認可と取得までの期間を事業計画へ組み込むべきです。

8 在留資格・駐在員――2025年10月から「経営・管理」の基準は大幅に厳格化されている

外国人経営者又は駐在員が日本で活動する場合には、その活動内容に適した在留資格を取得する必要があります。外国会社又は日本子会社の設立登記が完了しても、それだけで外国人が日本で自由に経営・就労できるわけではありません。

特に在留資格「経営・管理」については、2025年10月16日に許可基準が大幅に改正されています。出入国在留管理庁によれば、新規申請では、原則として1人以上の所定の常勤職員の雇用、法人の場合には3,000万円以上の資本金又は出資総額、経営・管理経験又は一定の学位、日本語能力その他の要件が問題となります。

したがって、日本進出の会社法上のストラクチャーと入管上のストラクチャーを別々に考えるべきではありません。外国人経営者が日本へ赴任する場合、資本金、人員、事業所、事業計画、役割分担を会社設立前から一体として設計する必要があります。

9 オフィスと銀行口座――法的要件だけでなく実体性が問われる

日本での事業拠点については、本店所在地又は支店所在地の登記だけでなく、許認可、在留資格、金融機関のKYC、取引先の信用審査等との関係で実際の事業所としての実体が重要となる場合があります。

特に「経営・管理」の在留資格について、JETRO及び出入国在留管理庁は、独立した物理的な事業所の確保を重要な要素として示しています。単に登記可能な住所を確保すれば十分とは限りません。

銀行口座の開設についても、法人が登記されていれば自動的に開設されるわけではなく、実質的支配者、事業内容、取引予定、資金源、外国親会社その他について金融機関による確認が行われます。設立直後に支払・給与・取引開始が必要な事業では、口座開設に要する時間も事業計画へ織り込むことが重要です。

10 日本企業との契約――英文契約でも日本の実務を無視しない

外国企業が日本で事業を行う場合、販売代理店契約、業務委託契約、ライセンス契約、SaaS契約、NDA、共同開発契約、OEM契約、販売店契約、賃貸借契約その他、多数の契約を締結します。契約書が英語で作成されているからといって、日本法上の問題が生じないわけではありません。

準拠法及び裁判管轄を外国法・外国裁判所と定めることが可能な場面はありますが、日本で行われる雇用、消費者取引、個人情報、許認可その他については、準拠法条項だけで日本の強行的規律を排除できるわけではありません。

また、日本企業との取引では、契約締結権限、印章・電子署名、契約書と注文書・利用規約の優先関係、検収、瑕疵・契約不適合、責任制限、補償、知的財産権、秘密保持、個人情報、再委託、解除、反社会的勢力排除、準拠法及び紛争解決等を実際の取引フローに合わせて設計する必要があります。外国本社のグローバルテンプレートを日本取引へそのまま適用すると、日本の実務又は法令と整合しないことがあります。

11 雇用――日本の労働法は外国企業にも原則として適用される

日本国内で労働者を雇用する場合、使用者が外国企業であるか日本企業であるかを問わず、原則として日本の労働関係法令が適用されます。JETROも、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法等は、企業の国籍又は外国法人・日本法人の別にかかわらず、日本の企業に原則として適用されると説明しています。

労働者を採用する際には、契約期間、就業場所及び業務内容並びにその変更範囲、労働時間、休日・休暇、賃金、退職・解雇等について法令上必要な労働条件を明示する必要があります。外国本社のoffer letterだけで日本の法定明示事項を満たさないケースもあるため、日本向けの雇用書類を整備する必要があります。

また、常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。時間外・休日労働を命じる場合には36協定等の労務管理も必要となります。

12 解雇・人事――海外本社の「at-will」の感覚を持ち込まない

外国企業が日本の雇用法務で特に注意すべき事項の一つが解雇です。海外の一部法域で認められるat-will employmentの考え方は、日本ではそのまま通用しません。解雇には客観的に合理的な理由及び社会通念上の相当性が求められ、これを欠く解雇は無効となり得ます。

人員整理、業績不振、能力不足、問題行動等を理由とする場合も、事実関係、改善機会、配置転換、手続、公平性、就業規則その他を踏まえた個別判断が必要です。外国本社がグローバルなリストラクチャリングを決定した場合でも、日本法人又は日本拠点の従業員について自動的に同じ退職プロセスを適用できるわけではありません。

採用時点から雇用契約、就業規則、評価制度、懲戒制度、退職手続及び人員整理のルールを日本法に整合させることが、将来の労務紛争を予防する上で重要です。

13 社会保険・労働保険――設立後の行政手続を忘れない

日本で法人又は支店を設置し、従業員を雇用する場合、健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険その他について、適用要件に応じた加入及び届出が必要となります。法人化又は従業員の採用に伴い、企業側が各行政機関へ必要な手続を行います。

外国本社が海外の福利厚生制度を提供している場合でも、日本の強制加入制度を当然に代替できるわけではありません。社会保障協定が適用される駐在員等については例外的取扱いが問題となる場合があるため、社会保険労務士、税務専門家等と連携して確認することが重要です。

14 カスタマーハラスメント――2026年10月1日から企業の対応義務が変わる

日本で顧客対応を行う企業は、2026年10月1日施行のカスタマーハラスメント防止措置義務にも対応する必要があります。外国企業であっても、日本で労働者を使用する事業主である以上、国内事業に適用される労働法上の義務を確認する必要があります。

企業は、カスタマーハラスメントに関する方針、相談体制、事実確認、被害者保護、再発防止、プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等を整備する必要があります。店舗、ホテル、EC、プラットフォーム、コールセンター、SaaSサポートその他、海外企業が日本で顧客接点を持つ事業では特に重要です。

グローバルのcustomer conduct policyやanti-abuse policyが存在していても、日本法上必要となる社内相談ルート及び労働者保護を満たすかを別途確認する必要があります。

15 内部通報・コンプライアンス――2026年12月1日施行の改正法を前提に設計する

日本法人又は日本拠点が一定規模となる場合、公益通報者保護法に基づく内部通報制度が重要になります。2026年12月1日には改正公益通報者保護法が施行され、フリーランスへの保護拡大、通報妨害及び通報者探索の禁止、一定の解雇・懲戒に関する推定、刑事罰等の制度強化が行われます。

海外企業がグローバルのSpeak Up Hotlineを運用している場合でも、日本の公益通報者保護法に整合しているかを確認する必要があります。日本の通報情報が海外本社へ共有される場合には、通報者特定情報のアクセス権限、個人情報、調査独立性、従事者指定、利益相反等についても設計が必要です。

コンプライアンス制度は、日本法人の規程を一冊作ることではなく、海外本社の制度と日本法上の義務をどのように接続するかが重要です。

16 個人情報保護法――日本法人がなくても適用される場合がある

外国企業が日本へ進出する際、個人情報保護法、いわゆるAPPIは早い段階で確認すべき法令です。顧客情報、従業員情報、ウェブサイト利用者情報、Cookieその他のオンライン識別情報、決済情報、問い合わせ情報等、多くの事業活動が個人情報又は関連情報の取扱いを伴います。

特に重要なのは、日本法人が存在しなければAPPIが適用されないわけではないことです。個人情報保護法には域外適用に関する規定があり、日本にいる本人へ商品又はサービスを提供することに関連して、その本人の個人情報等を外国で取り扱う一定の外国事業者にも適用されます。

したがって、日本向けウェブサイト又はアプリを海外本社が直接運営する場合でも、プライバシーポリシー、利用目的、安全管理、委託、漏えい対応、本人対応、国外移転等について日本法を確認する必要があります。

17 2026年改正個人情報保護法――成立済みだが、主要部分はまだ施行されていない

2026年7月17日、改正個人情報保護法が公布されました。もっとも、改正法の主要部分は、公布日から2年以内の政令で定める日から施行される予定であり、2026年9月24日時点では、現行法と成立済み・未施行の改正法を区別して対応する必要があります。

外国企業が日本進出時に新しいCRM、HRシステム、マーケティング基盤、AIその他のデータ基盤を構築するのであれば、現行法だけに最適化したシステムを作るのではなく、改正法の施行を見据えたデータガバナンスを検討することが合理的です。

特に海外本社とのデータ共有については、日本から外国にある第三者へ個人データを提供する場合の規律、委託、クラウド利用、本人同意その他の要件を個別に確認する必要があります。

18 知的財産――日本進出前に商標を確認する

外国企業が日本市場へブランド、製品又はサービスを展開する場合、商標、特許、意匠、著作権、営業秘密その他の知的財産を早期に確認する必要があります。特に商標については、日本は先願主義を採用しており、同一又は類似の商標について原則として先に出願した者が登録を受けることになります。

海外で長年使用しているブランドであっても、日本で当然に商標権が認められるわけではありません。日本進出の公表、展示会出展、代理店交渉、プレスリリース等より前に、先行商標調査及び出願方針を検討することが望まれます。

また、日本企業との共同開発、販売代理、OEM、ライセンス等では、既存知財、開発成果、改良技術、データ、ノウハウ、商標使用、契約終了後の取扱い等を契約で明確にする必要があります。

19 BtoC・EC――日本の消費者法と表示規制を確認する

日本の消費者向けに商品又はサービスを販売する場合、消費者契約法、特定商取引法、景品表示法その他の消費者・表示規制が問題となります。通信販売、サブスクリプション、オンライン申込みその他では、ウェブサイト上の表示、契約条件、最終確認画面、返品・解約、広告表現等について個別のルールが適用される場合があります。

消費者契約法は、不当な勧誘による契約取消し及び一定の不当な契約条項の無効等を定めています。外国企業のグローバル利用規約に広範な免責条項又は一方的変更条項が含まれていても、日本の消費者との関係でそのまま有効とは限りません。

日本向けEC又はオンラインサービスでは、英語版Terms of Serviceを日本語へ翻訳するだけでなく、日本の消費者法、表示規制及び実際の購入フローに合わせてローカライズする必要があります。

20 競争法・取引適正化――日本で取引を始めた後のルールも重要

日本における取引では、独占禁止法がカルテル、私的独占、不公正な取引方法、優越的地位の濫用、一定の企業結合等を規制しています。外国企業であっても、日本市場へ影響を及ぼす取引について日本の競争法が問題となる場合があります。

販売店・代理店との価格拘束、競合他社との情報交換、プラットフォーム条件、取引先に対する一方的な不利益、企業結合等は、契約自由の問題だけではなく競争法上の評価を必要とします。

また、日本では2026年にも知的財産取引やサプライチェーン上の取引適正化に関するガイドライン整備が進んでいます。グローバル標準契約を使用する場合でも、日本の公正取引ルールとの整合を確認することが重要です。

21 税務――法務ストラクチャーと税務ストラクチャーを切り離さない

外国企業の日本進出では、子会社か支店かという法務上の選択が、法人税、Permanent Establishment、源泉税、消費税、移転価格、租税条約その他の税務へ影響します。日本法人は原則として日本の法人として課税され、日本支店については外国法人の日本におけるPEとして帰属所得等が問題となります。

また、法人又は支店の設立後には、国税・地方税に関する所定の届出が必要です。JETROも、法人設立届出、外国普通法人となった旨の届出、給与支払事務所等の開設届出等を設立後の手続として整理しています。

SAKURA法律事務所では、会社形態、契約、規制及び取引ストラクチャーの法的検討を行いつつ、具体的な税務判断については必要に応じて税理士・公認会計士等と連携することが重要であると考えています。法務と税務を別々に設計した結果、後からストラクチャーを作り直すことのないよう、進出初期から連携すべきです。

22 紛争解決――日本で取引を開始する前に出口を決める

外国企業が日本企業との契約を締結する際には、紛争が発生した場合の準拠法及び紛争解決方法を契約締結前に設計する必要があります。日本の裁判所を選択するのか、海外裁判所を選択するのか、国際仲裁を利用するのかによって、手続、言語、証拠収集、暫定措置、判決・仲裁判断の執行等が異なります。

日本企業との取引で海外裁判所を選択したとしても、日本国内で財産を差し押さえたり、判決を執行したりする必要が生じる場合があります。反対に、日本裁判所で訴訟を行う場合には、日本語での手続及び証拠提出を前提とした準備が必要です。

契約交渉時には、紛争が起きないことを前提とするのではなく、未払い、契約解除、知財侵害、秘密情報漏えい、製品事故、代理店紛争その他が生じた場合に、どこで、どの手続で、どの財産に対して権利を実現するかを考えておく必要があります。

23 JV・M&Aによる日本進出――新設だけが選択肢ではない

外国企業が日本市場へ参入する方法は、新しい子会社をゼロから設立することに限られません。日本企業とのジョイントベンチャー、日本企業への少数出資又は買収によって、既存の顧客、許認可、人材、販売網、技術その他の事業基盤を取得する方法もあります。

JV又はM&Aでは、会社設立とは異なり、既存債務、労務、許認可、個人情報、知的財産、訴訟、コンプライアンス等に関する法務デューデリジェンスが重要となります。株主間契約では、取締役指名、拒否権、情報権、資金調達、競業、Exit、Deadlockその他のガバナンスも設計する必要があります。

外国投資家による日本企業への投資には外為法上の対内直接投資審査も問題となります。進出方法をgreenfieldの会社設立とM&Aの二択で機械的に選ぶのではなく、事業目的、速度、リスク及びExitを踏まえて比較することが重要です。

24 日本進出後90日で整えるべき法務基盤

日本法人又は支店を設立した後の初期段階では、契約書、社内規程、雇用、データ、知的財産、内部通報、許認可その他の管理が個別に進み、全体像を見失いやすくなります。そこで、事業開始後早期に法務基盤を一度横断的に確認することが重要です。

具体的には、会社登記及び代表権限が実態と一致しているか、必要な許認可が取得されているか、標準契約及び利用規約が日本法に対応しているか、雇用契約・就業規則・労働時間管理が整っているか、個人情報及び海外本社へのデータ移転が整理されているか、商標・知財が確保されているか、内部通報及びハラスメント相談体制が機能するか、紛争時の連絡・証拠保全体制があるか等を確認することが考えられます。

会社を設立した時点を「日本進出の完了」と考えず、最初の売上、最初の採用、最初の顧客データ取得が始まる前後に法務インフラを完成させることが、後の大きな修正コストを減らします。

25 SAKURA法律事務所が考える「Doing Business in Japan」の要諦

外国企業の日本進出支援で最も重要なのは、日本法の論点を一つずつ説明することだけではありません。日本で予定するビジネスの全体像を理解し、会社、契約、人、人材、データ、技術、資金及び紛争のそれぞれについて、誰が権限と責任を持つのかを一つの構造として設計することです。

例えば、外国親会社が契約主体のまま日本の顧客へ直接サービスを提供し、日本子会社は営業支援だけを行うモデルと、日本子会社自身が顧客契約、従業員雇用、データ管理及び売上計上を行うモデルでは、必要な法務対応は大きく異なります。日本進出法務は、法人登記の問題ではなく、business model designの一部です。

SAKURA法律事務所及び代表弁護士 道下剣志郎は、企業法務、M&A、国際取引、IT・AI、個人情報、知的財産、Web3・金融規制、労働、危機管理その他の分野を横断し、外国企業の日本進出及び日本における事業運営を支援しています。海外企業の本社法務部門及び海外法律事務所とも連携し、日本法上の論点をグローバルな取引・ガバナンスの中へ組み込むことを重視しています。

26 よくあるご質問

Q1 外国企業が日本で事業を始める場合、日本法人を必ず設立しなければなりませんか。

必ずしも日本法人が必要とは限りません。準備的・補助的活動に限定する駐在員事務所、外国会社の日本支店、日本子会社等の選択肢があります。ただし、日本で継続的な取引を行う場合には会社法上の登記その他の手続が問題となり、事業内容に応じた許認可、税務、雇用、外為法等も確認する必要があります。

Q2 駐在員事務所で顧客と契約し、売上を計上できますか。

一般に、駐在員事務所は市場調査、情報収集、広告等の準備的・補助的活動を行うための拠点であり、営業活動を行うことは想定されていません。日本で継続的な販売又はサービス提供を行う場合には、支店又は日本子会社等の事業形態を検討する必要があります。

Q3 株式会社と合同会社はどちらが外国企業の日本子会社に向いていますか。

一律にどちらが適切とはいえません。外部投資、将来の株式譲渡、M&A、役員構成等を重視する場合には株式会社が扱いやすいことが多く、100%子会社として簡潔かつ柔軟な内部運営を行う場合には合同会社が適することがあります。親会社の会計・税務上の取扱いも含めて検討する必要があります。

Q4 日本子会社の代表取締役は日本居住者でなければなりませんか。

株式会社又は合同会社の代表者について、会社法上、日本居住者であることが一律に要求されているわけではありません。他方、外国会社の日本支店では少なくとも1名の日本に住所を有する代表者が必要です。また、在留資格、銀行口座、許認可等では別の実務要件が問題となるため、法人登記だけで判断すべきではありません。

Q5 会社は資本金1円でも設立できますか。

会社法上は非常に小額の資本金でも会社設立が可能です。しかし、在留資格「経営・管理」では2025年10月以降、法人の場合3,000万円以上の資本金又は出資総額等が原則として問題となるほか、許認可、銀行、信用、運転資金等でも資本金が重要になります。設立可能額と実務上適切な資本金は別問題です。

Q6 海外本社から日本の顧客へ直接オンラインサービスを提供する場合、日本法は適用されませんか。

日本法人がないことだけで日本法の適用が否定されるわけではありません。例えば個人情報保護法には一定の域外適用があり、日本にいる本人へ商品又はサービスを提供することに関連して個人情報を外国で取り扱う一定の外国事業者にも適用されます。消費者法、業法その他についてもサービス内容に応じた確認が必要です。

Q7 外国本社の雇用契約書をそのまま日本人社員に使えますか。

推奨されません。日本の労働法では、採用時に明示すべき労働条件が定められており、解雇、残業、休日、就業規則、社会保険等についても日本法の規律があります。外国本社のテンプレートを基礎にする場合でも、日本法に合わせたローカライズが必要です。

Q8 日本で商標登録する前にブランドを使い始めても問題ありませんか。

日本は商標について先願主義を採用しているため、先に第三者が同一又は類似商標を出願している場合、登録又は使用に支障が生じる可能性があります。日本進出を公表する前から先行商標調査及び出願を検討することが望まれます。

Q9 日本企業との契約では日本法を準拠法にしなければなりませんか。

必ずしも日本法を選択しなければならないわけではありません。もっとも、日本国内の雇用、消費者取引、個人情報、許認可等には、準拠法条項とは別に日本の強行的規律が問題となることがあります。また、将来の判決執行・証拠・暫定措置等も踏まえて準拠法及び紛争解決条項を設計する必要があります。

Q10 日本進出は新会社設立とM&Aのどちらがよいですか。

事業目的によります。新設は既存債務を承継しない点等で管理しやすい一方、顧客・人材・販売網・許認可等を一から構築する必要があります。M&A又はJVは既存事業基盤を利用できますが、デューデリジェンス及び既存リスクの評価が重要となります。外為法その他の規制も含めて比較する必要があります。

27 代表弁護士 道下剣志郎「Legal Update」について

SAKURA法律事務所では、代表弁護士 道下剣志郎のプロフィールページに「Legal Update」を設け、企業法務、M&A、国際取引、AI・IT、個人情報、知的財産、危機管理、労働、内部通報、Web3・暗号資産その他、企業及び経営者が直面する重要な法律問題について継続的に情報を発信しています。

第12弾となる本稿は、これまでのAI法務、コンプライアンス及び外国投資規制の各論を踏まえ、外国企業が日本市場へ参入する際の法務全体を俯瞰する「Doing Business in Japan」の基幹記事として作成したものです。

今後も、外国企業による日本企業M&A、法務デューデリジェンス、SPA、国際訴訟、外国判決の承認・執行、国際仲裁、オンライン名誉毀損、企業不祥事、Web3・暗号資産その他の分野について、SAKURA法律事務所及び代表弁護士 道下剣志郎の実務経験を踏まえたLegal Updateを順次公開する予定です。

28 外国企業の日本進出に関してご相談いただける事項

SAKURA法律事務所では、外国企業、海外スタートアップ、海外PE・VC、グローバル事業会社その他の日本進出について、進出形態の選択、株式会社・合同会社・支店の法的設計、外為法、業種別規制、契約、雇用、個人情報、知的財産、内部通報、カスタマーハラスメント、M&A、JV及び紛争解決その他の企業法務を支援しています。

日本市場への新規参入だけでなく、既に日本法人又は支店を有する外国企業について、既存契約・社内規程・雇用・個人情報・許認可・コンプライアンス体制を日本法の観点から再点検するご相談にも対応しています。

海外本社のGeneral Counsel、Legal Team、Compliance Team又は海外法律事務所との英語での連携を含め、日本側だけを切り離すのではなく、グローバルの法務・ガバナンスと日本法を接続する形で対応いたします。

29 お問い合わせ

外国企業の日本進出、Doing Business in Japan、日本法人・支店の設立、契約、外為法、許認可、雇用、個人情報、知的財産、M&A、JV、コンプライアンス及び国際紛争その他の国際企業法務に関するご相談は、SAKURA法律事務所までお問い合わせください。

お問い合わせの際には、ご相談内容に「外国企業の日本進出・Doing Business in Japanに関する相談」とご記載いただけますと、担当弁護士へのご案内が円滑です。

SAKURA法律事務所
代表弁護士 道下 剣志郎
〒106-0032 東京都港区六本木一丁目4番5号 アークヒルズサウスタワー4F
電話 03-6910-0692

本記事の執筆・監修
SAKURA法律事務所
代表弁護士 道下 剣志郎

主な参考資料

JETRO「日本での拠点設立方法 / Setting Up Business」(2026年3月時点の法制度情報)

JETRO「1.1 Types of operation in Japan」

JETRO「1.3 Procedures for registering establishment」

JETRO「Investing in Japan Q&A」

出入国在留管理庁「在留資格『経営・管理』に係る上陸基準省令等の改正について」

JETRO「Section 4. Human Resource Management」

JETRO「4.3 Labor contracts」

JETRO「4.6 Rules of Employment」

個人情報保護委員会「Laws and Policies」

個人情報保護委員会「令和8年 改正個人情報保護法について」

特許庁「Trademarks FAQ - First to File principle」

消費者庁「消費者契約法」

消費者庁「特定商取引法」

公正取引委員会「Legislation & Guidelines」

JETRO「Section 3. Taxes in Japan」

財務省「対内直接投資審査制度について」

※本記事は、2026年9月24日時点における会社法、外為法、出入国管理及び難民認定法、労働関係法令、個人情報保護法、消費者関連法令、独占禁止法その他の法令並びにJETRO、出入国在留管理庁、個人情報保護委員会、特許庁、消費者庁、公正取引委員会、財務省その他の公表資料を基礎として、外国企業の日本進出に関する一般的な法的情報を提供することを目的とするものです。個別具体的な案件について法的助言又は法律上の結論を示すものではありません。必要な法人形態、許認可、外為法上の届出、在留資格、雇用、個人情報、税務、消費者法、知的財産その他の対応は、事業内容、投資家属性、契約関係、取扱情報、従業員数、顧客属性その他の事実関係によって異なります。税務、会計、社会保険、登記、在留資格その他については、案件に応じて各専門資格者との連携が必要となる場合があります。また、2026年改正個人情報保護法、2027年施行の改正外為法その他、成立済み・未施行の制度及び今後公表される政省令・ガイドライン等については、実行時点の最新情報を確認する必要があります。

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